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夢眠書店開店のため、出版業界の色々な方にねむちゃんがお話を伺いにいくこの連載。今回のテーマは復刊です。
昔から古い本が好きだというねむちゃん。最近知人から『のらくろ』の復刻版をもらったことで、復刊という世界があることを知りました。一度世の中から消えてしまった本が復刊される現場とは、一体どんなところなのでしょうか。
澤田勝弘(左)株式会社復刊ドットコム 編集部 副編集長(昭和のカルチャーが大好きです!)
印口 崇(右)同 編集部 編集担当(幅広い分野・世代の漫画の復刻を手がけています)
夢眠ねむ(以下、夢眠):私はかなり前から田河水泡さんの作品が好きなんですが、この方の本は高価で、ずっと欲しかったけれどなかなか手が出なかったんです。それが先日知人から『のらくろ放浪記』のカラー復刻版をもらって、そこで復刊の存在を知りました。その本を発売されたのが復刊ドットコムさんなんですよね。今日は色々と教えてください!
夢眠:それではさっそくお伺いしますね。そもそも復刊する本って、どのように決めるんですか?
澤田勝弘(以下、澤田):復刊ドットコムのWebサイトには「復刊リクエスト」の機能があるんですよ。なので、まずはそこでリクエストしてもらいます。リクエストが一定数集まったら、その本の出版権をもっている方に復刊の交渉をしにいくという流れですね。
夢眠:なるほど。ということは、リクエストがない本は復刊されないんですね。一定数とはどれくらいですか?
澤田:100票を基準にしていますが、リクエストの多かったものだけが復刊されるわけではないんです。私たち編集者が興味のあるものに随時アプローチするという形式もとっています。
夢眠:声が集まったら、次は出版権を持っている方を説得するという仕事がありますよね?
澤田:そうですね。
夢眠:私のイメージだと、それが一番大変そうだなと思いまして。色々な権利をクリアにしていかなくてはならないという……。
澤田:まさにそうです。いわゆる“本の探偵業”みたいな側面がありますね。
夢眠:今権利を持っているのが誰なのかを明らかにするところから始まるんだから、大変ですよね。実際に復刊本を出すまで、かなり時間がかかるんじゃないですか?
澤田:ケースバイケースですね。作家さんが分かっている場合は楽ですが、昔の本には権利関係が緩いものが多いんです。たとえば「作者:夢眠ねむ」としか書いていないことがあるんですよね。それを一つずつ当たっていくのが非常に大変です。
夢眠:そういうときは「大体この人だろうな」と思うところから確認していくんですか?作風の似ている本を手がかりにしたり……。
澤田:そういうのもありますし、本をよーく見ると実は書いてあったなんてこともありますよ。
夢眠:まさに探偵ですね! 以前この連載で文芸の編集をしている方にお会いしたんですが、それと比べると特殊な作業ですよね。
澤田:確かに特殊な部分はありますが、「著者にアプローチする」という部分は通常の編集と変わりません。ただ探すのが個人情報なので、いろいろ難しいところはありますね。
夢眠:「復刊してほしい」という声を受けて制作するということでしたが、読者の数は大体想像がつくものなんでしょうか?
澤田:需要があった本を復刊した場合は、目に見える形で反応を得られることが多いですね。逆にリクエストが集まったものではない、編集部が自ら選んだ本を復刊する場合は、半分僕らの趣味みたいなものなので(笑)、出してみないと分からないです。なので、自分たちで営業やPRをします。このあたりは他の出版社と同様ですね。両輪で動いている感じです。
夢眠:リクエストが多かった作品と自分たちの趣味で出した作品について聞きたいんですけれど(笑)、『のらくろ』はどっちだったんですか?
〈ここで、復刊ドットコムで営業を担当している篠原京子さんが参加してくださいました〉
篠原京子(以下篠原):『のらくろ』は投票が多かったと記憶しています。
夢眠:嬉しい! 私が投票したわけではないですが……(笑)。
篠原:『のらくろ』は戦前のものと戦後のものがあって、今回復刊したのは戦後のものですね。
夢眠:前回偕成社さんに伺って、そのとき「昔と今では言葉の表現ルールが違う」という話を聞いたんです。復刊する場合はどう折り合いをつけるんですか?
澤田:今売っていないのには、やはり理由があるんですよね。たとえば差別的な表現・描写が含まれていたりとか。でも僕らは断りを入れたうえで、あえてオリジナルの形で出すことに重きをおいています。
夢眠:復刊というくらいだから「元のものが見たい」という気持ちはやっぱりありますよね。『のらくろ』もいきなり首を吊り始めたりとなかなか刺激的な内容ですけれど、当時読まれていたままのものを読めるのは嬉しいです。
そういえばオールカラーの作品を復刊するときって、色味は調節しているんですか?そういう作業も復刊ドットコムでされているんでしょうか。
澤田:調節は特にこちらではやっていないです。印刷技術が昔に比べて格段に向上しているので、実際に見比べると違う部分はありますが、あまり遜色ないと思います。
夢眠:すごい!私、絵画みたいに修復しているのかと思っていたんですよ。元の原稿が見つかっても、シミがついていることもあるでしょうし。「こんなにきれいに残ってるの!?」って、『のらくろ』を読んでいてびっくりしたんです。
澤田:シミがついていることはありますね。そういうときは、印刷所でスキャンしてもらった後にこちらで見てクリーンアップします。
夢眠:他の出版社ではしない作業がとんでもなく多いですよね。
澤田:そうかもしれないですね。
夢眠:他に復刊リクエストが多かった作品には、どんなものがありますか?
澤田:たとえば『少年同盟』ですね。これは貸本専用だったので保存状態がよくなかったんですよ。ボロボロの貸本から版を起こしました。
夢眠:わあ、見せてください! これはもともとカラーだったんですか?
澤田:そうです。
夢眠:すごーい!
澤田:でもマニアの方だと、これだけでは満足してくれないんですよ。実は『少年同盟』には、貸本から省いてしまったページがあるんです。省かれたページをうちでオリジナル小冊子にして補完したんですが……。
夢眠:えー! 抜け落ちたページがあるかどうかって、どうやったら分かるんですか?
澤田:それはねー、くわしい方がいるんですよねー(笑)。
――逆に他の出版社の編集担当がやっていて、復刊ドットコムではやっていない仕事というのもあるんですか?
夢眠:すでに原稿があるから「先生、原稿遅れてます!」とかはないんじゃないですかね!(笑)
澤田:そもそも編集の仕事は、読んで字のごとく「集めて編む」ことです。なので、文芸誌のような雑誌でも僕らみたいな復刊でも、おおよそは変わらないと思います。ただ僕らの場合はあくまで復刊なので、もともとあったものをベースに「どういう形で今の世の中で蘇らせるか」を考えるのがメインの仕事になりますね。
ただ先ほど話に出てきたように、リクエストやデータに基づいて本を作るので、ある程度読者層が見えるというのはありますね。部数は少ないですし、値段も高くなってしまうんですけれど。
夢眠:本を見せていただいて「これってたぶん、ファンが頑張って自分でやるようなところを手助けしてくれているんだろうな」と感じました。マニアの方がコツコツ集めたり、趣味で学んだりしていたところを、こうやってちゃんとしたパッケージで作ってくれていますよね。すごく親切な出版社だなと思いました。
澤田:普通の出版社は、もちろんマーケティングはしていらっしゃいますけれど、おおむね不特定多数の読者に対して本を出すというやり方なんですよ。だから見込みと実際の部数には乖離が生じてしまうんですよね。僕らはデータをもとにある程度予想してから作るので、たとえば夢眠さんにとっては全く興味がない6,000円の高額な本でも、買ってくれる人はいるんですよ。
夢眠:それはすごく感じます。「いくらお金を出しても欲しいのに、どうやっても手に入らない」という状況は、私にとっては絶望的です。現物がないものに対しては、何も行動できないじゃないですか。私は杉浦茂さんの作品もすごく好きなんですけれど、やっぱりどうしても全部後追いになってしまうんです。だからあらためて出版してもらえると、自分が好きな本を他の人に勧められるので嬉しいです。
それに復刊本って、値段は高くてもその分価値があるんですよね。きっと泣いて懐かしむ人がいっぱいいるんだろうな。(『怪獣ウルトラ図鑑』を見ながら)ランドセルに入れてボロボロになるまで読んでいたような人たちが、これを嬉しそうに本棚に並べる姿が目に浮かびます。あ、カネゴンのお腹! これ知ってる!
澤田:こういう本って、ほとんど残っていないんですよ。発行された当初は読者は子どもなので、それこそランドセルに入れてボロボロにしたり、失くしちゃったりしているんです。でも読者の記憶にはちゃんとあるので、こうやってきれいな状態のものを出版すると、やっぱり40~50代の人が買ってくれるんですよね。部数は少ないですが、そういう人たちに確実に届けられるのも復刊の役割だと思うんですよ。
夢眠:本って、人の記憶に残って人生を左右するところがありますよね。それを大人になってからも手に取れるって、贅沢だなと思います。
とはいえ図鑑や漫画だと、原本を見つけても散り散りになっているんじゃないですか? そうすると正しい掲載順番にするのも一苦労ですよね。文章だけなら原稿やデータが残っているかもしれませんが……。デザインも原本と大きく違ってはいけないし。でも、全く変えないわけではないんですよね?
印口崇(以下、印口):これは原本のままですよ。
夢眠:変えないんだ!
印口:原本のままやらないと、ファンは怒ります(笑)。
夢眠:そうですよね! でも、どうしてもページが抜け落ちてしまうこともあるんじゃないですか?
印口:古い作品だと、原稿が全て揃っていないことが多いですね。その場合は図書館などに行って原本を探します。
夢眠:そうか。元のものがないと話にならないですよね……。
――今復刊の依頼が多いのはどんな本ですか?
印口:ゲームに関する本が多いですね。設定集なんかは人気があります。うちは「復刊ドットコム」という名前ですけれど、復刊ばかりでなく新しく編む本もあるんですよ。こちらの『もも子探偵長』は集英社の「りぼん」で55年前に連載されていた漫画なんですが、実は単行本にしたのはうちが初めてなんです。作者の鈴木光明さんは既に亡くなられているんですが、幸い原稿がほぼ全ページ揃っていたので単行本にできました。昔あった本を復刊するだけでなく「過去に出ていなかったものを単行本として編んで刊行する」ということも、ずいぶんやっています。
夢眠:「懐かしいけれど見たことはない」「ファンもまだ持っていない」というものですね。本当だ、線の太さが全然違う!(隣にあった『ワンダー・AZUMA HIDEO・ランド』を手に取って)この吾妻ひでおさんの漫画は、『ポスト非リア充のための吾妻ひでお』(河出書房新社)で表紙をやらせていただいたときに読みました。どの本もファン待望ですよね。
世の中に復刻が求められている本を探し、次に著者や権利元を探す。そしてできるだけ当時そのままの形になるよう出版する……。夢眠書店開店日記も回を重ねて6話目まできましたが、今回のお仕事もとっても面白そうです。次回は復刊の仕事についてさらに深くお聞きしていきます。お楽しみに!