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2月24日(土)に発売された『企画のメモ技(テク)』『没頭力』という2冊の本。
前者は“売れる企画”を生み出し続けるための仕組みを紹介する一冊、後者は「ワクワクした気分で目覚めて、夜に満ち足りて眠る=上機嫌で過ごす」ための仕組みについて書かれた一冊です。
一見異なるように見えるこの2冊は、実はたくさんの共通点を持っていました。
そこで今回は著者のお二人に、お互いの本を読んでもらったうえで対談をセッティング。“共通点”をはじめ、本について感じたことをたっぷり話していただきました。
(写真左から)
高橋晋平:『企画のメモ技』著者。1979年秋田県生まれ。株式会社ウサギ代表取締役。2004年に株式会社バンダイに入社し、大ヒット商品となった「∞プチプチ」などバラエティ玩具の企画開発・マーケティングに約10年間携わる。2013年にはTEDxTokyoに登壇し、アイデア発想に関するスピーチが世界中に発信された。2014年より現職。さまざまな企業の企画ブレーンや、チームを育成しつつ新商品を立ち上げる「企画チームビルディング」にも携わる。吉田尚記:『没頭力』著者。1975年東京都生まれ、慶應義塾大学文学部卒業。ニッポン放送アナウンサー。第49回(2012年)ギャラクシー賞DJパーソナリティ賞受賞。マンガ、アニメ、アイドル、落語、デジタルガジェットなど多彩なジャンルに精通しており、「ミュ~コミ+プラス」「エージェントHaZAP」などでパーソナリティを務めるかたわら、年間100本におよぶアニメやアイドルのイベントの司会も担当している。
――本日はありがとうございます。まずはお互いの著書について、ざっくばらんに感想をお話しいただければと思うのですが。
高橋:今日は僕、言いたいことが山ほどあります(笑)。まずお聞きしたいんですけど、『没頭力』って、誰に向けて書いた本なんですか?
吉田:一番狭く言うと“大学4年生のときの自分”に書きました。ただ、中学生の読者からも感想をもらっていますし、いろいろ取材していただく中で「ビジネスマンに読んでもらいたい」「高齢者の皆さんにメッセージを」と言っていただいたりして。当初まったくそのつもりはなかったんですけど、「確かにその方たちに向けても、言いたいことがあるな」って思ったんですよね。なので老若男女あらゆる人に向けられた本ではあるんですけど、個人的な執筆の動機は、大学4年生の時の自分にあります。
高橋:「TSUTAYA6時間立ち尽くし事件※」ですね。さっきビジネスマンの話が出ましたけど、僕も『没頭力』を読んで、30~40代のビジネスマンにすごく刺さるなって思いました。まさに僕らの世代なわけですが……。
※吉田尚記さんの大学4年生の時のエピソード。単位を取り終え内定ももらっていた吉田さんは、1年間を価値あるものにすべく映画を見ることに。しかし「何を見れば最もためになるか」を考えすぎるあまり何も選ぶことができず、最終的にうつ状態になってしまった。
吉田:それはどういう理由で?
高橋:僕の30代前半を振り返ると、「好きなことで時間を大量に消費するなんてもったいない」って思ってたんです。僕は昔からハマりやすすぎるタイプで、好きなゲームをやりだしたら止まらなくなって、気づいたら夜が明けていたなんてザラ。今もある程度に留めざるをえない面はありますけど、会社に勤めていたときはなおさらそうでした。野放しにすると生活が崩壊しちゃうので、避けてきたんですよね。
吉田:僕は注意散漫な性格なので、ちょっとうらやましいです。桜井政博さん※に聞いたんですけど、テレビゲームって最後までプレイしてくれるユーザーの割合がすごく低いんですって。僕自身も、エンディングまで遊び倒したゲームなんて数えるくらいしかないです。
※ゲームクリエイター。「星のカービィ」「大乱闘スマッシュブラザーズ」などの生みの親として知られる。
高橋:吉田さんは、いろんなところにインプットを求めるタイプですよね。僕は正反対で、「にゃんこ大戦争」というアプリゲームを5年間1日も欠かさずにプレイしているちょっとヤバい奴(笑)。ちなみに最近、ルービックキューブに手を出してしまいました。「好きなことに熱中する時間は無駄じゃない」「人生楽しんだもん勝ちだ」って思うようになっていよいよやり始めて、電車の中でもずーっとやってます。
吉田:え~!(笑)
高橋:今までだったら本を読んだりとかしていたわけです。それは「そのほうがためになる」と思っていたから。会社勤めをしていた頃だったら「時間がもったいない!」って、途中でルービックキューブをぶっ壊していたかもしれないです(笑)。実際、当時は好きなゲームを会社の倉庫に封印していたくらいですし……。
吉田:封印……。
高橋:「時間があるなら仕事を進めるなり、勉強してスキルアップするなりしなければならない」というのが最優先されていたんですね。没頭できるものがあって、それを“幸せ”と思えている人たちには『没頭力』は必要ないかもしれません。ただ、没頭できるものを知っていても、会社員時代の僕はそれを〈悪〉だと思っていたわけです。「(好きなことはやめて)自分を磨かなきゃ」「意識を高く持たなきゃ」って窮屈になっている人には、すごく必要な本だなと思いました。
吉田:歳は違えど、大学4年生の時の僕はかなりそれに近い状態でしたね。
高橋:この話をしてて「Shall we ダンス?」を思い出しました。僕この映画大好きなんですけど、ご覧になったことはありますか?
吉田:1回だけですけど、見たことあります。
高橋:僕はたぶん6回くらい見てる(笑)。
吉田:見てますね~(笑)。
高橋:何回見ても泣けるんですよ。仕事にも家庭にもまったく不満がないけれど、何となく満たされない生活を送っていた主人公が、ある女性の美しい姿に目を奪われたのをきっかけに社交ダンスを習い始めて、どんどんのめり込んでいく。会社勤めをしていた頃の僕だったら「ダンスなんて時間の無駄」「それより仕事を……」って言うと思うんですけど、どこか「こうなれたらいいな」「自分にもこんなことが起こるかもしれないな」という気持ちがあって、グッときてしまうんですね。今あらためて考えてみると、ダンスは仕事の役に立つわけじゃないし、家庭生活をよりよくするものでもない。直接的には影響しないんだけれど、でも主人公は、ダンスに出会ったことで明らかに幸せになっていますよね。「没頭することが“何かつまんない”を解決する」って、このことなんじゃないかと。
吉田:まさにそうです! 逆にいうと、ダンスって、意味を求める人からとても評判が悪いんですよ。
高橋:「踊ったところで何になるの?」という。
吉田:そうです。でも実はダンスの効用ってすごくて、「ダンスセラピー」といって心理療法にも使われているんですよ。患者さんに「ダンスしてください」って言って、やる人だけやる。「なんでダンスなんかしなきゃいけないの」って食ってかかって、最後までダンスをしない人というのが必ずいるんですけど、そのままにしておくんだそうです。なぜ治療のためにこんなことをするのか、わかります?
高橋:なんでしょう……。
吉田:実際にこのセラピーを取材したあるメディアが、先生に質問したことがあるそうです。そしたらその先生が「ちょっと耳を貸せ」と。そして耳元で、「人間はダンスをするのが好きなんだーーー!!」って大声で叫んだそうです(笑)。……エピソードはそれで終わりなんですけど、たぶんそれ以上でも以下でもないと思うんですよね。踊ってる人って、だいたい機嫌がいい気がしません? 逆に、不機嫌なままダンスするのは難しいんじゃないかと思うんですけど。
高橋:わかります。僕、会社員時代に女装要員だったことがあって。
吉田:えっ?(笑)
高橋:宴会の時なんかに、その時流行っている女性アーティストの曲を女装して踊るんです。運動神経が悪いので、ダンスもめちゃくちゃ下手なんですけどね。少女時代とかももクロとか、彼女たちの要素はゼロどころかマイナスだけど、とりあえず女装してセンターで踊る。
吉田:鉄板じゃないですか!
高橋:そう、絶対ウケるんです。悲鳴も上がる。でも悲鳴も込みで、うんと楽しくて幸せだったんですよね(笑)。
吉田:『企画のメモ技』も、“あの頃の自分”と同じ悩みを持つ人のための本ですよね。
高橋:そうですね。僕は昔からゲームやおもちゃが大好きだけれど、結局社会人になって、おもちゃを作る仕事をするようになっても、やりたいことが特になかった。「やりたいこととは内なるものである」「使命だからやるのである」という人もいるにはいますけど、それっていわゆる“フツーの人”ではないですよね。企画の仕事をしている人で「自然に思いついちゃうから、どうやったら企画が思いつくかなんて考えたこともない」って言う人は多いですけど、僕はそういうタイプでもなかったわけです。
吉田:高橋さんも“フツーの人”だと。
高橋:そうです。新しくて売れるものを考えなきゃいけない仕事なのに、あれこれやりたいことが思いつくわけでもなく、欲しいものがたくさんあるタイプでもなかった。それで若手の頃は、「僕には企画職としての才能がないんだ」って落ち込んでいました。でも実は「企画はセンスで作るものだ」ということ自体が勘違いだったんです。それに“面白い企画”の定義もズレていたから、本当にボツネタばかり生み出していました。
吉田:その頃のボツネタ、知りたいです。
高橋:会社員になって間もない頃の話だと……「あるきばち」っていうネタを作ったことがあって。
吉田:あるきばち?
高橋:「日本でペットとして最も飼われている動物は犬である」「全世帯の何%が愛犬家であり、インターネット販売の市場もある」「一方で、犬よりも観葉植物を育てている人のほうが多い」「犬は散歩に連れていけるが、植物は根が生えているので散歩させることができない」というステップを踏んで「植物を散歩に連れて行ってあげられる、“歩木鉢”はどうだろう」というネタを考えたんです。植木鉢なんだけど、リードをつけて散歩に連れて行ける。
吉田:シュールですね(笑)。
高橋:僕自身、商品化されても全然欲しくないんですけど、その時は「皆を笑せれば勝ち」「とにかく受けを狙って爪痕を残してやる」という方向に頑張っていて、“粗悪なシュール芸”を追求してたんですね。それが2年くらい続いて、「俺って全然いい企画思いつかないな」「だめだ」という状態になっちゃった。そんな時代を経て、「没頭できるくらいの仕事を見つけるためには、面白い企画を見つけるしかない」ということに行き着いて。「これは人生をかけても作って売りたい!」というものに巡り合うためには、そういう企画を作るためにはどうすればいいのか。その方法を作っていったという感じです。
吉田:『企画のメモ技』を読んで思ったんですけど、高橋さんって「ディティールを細分化する力」がすごいですよね。僕は今まで、自分の「欲しい」という欲求をここまで突き詰めて考えたことがなかったので衝撃的でした。
――そもそも「自分のやりたいこと」と「やりたくないこと」の“ツボ”がどこにあるのか、わかってない人って実は大勢いませんか?
吉田:そうそう。それが「なんとなくつまらない」という問題に根ざしていると思います。たとえば『企画のメモ技』に例として書かれている、「アイドルをプロデュースする仕事はやりたくないけど、一日体験だったらやってみたい」。「アイドルのプロデュースはしたくない」を「一日体験だったらやってみたい」に変換したのは神業ですよ。なんでこんなステップの超え方ができるんですか?
高橋:『企画のメモ技』では1つ目のステップとして「欲しいと思うものだけをメモする」というのを紹介していて、欲しいか欲しくないかを分ける作業は、今や染みついていて職業病みたいになっています。欲しいかどうかを分類して、“欲しいもの”をどんどん集めたり、「自分がやってみたいと思うものにするなら、どうするだろう?」というふうに考えたりしてネタを並べていく作業のなかで、その理由を挙げていく感じです。そうやって自分がやってみたい・欲しいと思うことの“ツボ”みたいなものを掴むんですね。
吉田:「アイドルプロデュースの1日体験」でいうと、どういう思考のステップになるんでしょう。
高橋:アイドルのプロデュースって、ものすごく大変じゃないですか。でも「かわいい子と一緒にステージに上がって、隣で楽器を弾いて、その子に自分が作った曲を歌ってもらったら気持ちいいだろうなあ」みたいなことを妄想するわけです。楽器が上手いかとか、いい曲が作れるのかとか、そういうことは置いておいて。
吉田:Every Little Thingのいっくんとか、Do As Infinityの大渡亮さんみたいな(笑)。
高橋:プロデュースとはちょっと違うかもしれないですけどね。中田ヤスタカさんを想像してもらうといいかもしれません。アイドルの曲でいうと、ヒャダインさんとか玉屋2060%さんみたいな立ち位置ですね。宅録を趣味でやっていたことがあるので、「女の子かわいいけど曲もいいじゃん」「こいつが作ったらしいぜ」って認知されること自体には憧れがあるんですよ。でも苦労はしたくない。作曲能力がネックになるなら、もはや曲はAIが作ってくれてもいいです。
吉田:今やっている仕事を辞めて、プロデューサーに転身したいというわけではないと。
高橋:プレッシャーもあるし、仕事量もものすごいでしょう。そこまで「やってやる!」という本気度があるわけではないというか。「おいしいところを味見してみたいな」という感覚です。それを企画に置き換えるなら、VRカラオケでもいいし、アミューズメント施設でもいいんですが、架空にせよ実存にせよアイドルがそこにいて、自分がそれに関わる好きな役割を体験できるというサービスがあったらいいなあと。そういうふうに発想して、ヒントをつなげていくんです。もちろん一番大事なのは、「なぜなら僕がやりたいから」。
吉田:それ、実現したらヒットしそうじゃないですか? 「アイドルをプロデュースする」ゲームって男性向け・女性向けどちらも広がってますけど、「自分はステージに上がらない」という鉄の掟があるんですよ。「アイドルと一緒にステージに上がる」というのはまだないから、いけるかもしれない。メンバーの一員という位置づけなら、恋愛関係になっても許されるかもしれないし(笑)。そういうエンディングも含めて、まだない要素なので商品化できると思います。
高橋:確かに! なんで思いつかなかったんだろう……。
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