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  • 死者107名。福知山線脱線事故はなぜ起きた?『軌道』著者が語る「失敗の本質」

    2019年01月20日
    知る・学ぶ
    ほんのひきだし編集部
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    2005年4月25日、兵庫県尼崎市で福知山線の上り快速電車がカーブを走行中に脱線、線路沿いのマンションに激突し、107名が死亡、562人が重軽傷を負う惨事となった、JR福知山線脱線事故。

    昨年4月に発売された『軌道 ―福知山線脱線事故 JR西日本を変えた闘い』(以下『軌道』)は、事故を起こしたJR西日本と、家族が事故に巻き込まれた“被害者遺族”であり、都市計画コンサルとして同社と関わった淺野弥三一さんとの、13年にわたる闘いが描かれています。

    なぜこのような大事故が起きてしまったのか。また、この事故の“失敗の本質”は、2018年5月に世間を騒がせた日本大学アメフト部の危険タックル事件とも共通点があるようで――?

    「Yahoo!ニュース 本屋大賞 ノンフィクション本大賞」「城山三郎賞」でともに最終選考に残るなど注目を集めている本書について、著者の松本創さんに話を伺いました。

    軌道
    著者:松本創
    発売日:2018年04月
    発行所:東洋経済新報社
    価格:1,728円(税込)
    ISBNコード:9784492223802

     

    JR西日本に原因究明を迫った一人の事故遺族

    ――平成17年(2005年)4月25日朝、西日本旅客鉄道株式会社(以下JR西日本)の福知山線、塚口駅・尼崎駅間で起きた大規模脱線事故。死亡者は運転士を含む107名、負傷者は562名に上り、戦後の鉄道事故で4番目に犠牲者の多い事故でした。

    本書『軌道』は、自身も被害者遺族であり、都市計画コンサルタントとして加害企業のJR西日本に原因究明を迫った淺野弥三一氏の視点から描かれています。彼に焦点を当てた理由は何でしょうか。

    事故から数年経った2012年の春ごろ、淺野さんから「事故後にやってきたことを客観的な記録として残したい」と聞いたのが、直接のきっかけです。

    淺野さんとは、私の新聞記者時代に彼が支援していた尼崎公害訴訟関連の取材で知り合い、その後、彼の事務所が取り組む尼崎再生のまちづくりに関わるようになって、よく事務所に出入りしていました。

    脱線事故の当日、淺野さんの奥さんが巻き込まれたと聞いたときは、ただ絶句するばかりでしたが、これだけの大規模列車事故と、その後の闘いの記録は誰かが残しておかないといけない。

    その役目を自ら背負ったのは、淺野さんから託された思いに応えねばならない、それが自分の責務だと考えるようになったからです。

    ――松本さんから見て、淺野氏はどのような人物でしょうか。

    ひと言でいえば、強固な「個」の意思をもって、技術屋としての「理」を貫いた人。事故以前から災害や公害の現場に軸足を置き、生き方に筋が通っていました。

    一方で、事故遺族として埋められない喪失感を抱きながら、それをうまく表現できない不器用さもある。

    遺族感情を横に置き、「JR西日本を真に安全な企業に生まれ変わらせよう」と、遺族と同社幹部らによる異例の共同検証を実現させるわけですが、そのようなかたちで技術屋の信念と矜持を貫くことが、彼自身にとって「生きる」ことだったのではないでしょうか。

     

    個人に責任を押し付ける構造

    ――本書を読み進めるにつれ、JR西日本の「官僚主義」「無謬主義」「処罰主義」といった組織体制が浮き彫りとなっていきます。

    直接的な事故原因は高見隆二郎運転士(事故当時、23歳)のブレーキ遅れですが、その根底に、ミスを誘発するような組織風土があったことは間違いない。

    「一人ひとりが高い安全意識をもてば、事故なんて起こらない」という精神論的な教育が幅を利かせ、失敗はすべて個人に償わせる懲罰的な仕組みが存在していました。

    安全対策については、私鉄との競争もあって電車の速達化(高速化)を進める一方で、ATS(自動列車停止装置)の設置を先延ばしにしていた。

    スピードアップや余裕時分の全廃、駅停車時間の短縮などを迫られる状況下、「ミスをすれば乗務を降ろされるかもしれない」というプレッシャーをかけられていた。これでは正常な判断力を失いかねません。

    昨年5月、日本大学アメフト部の危険タックル事件が起こりましたが、福知山線脱線事故の状況と酷似していると感じました。

    上からの過剰な圧力により、通常であれば行なうはずのないラフプレイをやってしまった。選手は過酷な精神状態にあったのでしょう。

    しかも問題化すると、監督やコーチは保身からすべての責任を選手個人に押し付けようとした。まさに事故当時のJR西日本における組織のあり方と同じ構図です。

    もちろん、法令違反やモラル違反に対する懲戒は必要でしょう。とはいえ、過剰に上意下達で、懲罰的な締め付けだけでは、現場を追い詰め、ミスを隠蔽させ、結局は正常な判断をできなくさせてしまう。

    ――脱線事故以降、JR西日本は旧経営陣の退陣をはじめとして、安全対策への予算配分と当該部署の権限強化、ヒューマンエラーでは処罰を与えない制度の導入などに取り組みました。同社は「変わった」と評価できますか。

    安全意識の向上や事故に対する捉え方など、一定の成果は出ていると思います。現在の経営陣には、さまざまな環境要因が結果としてヒューマンエラーをもたらすという理解もあります。

    実際、アクシデントによる輸送障害を含め、事故の件数は減少している。豪雨や台風などの災害に備えて、早めに計画運休に踏み切るなど、安全への意識は確実に高まっていると思います。

    一方で、2017年12月に起きた新幹線「のぞみ」台車亀裂問題は、新幹線史上初の重大インシデント(事故などの危難が発生するおそれのある事態)となりました。

    本件では、車掌や保安担当など複数の社員が異変に気付いていたにもかかわらず、現場と司令員とのあいだでコミュニケーションの齟齬が生じ、互いに「相手が判断するだろう」と問題を先送りしてしまった。

    そのようなヒューマンエラーが重なった結果、早期に走行を止めるという判断ができなかったのです。事故から学んだ安全思想や対策を、巨大企業の現場の末端に至るまで浸透させるのは容易ではないと感じています。

    ※本記事は、PHP研究所発行の雑誌「Voice」2019年2月号(1月10日(木)発売)に掲載されたインタビュー「著者に聞く 松本創氏の『軌道』」を一部抜粋したものです。全文は同誌2月号をご覧ください。

    Voice (ボイス) 2019年 02月号
    著者:
    発売日:2019年01月10日
    発行所:PHP研究所
    価格:780円(税込)
    JANコード:4910080590291

    松本創(ノンフィクションライター)
    1970年、大阪府生まれ。神戸新聞記者を経て、現在はフリーランスのライター。関西を拠点に、政治・行政、都市や文化などをテーマに取材し、人物ルポやインタビュー、コラムなどを執筆。著書に、『誰が「橋下徹」をつくったか』(140B、2016年度日本ジャーナリスト会議賞受賞)、『ふたつの震災』(西岡研介との共著、講談社)など。




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