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2月24日(土)に発売された『企画のメモ技(テク)』『没頭力』という2冊の本。
前者は“売れる企画”を生み出し続けるための仕組みを紹介する一冊、後者は「ワクワクした気分で目覚めて、夜に満ち足りて眠る=上機嫌で過ごす」ための仕組みについて書かれた一冊です。
一見異なるように見えるこの2冊は、実はたくさんの共通点を持っていました。
そこで今回は著者のお二人に、お互いの本を読んでもらったうえで対談をセッティング。“共通点”をはじめ、本について感じたことをたっぷり話していただきました。
吉田:もう一つ聞きたいことがあるんですが、高橋さんってマーケティングはするんですか?
高橋:最終的にはしますよ。
吉田:最後なんですね。
高橋:マーケティングは「市場があるか」から始まって、企画というゴールに辿り着くわけですけど、僕の場合はネタを考えるところから始めて、マーケティングの手順を逆走することで、売れる企画かどうかを確認していくんです。
吉田:「本当にやるのか」を判断する時に初めて、マーケティングを意識するんですね。
高橋:「自分が欲しい」というのがまずあって、企画を考えたら、最後に「ニッチすぎないか?」「価格設定は適切か?」といったことを確認して調整していく。自分一人の資金でやるなら利益が出なくたっていいかもしれないですが、ビジネスだとパートナーがいるので、損させちゃいけないじゃないですか。そうなると“職業人”としての僕が顔を覗かせる。「買ってくれる人が本当に10人しかいなかったらヤバいぞ」と。それで周囲の人にヒアリングしてみたり、どうやって並べたらいいか、どういうふうにメディアで取り上げてもらうかを考えていくんです。逆に「自分一人でやるプロジェクト」っていうのもありますよ。それは単純に「自分が面白いと思うものを作る」、それだけです。
吉田:一人でやるプロジェクトでは、どんなものを作ってるんですか?
高橋:カードゲームが一番多いですね。民芸スタジアム※もそうでした。今作っているのはグーチョキパーに2つ手を追加した、「グーチョキパーダラピン」という、5種類の手でするじゃんけんのカードゲームです。駆け引きを楽しむゲームで、理系の人は特に燃えるんじゃないかなと思います。
※特殊能力を持った47都道府県の民芸品をバトルさせるカードゲーム。
吉田:なんていうか、「カイジ」みたいなゲームですね(笑)。
高橋:あとは「@DIME」というWebサイトで「高橋晋平の憂鬱な月曜日を楽しくする研究会」という連載をやっていて、「月曜クラブ(通称:月ク)」というコミュニティを立ち上げたり。Web連載は、お坊さんとか忍者とか山伏に「月曜が憂鬱なんですけど、どうしたらいいですか?」って聞きに行って、アドバイスをもらうという内容です。
吉田:待って待って。お坊さんと山伏まではギリギリわかるけど、忍者がわからない(笑)。
――そもそも忍者は実在するのかっていう(笑)。
高橋:ぜひ読んでください(笑)。くわしくは割愛しますけど、僕、忍者=戦闘っていうイメージがあったんですよ。手裏剣を投げたり、忍法を使って戦ったり。でも忍者の本質は「諜報部員」なんです。だから火遁の術も水遁の術も手裏剣も、全部「生きて帰る」ことを最優先事項とした、逃げるための手段なんですよ。手裏剣って、投げて攻撃すると思うでしょう。でも持ち運べる手裏剣の数は限られているし、そもそも全然当たらないからものすごく効率が悪い。実際は手の中に隠し持って、隙をついて逃げるための道具なんだそうです。だから忍者からのアドバイスは、「とにかく逃げろ」「逃げる方法はたくさんある」。
吉田:いや~、面白い! 絶対読みます!(笑)
高橋:そういうふうにして「月曜を憂鬱でなくするにはどうするか?」っていう知恵を集めて、皆で共有してるわけです。それ自体はビジネスでも何でもないけれど、僕をはじめとして月曜が嫌いな人は世の中に大勢いるし、そこにアプローチすることで何かが起きるんじゃないかという、そういう動機で始めました。
吉田:逆に、誰かとやる企画というのはどうなんですか?
高橋:これも今すごくアツいのがあるんですよ。僕、今鳩時計作ってるんですけど。
吉田:鳩時計ですか?
高橋:「OQTA(オクタ)」っていう、スマホと連動する鳩時計です。僕がアプリのボタンをタップすると、家に置いてある鳩時計が「ポッポ」って鳴く。今押したんで、自宅で鳩が鳴いたはずです。僕には4歳と1歳の娘がいるんですが、今は揃って寝る準備をしている時間帯なんですね。そんなときに鳩が鳴く。すると彼女たちが「あ、パパが私たちのこと思い出してくれた」って。
吉田:「お父さんの念力が通じる」みたいな。
高橋:そうです。「1回鳴いたらママ、2回鳴いたらお姉ちゃん、3回鳴いたら妹だよ」ってルールを決めて順番に押しているので、そうすると「やったー! 私だ!」って喜んでもらえるわけです。鳩時計を鳴らすことで、僕が家族のことを今思っているということを伝える。そして鳩が鳴いたことで、家族は僕を思い出すという。なかなか家に帰れない父親としての罪滅ぼしですね……(苦笑)。
吉田:このプロジェクトをいろいろな人とやっている理由は何ですか?
高橋:僕一人でやれるサイズのプロジェクトではないということがまずありますが、それ以上に、ニーズとしてこれは「家族」だけに当てはまるものではないなと。いろんな関係性において“アップデートしたいけれど方法が見つかっていないもの”が相当数あって、おそらく大きなニーズになるだろうと考えました。
吉田:なるほど。
高橋:この鳩時計、秋田の実家にも置いてあるんですよね。ある程度の年齢から、親との距離ってちょっと微妙な感じになりませんか? 僕は長いこと親とあまりうまくいっていないので特にそうなんですけど、「どうしてるかな」って気にはするものの、何となく連絡しないままになっていたりとか。
吉田:ああ、すごくわかります。
高橋:でもこの鳩時計だったらメッセージを添えなくていいので、「僕があなたのことを思い出している」っていう事実だけが伝わるんです。電話やメールよりも気軽にできるし、愛情はちゃんと伝わる。受け取る側にとっても、鳩が鳴くのはたった1秒です。「1秒で、言葉なしで伝わるコミュニケーション」というのが、今の世の中にあふれている“良好になりきれていない関係”みたいなものをアップデートしてくれるんじゃないか。それが新しいコミュニケーションなんじゃないかっていうのを信じているんです。
吉田:やっぱり高橋さんは、ディティールを突き詰める力がすごいですよ。だって「1秒で家族に対して何か言いたい」「電話じゃだめ」っていうのはわかる。でも、僕だったら「液晶モニターを置いておいて、自然にLINEスタンプが表示されればいいじゃん」って思っちゃう。でも、鳩時計じゃなきゃだめなんですよね?
高橋:たとえばスタンプにしても、ハートマーク1つで「好きだよ」っていう情報になってしまうでしょう。既読マークも“情報”ですね。OQTAに関しては「どういうつもりかわからない」「もしかしたら外出していて聞いていないかもしれない」というところがポイントなんです。そういうところを期待しないことがこのコミュニケーションのキモなので、情報は引き算すべきだということになりました。
吉田:「絵柄にした瞬間に情報になってしまう」、確かにそうですね。
高橋:僕の場合、親にハートマークは送れないですよ。でも、鳩時計だったら押せる。あともう一つ、「鳩を鳴らせるのは1人ではない」というのもポイントです。実家の鳩時計は、妹も鳴らせるんですよ。僕は親と仲が悪いけれど、妹は仲がいい。鳴らす鳩時計は一つで、「ポッポ」って鳴いても、妹がやったのか僕がやったのか親はわからないわけです。本当は妹が押してるのに、僕が押したって思っている可能性もある。もっといえば「僕に押していてほしい」と思っている可能性だってある。そういうことの積み重ねでお互いの関係がアップデートされていって、いずれいろんな話ができるようになるかもしれないじゃないですか。
吉田:そこまで膨らませて「だから情報は引き算しなきゃいけない」っていうところまで突き詰められるのがすごいなと思います。
高橋:これは僕一人で考えたわけじゃなくて、チームで何がベストか考えた結果ですけれどね。でもこれは自分ごとであって、鳩時計は自分のために作りたいと思っているわけです。僕は親のことをもちろん嫌いじゃない。親だって、僕にああしろこうしろ言ったのは僕のためにやったこと。それがわかっていても、昔からのあれこれで関係がねじれてしまった。それを解決したくて企画して、その延長に「これを必要としているのは僕だけじゃない」という確信もあります。そういう企画に出会うためには黙っていてはだめなんです。何もしないままでは、何も思いつかないんですよ。
〈 【対談】高橋晋平×吉田尚記 第3弾はこちらに続きます 〉
高橋晋平:『企画のメモ技』著者。1979年秋田県生まれ。株式会社ウサギ代表取締役。2004年に株式会社バンダイに入社し、大ヒット商品となった「∞プチプチ」などバラエティ玩具の企画開発・マーケティングに約10年間携わる。2013年にはTEDxTokyoに登壇し、アイデア発想に関するスピーチが世界中に発信された。2014年より現職。さまざまな企業の企画ブレーンや、チームを育成しつつ新商品を立ち上げる「企画チームビルディング」にも携わる。
吉田尚記:『没頭力』著者。1975年東京都生まれ、慶應義塾大学文学部卒業。ニッポン放送アナウンサー。第49回(2012年)ギャラクシー賞DJパーソナリティ賞受賞。マンガ、アニメ、アイドル、落語、デジタルガジェットなど多彩なジャンルに精通しており、「ミュ~コミ+プラス」「エージェントHaZAP」などでパーソナリティを務めるかたわら、年間100本におよぶアニメやアイドルのイベントの司会も担当している。