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2018年のノーベル平和賞は、医師のデニ・ムクウェゲさんと人権活動家のナディア・ムラドさんの2名に授与されました。
その一人、ナディアさんは、かつてイスラム国の性奴隷として囚われ、性暴力の被害に遭っていたことを公に語り、未だ囚われている同胞の解放や、イスラム国に対する正義の執行を求め活動を続けています。
その彼女が、自分の性奴隷としての経験、そして虐殺の過去を克明に語ったのが『THE LAST GIRL イスラム国に囚われ、闘い続ける女性の物語』です。
自らが被った壮絶な体験の記述とともに、二度とこのような悲劇が起こらないように、という祈りが込められた本書は、彼女のノーベル平和賞受賞の後押しになった書籍といえます。
それは、性暴力の被害者として彼女が経験し、考えたこと、それを公にしても訴えたいこと、それらがすべて、自分自身のことばで語られているためです。
本書を読むことは、ナディアさんという一人の物語に圧倒される体験でもあります。
ナディアさんがもともと暮らしていたのは、イラクの北部にある小さな村。
彼女の属する「ヤズィディ」という共同体は、周囲のムスリムなど他宗教の人々からの差別や抑圧を受けつつも、平和で地に根付いた暮らしを送っていました。
しかし、2014年8月にイスラム国が侵攻。男性や老人は殺害され、小さな子どもは洗脳されイスラム国の戦闘員へ、そして若い女性は囚われて性奴隷にさせられました。
当時21歳だったナディアさんは、家族を殺され誘拐されます。むりやり改宗させられた上、日々「持ち主」の好きなように殴られ、強姦され、そして売買されていきます。
イスラム国戦闘員の振る舞いは、およそ同じ人間に対して行なう仕打ちとは思えず、読み進めながら心を痛めずにはいられません。
本書では、イスラム国だけでなく、傍観者たちにも目が向けられます。女性達がオープントラックで運ばれ、泣き叫ぶ姿を目撃しているのに、不自然なまでに平穏な町の姿。
ナディアさんはかれらに「イスラム国に立ち向かえというのは要求が過ぎるのだろう」と認めつつも、自分たちを見殺しにした町の人々に対して、心の中で憤怒の思いに駆られます。
イスラム国の戦闘員たちに毎晩のようにレイプされる若い女性が乗っているのだと思いながら、どうしてバスを見過ごすことができたのだろう?……私は、同じような目に遭っている何千人のなかのひとりでしかない。
(本書P.287より引用)
本書は、気楽で、手軽な読書体験とはならないでしょう。しかし、ナディアさんという一人の人間の経験や思い、強さに圧倒され、胸を打たれる希有な体験となることは間違いありません。
「この世界で私のような経験をする女性は、私を最後(ラストガール)にするために」。
この一節は、世界から性暴力をなくし、安全な居場所をつくるという、彼女が訴えるメッセージそのものです。
本書を読む中でこの一節に出合ったとき、そこに彼女が込めた思いに、心を揺さぶられることでしょう。