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子どもの頃からのお気に入りだった加古里子さんの絵本を軸に、絵本作りについて学んでいるねむちゃん。第5話「大好きな絵本ができるまで ―編集者ってどんな仕事?(絵本編)」では、児童書出版社である偕成社の千葉さんにお話を伺っています。今回で、千葉さんとの対談は最後。「私たちにとって、絵本ってどんな存在だろう?」というお話から、夢眠書店での絵本選びにアドバイスをいただきます。
今回の対談相手
千葉美香 株式会社偕成社 編集部
PROFILE
大学卒業後、偕成社で雑誌の編集部を経て、単行本の子どもの本の編集に携わる。いつまでも3歳の心を忘れずに(!)、日々おもしろいものを探し続ける。
夢眠ねむ(以下、夢眠):今回取材させていただいているこの部屋みたいな空間が、実家の一角にありました。母がすごく本好きで、本だったら何でも買ってくれたんです。他の物は全力でおねだりしないと買ってもらえなかったんですが(笑)。
千葉美香(以下、千葉):いいお母様ですね。子どもって、赤ちゃんの頃から絵本に触れていると、絵本が分かるんですよ。まだハイハイしているときでも、絵本を開くと違う世界が出てくることが分かるんです。逆に、3歳頃にいきなり絵本を渡すと「これ、なあに?」となってしまう。
夢眠:生まれたての頃から絵本に触れ合わせた方がいいんですね。
千葉:家に絵本があるって、すごくいいことだと思います。はじめは舐めるだけでもいいけれど、いつも手に届くところにあると、それから先の色々なことにつながるので。
夢眠:悔しかったのは、絵本の裏表紙にお姉ちゃんの名前が書いてあったことです。大好きなのに、絵本は私のじゃなくてお姉ちゃんのものなんだということが悔しかったんですね。きっと保育園に持って行ったときなんかに書いたんだと思うのですが、それがトラウマで、「大きくなったら欲しい本は自分で手に入れてやる!」という意識が芽生えました(笑)。
千葉:いいですねえ。
夢眠:でも今は、古本屋さんに行って名前が書いてある絵本を見つけると、ほっこりするんです。「誰かの大切な本だったんだな」と思うようになりました。基本的には本は新しいものを買いたいんですけれど、絵本って、ボロボロになればなるほど役割を果たした感じがするところが素敵ですよね。絵本で見たことや感じたことが、その先の人生につながっているという感じもあって、みんなの「種」になっている気がします。
千葉:まさに「種」ですね。絵本で見たことがきっかけで、気になる方に世界が広がっていくという。……ねむさん、『にんじんばたけのパピプペポ』という絵本はご存知ですか?
千葉:この絵本は、ある図書館の館長さんが、子どもの頃に大のお気に入りだった一冊なんだそうです。「みんなで得たお金で公共のものを作る」という結末のお話なんですけれど、その館長さんが「その結末が素晴らしかった、だから僕は公務員になったんです!」とおっしゃっていたのが面白かったです。「本が好きだから」ではなくて「公務員になりたかった」というところもそうだし、結果として図書館の館長さんになったのも面白いですよね。
夢眠:この絵本の図書館に建て替えてほしいですよね(笑)。
千葉:絵本がそういう人を作る種になっているのって、いいですよね。
夢眠:そうなんです。だから私、お母さんになったとき責任重大だなと思っているんです。「何を買ってあげたらいいだろう?」って。
千葉:生まれて数か月の赤ちゃんでも、3冊違うタイプの絵本を見せると、その中に「これ」というものをちゃんと見つけるんですよ。絶対に好みがあるし、子どもにはたくさん選択肢を与えてあげるといいと思います。
夢眠:そのときに、自分で選ばせてあげればいいんですね。
千葉:そうですね。だからこそ、新しい本を作っていく必要があるんです。
夢眠:確かにそうですね。
夢眠:そういえば、絵本も時代に合わせて変わってきているんじゃないですか?昔は構わなかったけれど今は使えない言葉があるとか。決まりも変わってきていますよね。
千葉:例えば、タバコを吸ってるシーンは今はNGですね。ただ、一方ですごく不思議なのは、ロングセラーの絵本だと装丁も内容も40年前と同じなんですよ。あるデザイナーさんにも、何十年経っても同じ形で出続けているのがすごいと驚かれました。大人の本だと今風のカバーに変わったりするので、あまりないですよね。でも、子どもの本のロングセラーは、昔のままがほとんどです。
夢眠:私が絵本を見て「懐かしい!」ってダイレクトに思い出せたのは、変わっていないからですね。
千葉:大人が自分の子どもに絵本を選ぶときに「あっ、これ!」って思い出すのは、変わっていないということが大きいと思います。
夢眠:私、自分の子どもには、自分が好きだった本も、新しい時代に見つけた本も買ってあげたいです。お母さんがしてくれたように、自分もしてあげたい。そうすると、やっぱり作り続けないといけないですね。
千葉:10冊新刊を出したとして、10冊とも10年後まで残すというのは難しいかもしれませんが、何冊かは10年後にも残るようにと思って作っています。
夢眠:出版し続けられなかった本も、誰かにとっては大切な本ですもんね。
千葉:そうなんですよ。
―千葉さんからねむちゃんに、おすすめの本はありますか?
夢眠:(千葉さんが答える前に)この4冊は夢眠書店に並べたい!(からすシリーズを指して)
―POP、書きたいでしょ(笑)。
夢眠:書きたい!……でも、思い入れが強くて書けないかも。千葉さんが今一番かわいがっているのは、どの作品ですか?
千葉:みんなかわいいです(笑)。なので、ちょっと変わったシリーズをご紹介しますね。これは、アスペルガー症候群の女の子が「自分のことを分かってほしい」という思いで書いた本です。
千葉:病気や障害があっても、周りの理解があれば生きやすくなると思うんです。周りが全く知らないと、ただのわがままな子に見えて、先生に怒られてしまったりする。でも、子どもの時代から色々な子がいると知っていれば、「この子はこういうのが苦手なんだな」と分かりますよね。
夢眠:この本、その女の子本人が書いているんですね。自分をこんなふうに見つめられるってすごいなあ。
千葉:目の見えない子のための本も作っています。「ノンタン」シリーズの中でも、これは触れて分かる本になっています。
夢眠:点字の部分だけではなくて、絵のところも触れるようになっているんですね。
千葉:目の見えない子にも同じ本を楽しんでもらいたいと思って、そうしました。
夢眠:自分が子どもの頃には考えもしなかったですが、読むのが難しい子にとっては、本当に宝物ですね。
千葉:この『点字つきさわる絵本 はらぺこあおむし』ができたとき、盲学校に寄贈したら、子どもからお手紙がきたんです。「隣の小学校に行ったときにお話を耳で聞いたことがあったので『はらぺこあおむし』のストーリーは知っていましたが、さわる絵本で、初めてどんな絵本なのかが分かって、とても嬉しかったです」と。
夢眠:「オレンジ5つ食べました」というシーンを、触ることで「このページにはオレンジが5つ並んでいるんだな」と体感できたということですね。ただ言葉だけ聞いても、その情報だけしか受け取れないですもんね。私にとっても、ここはとっても印象的なページです。このページ好きなんですよねえ。食べ物が並んでるのが好きなだけなのかな(笑)。でも、「カップケーキはアルミホイルに入ってるんだな」とかが絵で分かるじゃないですか。「はらぺこあおむしは、ここを食べたんだな」とか。
千葉:目の見えない子は、本屋さんに行っても、全部ツルツルだからどんな本か分からないんですよね。だから、こういう本が知るきっかけになればと思っているんです。でも、見えない人だけではなくて、たくさんの子どもに“触れる絵本”というものを面白がってほしいとも思います。
夢眠:「目の見えない子に伝えるにはこういう方法があるんだ」ということが分かるきっかけになるといいですよね。
千葉:小さい頃から目が見えないこと・耳が聞こえないことを「かわいそう」と思うのではなくて、他のところでもっとすごい力を持っているし、教えてもらうことがたくさんあるんだということを伝えられたらいいですね。
夢眠:「かわいそう」と思わせずに伝えられるところがいいです。
千葉:何気ない大人の一言で「かわいそう」と思ってしまうことも多いんですよ。だから、子ども自身の先入観のない感性を大切にしたいです。先ほどまで話していた絵本とは全く違うタイプですが、「絵本にはこんな世界もあるんだよ」ということでご紹介してみました。
―夢眠書店へアドバイスをいただけますか?
千葉:先ほども言いましたが、子どもには選ぶ楽しさを知ってほしいので、幅広く、色々な本を取り揃えた書店さんにしてほしいです。
夢眠:閲覧スペースのような「見ていいよ」という空間が作れたら嬉しいですね。大きい『からすのパンやさん』とか、置きたいな(笑)。
千葉:ぜひ大人買いしてください(笑)。
夢眠:買える……(笑)。大人になってよかった!
各話最終回で恒例となった直筆POPはこちら!今回は『これ、なあに?-目の見えない子も見える子もみんなで楽しめる絵本』でPOPを書いてくれました。
感想
絵本は、多くの人が一番初めに触れる本です。そして、その先の人生に多大なる影響を及ぼすであろう絵本は、愛情たっぷりに作られていました。文章と絵の寄り添い方、きっと大人より鋭い感覚であろう読者の声。何度も読んだ絵本の思い出は、子どもの頃のまま止まっていたりするけれど、それをそのまま受け入れてくれるロングセラーが本屋さんにはあって、それに続くたくさんの新作にも心躍って。お母さんになったら責任重大だけど、それまでは自分のために絵本コレクションを増やしたいな(笑)。
絵があって、文がついているのが絵本。でも、子どもの頃から長い間触れ合う存在だからこそ、ただ見て読んで楽しいだけではなく、どんな子どもも楽しめる絵本や、子どもの心を育てるきっかけになる絵本が必要なんですね。今回で千葉さんとの対談はおしまい。次回は、絶版や品切れの本を復活させる「復刊ドットコム」さんにお邪魔します。お楽しみに!