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1999年の創刊以来、「社会や環境が良くなって、そしておもしろい」をテーマにした誌面づくりを行なってきた、未来をつくるSDGsマガジン「ソトコト」。いまや個人にとっても組織にとっても認知度や意識の高まっているSDGsについて、長らく発信を続けてきました。
そんな同誌の歩みと特長について、2代目編集長として2011年から同誌を率いる指出一正さんに、文章を寄せていただきました。
ソトコトのことを書こうと思う。
あれはいつだったろうか。夜の新橋から銀座線に乗り込み、ふと見上げると、ハワイの特集を宣伝する雑誌の中吊り広告があった。黄色いバナナのねじ曲がったグラフィックと「アンチ・ハワイの人向けのハワイ案内」といった、煙に巻かれるような文章が目に入った。「ソトコトらしいコピーだな」と、当時、アウトドア雑誌の編集部に属していたぼくはそう独りごちた。
いま、バックナンバーから調べてみると、2003年4月号が、このハワイの特集を行った一冊だったことがわかる。1999年に創刊されて、気になっていたこの雑誌の編集部にぼくが移ったのは2004年の秋のこと。どちらもずいぶん時間が経ったものだ。
この間、アルピニストの野口健さんとアフリカのケニアに行って、巨大なスラムでゴミ拾いをしたり、アメリカのボールダーに行って、マイナス26度の極寒の中、オープンスペース(まちの共有地)を歩いたり、リーマンショックが起きる直前にアイスランドに行って、おしゃれな地熱発電所の“はしご”をしたりしながら現在に至るわけだが、ぼくにとってもソトコトにとっても大きな転機が2010年にやって来た。
それは、これまで毎年、つくり続けてきた定番の「ニュージーランド移住計画」という特集の代わりに「日本列島移住計画」と銘打ったいまのソトコトのテイストにつながる、ローカルをテーマにした号を11月に企画したことだった。ソトコトの内容が地域の人の顔の見えるコミュニティ志向を強めていく起点となった一冊だろう。
2011年の東日本大震災を受けて、雑誌の内容はますますローカルと人に焦点を当てたものとなっていった。以降、ソトコトはサブタイトルを「ソーシャル&エコ・マガジン」、そして「未来をつくるSDGsマガジン」と、時代の気持ちに合うものに変えていくのだ。
読者の層は若年齢化を見せはじめ、日本の地域に広がり、ワクワクするようなローカルプロジェクトの20代、30代の実践者のみなさんや、農業や漁業、林業の若い担い手のみなさんなどがこのメディアを応援してくれるようになった(心から感謝しています)。
最近のソトコトで、誌面に通貫する特に目立ったキーワードは「SDGs」「関係人口」「ウェルビーイング」だ。SDGsは説明不要だが、国連が定めた、世界に暮らすすべての地域のみんなが目指すべき持続可能な開発目標のこと。その前身のMDGsのときも含めて、ソトコトには元来よく合うテーマだ。
関係人口は「観光以上、移住未満の第三の人口」のことを指し、人口減少社会のなかで、地域づくりの担い手不足を解消する存在やイノベーションとして注目されている。ウェルビーイングは、身体的・精神的・社会的に「よい状態」を意味する。ハッピーが短期的な幸せでウェルビーイングが中・長期的な幸せと定義されることもある。
そしてこれらのキーワードが雑誌やウェブのなかの言葉の枠を出て、コミュニティ化、プロジェクト化していくこともソトコトの大きな傾向で、関係人口を育て、ウェルビーイングやサスティナビリティを学ぶ講座、SDGsをみんなで考える全国ローカルツアーなど、国や地方公共団体、企業とともに未来を思い、地域や社会を盛り上げる楽しいコンテンツが続々と生まれてきていて、とてもうれしい。
ソトコトのことを考える。「ソトコトらしさ」とは、生物学者の福岡伸一先生の言葉をお借りするなら、動的平衡だ。変わらないために変わり続ける。ぼくは釣り人なので、お気に入りの川があるが、そのとっておきの川も、そこにありながら常に変わっていっている。でも、ぼくにとってご機嫌な存在には変わりがない。ソトコトもそのようなものだろう。
ソトコト・プラネット「ソトコト」編集長
指出一正 SASHIDE Kazumasa
1969年群馬県生まれ。雑誌「Outdoor」編集部、「Rod and Reel」編集長を経て、2011年「ソトコト」編集長に就任。趣味はフライフィッシング。
(「日販通信」2022年9月号「編集長雑記」より転載)