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推理小説を読むように一気に読める――そんな異色の歴史本として注目を集めている『一度読んだら絶対に忘れない世界史の教科書』。
本書の特徴は、世界史の本にもかかわらず、本文には年号がまったく登場しないこと。そして、ヨーロッパ、中東、インド、中国の4つの地域を“主役”とすることで、歴史の流れをシンプルに示し、世界史をひとつのストーリーとしてわかりやすく解説していることです。
著者は、現役公立高校教師としては初めてYouTubeに授業動画を公開し、その再生回数が累計850万回を突破している、ムンディ先生こと山﨑圭一さん。動画でも活用されている、生徒を教える中で生み出された「フレームワーク」を書籍化した本書は、今までにない切り口の歴史本として、高校生から社会人まで幅広い層に読まれています。
そんな本書の魅力について、編集を担当したSBクリエイティブの鯨岡さん、販売担当の藤元さんに、くわしくお話を伺いました。
(右から)
SBクリエイティブ 学芸書籍編集部 鯨岡純一さん
同 営業部 営業1課 藤元佳代さん
――年号がまったく出てこない歴史の本って珍しいですね。
鯨岡 2017年の11月末ごろに、著者の山﨑圭一先生についての新聞記事を読んだことが本書のきっかけになっています。その内容は、YouTube上で授業動画をアップしている、珍しい公立高校の先生がいるというものでした。
その記事を見た後にYouTubeで調べてみると、先生はその時点で500本ほど動画をアップされていて。記事は世界史の授業のことを取り上げていたので、世界史にしぼって7~8本見てみたのですが、一番おもしろいと感じたのは、授業の中に年号が1回も出てこないことでした。
――学生時代の「歴史」といえば、年号を覚えることが最大の課題ですよね。
鯨岡 私も大学受験のときには、年号を語呂合わせで暗記して、そこから芋づる式に単語を覚えていく、というやり方をしていたのですが、山﨑先生の授業はそれと真逆で年号を一切使わない。そうすると、「何年に何が起こりました」といえなくなりますよね。そこで先生は、「なぜこの出来事が起こったのか」「それによって何につながるのか」と、出来事を“数珠つなぎ”にして解説されているんです。
授業をずっと見ていくうちに、年号を使わないことによって「歴史の因果関係や相関関係がより強調される」という感覚が、だんだんわかってきました。
――そこから本づくりがスタートしたわけですね。
鯨岡 私は普段ビジネス書の編集をしていて、世界史の本をつくるのは今回が初めてなんです。同ジャンルの本を調べてみると、年号を使わずに解説している本は、私が見た限りではほかにありませんでした。非常にオリジナリティが高いコンテンツだと思って、先生にすぐに連絡をして、書籍化の提案をさせていただきました。
――本書では、「世界史が暗記科目だというのは誤解」と書かれていますね。
鯨岡 「年号は後から覚えればいい。まずは“あらすじ”を頭に入れちゃいましょう」というのが先生の考え方です。先生は年号を使わないことは別に画期的なことではなくて、年号の暗記は本当に必要ないと思っていらっしゃいます。
それは、ストーリーとして歴史の流れをつかんでおくと、年号は後からでもわりと簡単に覚えられるから。実際に、受験の2か月くらい前に先生が生徒さんに100項目ほどの年号表を渡して、「これを覚えてきて」と言うと、だいたいみんな5日間くらいで覚えてくるのだそうです。
――それも、すでに歴史の流れが頭に入っているからなんですね。そのあらすじが地域ごとにブロック化されて解説されているのも、本書のわかりやすさの秘訣ですね。
この本の一番の肝は、その“枠組み”の部分です。
従来の教科書は学習指導要領に沿った構成になっていて、学ぶ地域や年代がめまぐるしく変わります。もちろんそれにも狙いはあるのですが、結果として歴史の全体像がつかみにくくなってしまう。生徒は理解しにくいし、教えている側の先生も大変で、先生たちはみなさん教え方に悩まれているそうです。
本書のように、それぞれのブロックを串刺しにして、数珠つなぎの形で解説するというフレームワークは、「生徒にどうやって教えたらわかりやすいか」を先生が考えていく中で、ご自身で発明されたものなんです。
▼図H-1が一般的な教科書、図H-2が本書の構成。見比べてみると、本書の“ストーリー”が直線的なことがわかります。
――山﨑先生の手法は、教員の方からの反響も大きいそうですね。
先生の授業動画の視聴者は6割強が高校生、残りの4割弱が大人なのですが、その中には教育関係者の方たちが多くいます。
授業動画もこの構成に基づいているので、「わかりやすい」「使わせていただきます」と教員の方たちからも高い評価を得ています。イベントなどには教員の方はもちろん、これから学校の先生になりたいという人たちも参加されているんですよ。
――各章にはそれぞれ地域ごとの【見取り図】も入っていて、そこでも大枠の流れをつかむことができますね。
鯨岡 見取り図は、その章のキーワードを図式化したものです。この図にも年号は入っていないので、歴史本を見慣れている人には違和感があるかもしれません。
こういった図も年号が入っていると、単に「時系列に並んでいるだけなんだな」と読み飛ばしてしまいがちですが、単語だけ羅列されると、「どういう流れでこういうふうに並んでいるんだろう」と疑問が湧きますよね。その疑問が、続く本文の中でストーリーとして解説されるので、この見取り図で、本書の世界観をおわかりいただけるのではないかと思います。
▼【ヨーロッパの歴史】の見取り図
――確かにキーワードそのものに目がいくと、ポイントがつかみやすいですね。図で確かめながら本文を読むと、歴史の流れがより整理されて頭に入りそうです。
鯨岡 この形で図解した本は、私たちが知る限りでは本書だけだと思うのですが、実は歴史に詳しい人の大局観は、もともとこうなっているんです。読者からも「世界史を繰り返し勉強していくと最終的にたどり着ける見かたを、この本は最初から教えてくれる」という声をいただいています。
これは山﨑先生と発売前から想定していた感想でもあって、逆に歴史好きの方にはある意味当たり前の歴史観でも、これまで言語化・体系化されていなかったことを本にしたらニーズがあるのではないかと考えていました。
――歴史が苦手という人も、世界史の流れを大づかみできるということですね。実際の読者はどういった層が多いのですか?
藤元 まず女性が多いというのがこの本の特徴ですね。一般的な歴史本だと男性読者の割合がかなり多くなっています。年齢は高校生から社会人まで幅広く読まれていますが、40~50代の方が中心です。(※グラフは日販 WIN+調べ)
――受験生の親御さんが多く買われているということでしょうか?
鯨岡 もちろんそれもあると思います。しかし先生は、ご自身が教えてきた中で、「世界史を学びたいけれど、難しいし、わかりにくい」と思っている人たちは世の中にたくさんいるはずだと感じています。
授業動画のコメント欄にも、大人の方の書き込みが目立ちます。「社会人になって、海外旅行や出張に行ったり、新聞をちゃんと見るようになって、世界史を学ぶ必要性を改めて感じた」と。この本を多くの方に手にとっていただいたことで、実際に歴史を学び直したいという潜在的な需要が多かったことを実感しました。
藤元 併買されている書籍を見ても、歴史の本はもちろん語学書や人文書、健康教養書など、大人の学び直しも含めた知識・教養ジャンルの本が目立ちます。本書はまさに、そういう知識欲のある大人のニーズにマッチしたのだと思います。
――そういった読者に届けるために、特に工夫された点はありますか?
鯨岡 本書は山﨑先生にとって初の著書ですし、私も歴史本を作るのは今回が初めてなんです。その分、歴史や学参をメインにしている編集者はあまりやらないことをやっているかもしれないですね。
この表紙のカバー案が上がってきたときにも、書店さんに実際に持っていって、歴史書のところに置いてみたのですが、めちゃくちゃ浮いていて(笑)。著者の実績や本書のコンセプト、内容には自信があったのですが、実際すごく悩みました。
藤元 YouTubeっぽいデザイン案もありましたし、いままでの世界史の本や教科書にはないものをと、ひとつひとつ考えていった結果がこのつくりになっていますね。
鯨岡 本文も章ごとに色分けしているので、エリアと色が結びついて、地域の切り替えがわかりやすい、目当ての場所が探しやすいという声をいただいています。100ページ弱の本で色分けするのはビジネス書でよく使われる手法ですが、この本のように350ページある歴史の本ではあまりないことかもしれません。
▼本の天地や小口も色分けされているので、目当ての章が探しやすい。カラフルでポップな色合いが従来の歴史本とは違った印象。
――受験生から学び直しの大人まで、さまざまな層の人が活用できそうですね。
鯨岡 いま世界史で苦労している生徒さんや、学生時代に世界史を「年号や人名、出来事をひたすら暗記するだけのつまらない教科」だと思っていた人たちにこそ、一度本書を読んで、歴史のおもしろさを感じていただきたいですね。
藤元 大人になってから美術館や海外旅行に行ったり、小説を読んだりして、「歴史的なバックグラウンドがわかればもっと楽しいのにな」といった思いを持っている人にもおすすめです。
【目次】
ホームルーム(1)世間に知られていない 教科書の”ある弊害”
ホームルーム(2)世界史がデキる人だけが知っている「フレームワーク(枠組み)」がある
ホームルーム(3)世界史は、年号を使わずに学べ!序章 人類・文明の出現
1章 ヨーロッパの歴史
2章 中東の歴史
3章 インドの歴史
4章 中国の歴史
5章 一体化する世界
6章 革命の時代
7章 帝国主義と世界大戦
8章 西アジア・南アジアの近代史
9章 近代の中国
10章 現代の世界