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1. 本書の著者の仕事は「本を読むこと」。本が出版される前のゲラと呼ばれる試し刷りを読む「校正」の仕事を10年以上続けてきた。
2. 校正の仕事をしていると物知りに思われることが多いが、すべての物事に精通することはできない。だからそのつどあらゆる手段を使って調べるのである。
3.校正における失敗は誤植を出してしまうことだとすれば、校正とは常に失敗している仕事だ。
4. 校正がいなくても本はつくれる。それでも校正を入れるのは、これまで数多の本が培ってきた、本の信頼を守るためではないだろうか。
仕事は本を読むこと。『文にあたる』は、人気校正者として10年以上本と向き合い続けてきた、牟田都子さんによるエッセー集だ。校正者は、本が出版される前の「ゲラ」と呼ばれる試し刷りを読み、内容の誤りや不足がないかをたしかめる。一定の速度で文字をひとつひとつ押さえながら、丹念に資料と見比べ、じっくりと読む。そうして誤植があると判断すると「鉛筆を入れる」。
出版前に行われた著者と校正者とのやりとりは、読者の目には入らない。著者の「生の言葉」を読めるのは、校正者の特権なのかもしれない。だからこそ、校正でどこまで「直す」かという悩みがつきまとうのだろう。一見して「おかしい」文章でも書き手の意図が隠れているかもしれない、新人作家の粗削りな文章ははたして「直す」べきなのか——。普段意識されることのない校正の仕事の裏側をのぞくと、本がこれまでとは違って見えてくる。
考えてみれば、これまで本を読んでいて校正者を意識するのは、誤植を見つけたときくらいだった。本には間違いがなくてあたりまえ、校正は誤植を「拾って」あたりまえだという意識があるのだ。そんな本の信頼を積み上げてきたのは、校正の仕事によるところも大きいはずだ。本は人より長く生き、誰かにとってかけがえのない一冊になるかもしれない。だからこそすべての本が同じように手をかけてつくられてほしいと願う著者のまなざしは、本への愛にあふれている。これからの読書体験をまるごと豊かにしてくれる、本を愛するすべての人におすすめしたい一冊だ。