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京都大学iPS細胞研究所所長を務め、2012年にノーベル生理学・医学賞を受賞した山中伸弥さんと、将棋のプロ棋士として前人未到の「永世七冠」を達成、今年2月に国民栄誉賞を受賞した羽生善治さん。
お2人がそれぞれの専門分野について、最先端技術の発達を切り口に語り合った『人間の未来 AIの未来』が2月9日(金)に発売されました。
AI技術の発達と、それが人間の生き方に与える影響は、今最も注目を集めているテーマの1つ。囲碁や将棋の世界にも、その波が押し寄せています。
2016年3月、AIの「AlphaGo」が、「韓国棋界の魔王」と呼ばれる囲碁棋士イ・セドルさんに4勝1敗の戦果をあげました。2017年4月~5月にかけて行われた電王戦では、将棋ソフト「ponanza」が佐藤天彦名人に2戦2勝しました。
羽生さんによれば、将棋における人間とAIの大きな違いは、「指し手を時系列で処理しているか否か」にあるそうです。
羽生 ……例えば人間の棋士は「じゃあ持久戦で行こう」とか「急戦調で攻めていこう」といった方針、方向性を持って考えていくので、指し手にそれが反映されるんですね。AIは常に一手ずつリセットして考えていくので、どういう流れでその局面にきたのかは、まったく関係ありません。つまり、そこには継続性とか一貫性というものがないわけです。
(本書p.65より引用)
大局的なストーリーにのっとった棋譜を「美しい」と感じる人間からすると、強くても違和感のあるAIの棋譜。しかし、この人間の「美意識」が選択の幅を狭めているのだとすれば、今後AIの考え方を取り入れていくうちに、人間の美意識そのものも変わっていく可能性があるとのことです。
一方、人間ならではの判断が、AIではありえない結果を生むことも。たとえば、ゆるキャラの「ふなっしー」について、羽生さんは次のように述べています。
羽生 ……AIがどれだけ進化しても、ふなっしーを作ることはできないと思います。いくら過去のヒット商品のデータを集めても、初音ミクを作ることはできても、ふなっしーのように、あんな大雑把なデザインで大人気を得られる、突然変異種のようなものを生み出すことはできないでしょう。
(本書p.69-70より引用)
続く山中さんの発言は、人間の営みについて重要な示唆を含んでいます。
山中 共感の問題もありますね。AIがああいうものを作ってきたら、「まだまだAIはダメだね」で終わるけれど、人間が作ったら「おお、ちょっと可愛いね」と(笑)。
(本書p.70より引用)
AIが出す「正解」は、あくまでその場限りで行われた計算の結果にすぎません。一方、人間が選ぶ「正解」や作り出した「作品」は、その人の経験や人格の集大成。アウトプットされたものが「意味」を持ち、人々の共感を得られるか否かという点では、やはり人間の仕事に軍配が上がるというわけです。
また、「人間がAIに支配されることはないだろう」というのが山中さんの考えです。
山中 ……AIって抜群に優秀な部下の一人なんですよ。膨大な知識を持っていて、いつも冷静沈着。感情を交えずに「山中先生、これを選択した場合、このようになる可能性が十三パーセント高くなります」(笑)。とても貴重な情報ではあるけれど、あくまでセカンドオピニオンというか、彼は部下の一人であって意思決定者ではない。
(本書p.95より引用)
総じてお2人は、AIの発達した未来に明るい展望をお持ちのようです。AIによって代替される仕事があったとしても、現代からは想像もつかないような職業が誕生していたり、技術の発達にともなって人間の創造力も向上している可能性がある、と述べられています。
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そのほか、「独創的なアイデアの出し方」「子どもをノーベル章受賞者に育てるには」といったテーマから、「10年後、100年後の世界」の予想にまでおよぶ『人間の未来 AIの未来』。将棋界・医療界それぞれの頭脳を代表するお2人の対談ながら、私たち一人ひとりの生き方に関わる普遍的なテーマが凝縮された一冊です。