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  • プーチンの狙いとは? これからの世界秩序はどうなるのか?『世界の賢人12人が見た ウクライナの未来 プーチンの運命』

    2022年06月18日
    知る・学ぶ
    草野真一:講談社BOOK倶楽部
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    世界の賢人12人が見たウクライナの未来 プーチンの運命
    著者:クーリエ・ジャポン
    発売日:2022年05月
    発行所:講談社
    価格:990円(税込)
    ISBNコード:9784065285169

     

    われわれはまだ渦中にいる

    ロシアによるウクライナ侵攻は毎日のように報じられています。紛争の長期化が懸念され、場合によっては核戦争や第三次世界大戦に発展するのではないかという予測もあります。
    ことが起こるまではウクライナなんてどこにあるかも知らない人が多かったのに、今ではそれを知らない人はほとんどありません。紛争はあきらかにわれわれの日常生活にも大きな影響を与えており、物価高騰の一因となっています。このままならば、さらに物価は高騰を続けることでしょう。
    コロナ禍はなんとなくウィズコロナで収束を迎えようとしているように思えますが、今度は紛争と物価高騰です。泣き面に蜂とはこのことだななどと考えるのは、まだ余裕があるということなのかもしれません。

    「現代社会」という言葉が「混迷の」と形容されるのは今にはじまったことではありませんが、これほど混迷していたことはなかったように思います。しかも、この混迷はこの先しばらく続くことが予想されています。

     

    各界の世界的権威の意見

    昨年(2021年)、『新しい世界 世界の賢人16人が語る未来』という本が発刊されました。本書と同じように、世界の識者がそれぞれの見解を披瀝するものです。対象はコロナウイルス感染症の世界的な流行でした。

    本書も同じ方法で編集されています。各界の識者が事件にたいして意見を述べ、それを並べるという方式も同じです。
    ただし、相違点がひとつ。本書は前掲書よりずっと「広く」なっています。

    世界最高の思想家(自身はhistorianと語っていますが)としてユヴァル・ノア・ハラリの意見が取り上げられているところは同じですが、本書にはたとえばジョージ・ソロスの発言があります。これは前書にはなかった特徴です。

    ソロスに関しては本書にも簡単な経歴が紹介されていますが、世界最高の投資家/相場師と呼んでいい人です。1990年代に起こったイギリスのポンド危機は、ソロスが大きな要因になったとされています。イギリスがEUに加盟しても通貨をユーロに変えようとしなかったのは、雑に言うならこのとき手痛い経験をしたためですし、それはのちのEU離脱の一因となりました。言いかえれば、ソロスはハッキリと「歴史を変えた」経験を持つ人です。思想家がどんなに斬新な考えを述べようと、この経験に勝るものはそうそう得られるものではありません。

    思想家や評論家ばかりではなく、経済界の大物からも発言が寄せられているのは、この事件の大きさを物語っています。また、コロナ・パンデミックとは異なり、これが純粋に人為的なものであることも、大きな理由としてあげられるでしょう。

     

    正しい知識を得るための1冊

    われわれはこの紛争に関して、無知に過ぎると思っています。
    プーチンは悪者だと言うのは簡単です。しかし、このケースとアメリカのイラク戦争やアフガニスタン侵攻はどう異なるのでしょうか? 正しく説明できる人はすくないでしょう。2国間の事情も歴史も知らずに語られる無責任な発言が、テレビにもネットにもあふれかえっています。

    ハラリはこう語っています。

    我々が圧政と攻撃の勝利を許したら、すべての人がその結果を被ることになります。ただの観察者に留まっている意味はありません。今は立ち上がり、態度を示すときなのです

    正しく態度を示すためには、正しい知識を持たなければなりません。本書はそれを補ってあまりある良書です。

    もうひとつ、本書の重要な特徴として、海外のコラムが翻訳されて掲載されていることがあげられます。書き手はハラリやソロスのような有名人ではありませんが、得るところは同じか、それ以上に大きなものです。

    西側諸国とロシアが共有しているのは、大規模な軍産複合体だ。どちらの陣営も巨大兵器関連企業に依存し、その影響を受ける可能性がある。あるいは実際すでに、影響下にある。
    こうした影響力の強さはドローンや、洗練されたAI制御の自動兵器システムにいたるまで、新たなハイテク攻撃能力によって推進されるのだ。
    最終的なゴールが事態の沈静化と持続可能な平和なら、「軍隊による攻撃」に依存した経済基盤を真剣に批判していく必要があるだろう。

    武力紛争の背景にはかならず産業があり、肥え太って高笑いしてるやつがいる。ロシアにもNATOにもいる。ここでは、それが指摘されています。
    高笑いしてるやつの後ろには、おこぼれにあずかってホクホクしてるやつが必ずあります。かつて朝鮮戦争の「特需」によって高度成長を成し遂げた日本が、「おこぼれ組」の優等生だったように。

    平和を望むなら経済基盤を変えねばならない。ここにはそう語られています。しかし、容易なことではありません。誰もその「新しい経済基盤」を見たことがないのだから。
    本書は、そんな重い問いかけを投げかけている希有な書物でもあります。

    (レビュアー:草野真一)


    ※本記事は、講談社BOOK倶楽部に2022年6月3日に掲載されたものです。
    ※この記事の内容は掲載当時のものです。




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