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  • 「豊かな時間を提供する場を届けたい」選書からクリエイティブディレクションへ!~新たなステージに挑戦する“日販リノベチーム”|第1弾インタビュー

    2022年04月11日
    知る・学ぶ
    ほんのひきだし編集部 
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    ブックオーベルジュの箱根本箱(神奈川県・箱根)や、入場料のある本屋「文喫六本木」(東京・六本木)、イオンモール上尾の「Park of Tables」(埼玉県・上尾)に、図書館と地域を繋ぐイベントパッケージ「Library Book Circus」――。

    全国各地でこれら「本のある空間」をプロデュースしているのは、日本出版販売(日販)のプラットフォーム創造事業本部でプレイス創造事業に携わるメンバーです。

    2015年4月にわずか4人のメンバーでリノベーショングループ(当時)としてスタートした彼らはさまざまなプロジェクトを成功させ、事業規模は年々拡大。2022年4月1日から新設された同事業本部の一翼を担う存在にまで成長しました。

    本編では、これまで主軸となって事業を進めてきた同本部プロデュース事業チームの染谷拓郎プロデューサー、同文喫事業チームの武田建悟プロデューサー、同プレイス企画チームの野口亮リーダーの3氏に、どのような想いでこれまでの事業に取り組んできたのかをインタビューしました。

    それぞれの立場からこれまでの事業を振り返ってもらいながら、これからの“本と本屋のあり方”を考えていきたいと思います。第1弾はプロデュース事業チームの染谷拓郎さんです。



    日販プラットフォーム創造事業本部プロデュース事業チーム
    染谷 拓郎プロデューサー

    染谷 拓郎(Someya Takuro)プランニングディレクター/プロデューサー
    1987年、茨城県生まれ。2009年日本出版販売入社、2015年より現職。株式会社ASHIKARI取締役。主な実績として、「箱根本箱」の立ち上げ、キャンプイベント「森の生活」開催、イオンモール上尾「Park of Tables」プロデュースなど。吉野川市立鴨島図書館のアートディレクション、選書企画「BPM Reading」開発など、図書館向けの企画も多く担当。本と映画と音楽どれも必要で、時期によってその順位が変わる。
    ビートルズなら「マーサ・マイ・ディア」、ストーンズなら「悪魔を憐れむ歌」が好き。

    ――まずはリノベーショングループの設立時の状況について教えていただけますか。

    2015年に、「書店の新空間を創造せよ」というミッションの下、新規事業部としてリノベーショングループが立ち上がりました。具体的にはあゆみBOOKSの荻窪店、高円寺店を文禄堂へとリモデルするプロジェクトからスタートしています。

    ぼくらは書店経営の経験もありませんし、実際に店舗を運営していくのは現場の書店員の方々。彼らとのコミュニケーションが十全にとれないまま、表面だけお化粧をし直しても、売上が取れるとは思っていませんでした。そこを大きく意識してリモデルに取り組みました。

    2016年~2017年には業界外のクライアントとつながる機会が出始めてきて、企業ライブラリーなどを手掛け始めました。それと同時に、2017年には箱根本箱と文喫六本木のプロジェクトも進行しており、それが開業したのが、ともに2018年(8月に箱根本箱、12月に文喫)です。

    ▲箱根本箱内観

    ▲文喫六本木

    ――箱根本箱、文喫六本木という2大プロジェクトがほぼ同時進行していたんですね。

    これまでに大きな波がいくつかありましたが、2017年~2018年は相当忙しかったですね。ここだけを切り取ってもストーリー的に面白い話になりますが、それは別の機会に。

    この2つの象徴的なプロジェクトがさまざまなメディアに取り上げられ、2019年頃からは「日販がやっている取り組みが面白いね」と出版業界外の方から声をかけられることが増えてきました。

     

    2019年が転機、クライアント通じ新たな広がりへ

    ――2019年は、まさにリノベチームにとっての潮目が変わった年ということですか。

    日販の既存の取引先に対して出版流通のサポートや営業といった形ではなく、プロデュースやディレクションのかたちで参画することが増えていきました。また、業界外に対してもクライアントに一方的にアプローチする形から、一緒に仕事をしたクライアントや仲間たちを通じてどんどん新しい仕事につながるようになってきました。

    具体的に言いますと、2019年中に受注して2020年にローンチしたのには、未来屋書店とカーディーラー、ペットショップとが連動して企画や空間をシェアする場をプロデュースした「Park of Tables」というイオンモール上尾のプロジェクトがあります。これは書店・ペットショップ・カーディーラーが連動して、「出会う」楽しみとそれを「深める」喜びを提供する、イオンモールにおける新たなスペースの提供です。

    ▲イオンモール上尾の「Park of Tables」

    また、2019年に茨城県常総市の公共施設「水海道あすなろの里」で開催されたキャンプイベント「森の生活」は、公民連携の取り組みでした。「本を買う」ではなく「本と過ごす」をテーマに、本・音楽・食・人との繋がりを通じ、“自分の時間”をみつける一泊二日の体験を提供しました。

    ▲キャンプイベント「森の生活」

     

    「ホテルは時間を提供している」自遊人・岩佐さんからの教え

    ――箱根本箱や文喫の事業で得られたことは何でしたか。

    箱根本箱で共に事業をつくりあげた自遊人の人たちからは多くのことを教わりました。特に自遊人代表の岩佐十良さんがおっしゃっていた、「ホテルは時間を提供している」という教えが本当に印象的でした。つまり、宿泊していただいたお客さまには1日以上お時間をいただいている中で、いつ温泉に入ってもらうのか、レストランではどう過ごしていただくかなど、何をどうプレゼンするかが重要ということです。

    翻って、これまでのぼくの仕事に当てはめて考えてみると、これまでぼくらがやっていた「本のある場所を創出する」という表現ではなく、「豊かな時間を提供する場を創出する」という打ち出し方に変えていきたいと思いました。

    ――もっと広義の意味での場の創出をしていきたいということですか。

    未来予測をしていくと、日常生活の中で一人ひとりが使う時間はどんどん細切れになっていき、例えば信号待ちをしている時など隙間の時間に好きなサービスを享受するようになります。つまり1分1秒でエンタメであったり、ビジネスであったり、いろいろなサービスとの時間の奪い合いになるんです。

    こうしたぶつ切りの時間の中でサービスを享受する人に対して、ぼくらはある程度のかたまりを持って豊かさを提供していく必要があり、それが選ばれることにつながると思っています。その意味で、ぼくらは「本のある場所」をつくっているのではなく、「豊かな時間を届けるための場所や機会や体験を提供している」という意識を持たなければ、今のサービス自体がコモディティ化して飽きられてしまうのではないかと。

    ――それは書店というビジネスそのものを転換していくという考えにもつながりますか。

    結果的には書店のビジネスの在り方を変えることにもつながるのではないでしょうか。本を使ってというのはあくまで副次的な話で、豊かな時間や根源的なうれしさをどうつくっていくか、という考え方に変わっていくのが大事なのかもしれません。

    それは本以外にも言えて、例えば「手帳」を売るということは手帳に手書きして自分を振り返る時間を提供することだったり、「スポーツジム」においても体を動かしてその先にある自己実現の場の提供へとつながっているのだと思います。書店というビジネスにおいても、その先につながることを見据えて、さまざまな形で豊かな時間を提供していけるのではないでしょうか。

    ――本の取次業とはまったく違う仕事ですが、日販グループとしてのメリットはどこに感じますか。

    日販には出版業界における先人たちの積み重ねがあり、外部のクリエイティブ企業が簡単にアクセスできない資産があります。例えば、代理店とのイベント企画でいろいろな作家さんにエッセイを書き下ろしていただきました。これは出版社と長年にわたり取引のある日販という信頼があってこそ。他企業では我々のように実現することはできないでしょう。

    こうした出版社さんや書店さんとのつながりを、雑誌や書籍といったメディア以外の場でアウトプットすることで、文化コンテンツをより良い形で生活者に届けることができると考えています。

    ――業界外の人から多くの事を教わりながら、2021年には読書とお茶を愉しめる書店「BOOKS&TEA 三服(さんぷく)」を佐賀県嬉野温泉の旅館「和多屋別荘」に設立されました。

    和多屋別荘さんも、ともに仕事をしたOpenAという設計会社さんが紹介してくれたクライアントです。70年以上続く老舗旅館で、200坪のスペースに本を使って人が集まるラウンジを作りたいという依頼を受けました。すでに「旅館を泊まる場所から通う場所へ」というしっかりとしたビジョンと熱い思いを持たれていました。

    ちなみに、三服という名前はぼくが考えて提案しました。嬉野という土地は「お茶」の名産地でフォーカスされていましたので、何回も来てほしい、深く体験してほしいという意味を込めて、お茶を一服じゃなくて、三服(福)というネーミングにしました。

    和多屋別荘さんもそうですが、クライアントとなる経営者の方に共通しているのは皆、すごく仕事のスピードが速く、好奇心も旺盛ということです。それとこれまでの慣習や固定観念に囚われません。ぼくもそうなりたいと思っています。



    「本は無くても生きていけるもの」、ではない!

    ――自遊人の岩佐さんほか、クライアントの経営者との出会いで皆さんは成長されてきた。

    自分の中で非常に大きな価値の転換というか、少しずつ変わってきたなという感じはありますね。まず、本ありきで企画を考えるのではなく、いろいろ考えた結果が「本」もあるということですね。ですので、「人と本をつないでいく」というようなワードはもう使わないと思います。つないだ先に何があるのかということが大事ですから。

    ――紙の本の需要が落ちていて、本は生活必需品ではなく、趣味嗜好品であったり、無くても生きていけるものというものになってしまったのでしょうか。

    はじめは生活必需品じゃないというか、無くても生きていけるものと思い込んでいました。しかし、ぼくの中で最近、それが壊れました。ぼく自身もこれまで、人生の節目の時や仕事で辛い時などは本や音楽、映画とかに助けられてきました。その時には、その本やその1曲はその人にとっては“必需品”なんですよ。そう思うと、「無くても生きていけるもの」と言うこと自体がすごくおこがましいとなと思い始めたんです。

     

    ブックディレクションからクリエイティブディレクションへ

    ――近年はテーマに即して選書して1,000冊の本を納品するというブックディレクションよりも、前述のような場のプロデュースという仕事が目立っていますね。

    そうですね、プロデュース事業の中で、いわゆるシンプルな選書仕事はだいぶ減ってきましたし、そうした依頼をいただいても、もっと上流の企画から入れないか、こちらから提案することも増えました。

    というのも、選書の仕事をリスト化・アーカイブ化して、案件ごとにリストから抽出して提供するやり方だと、どんどんコモディティ化が起きていくと思うんですね。それってぼくらにとって価値があるのだろうかと。ぼくらはブックディレクションチームではなくて、クリエイティブディレクションチームにならなきゃいけないと思っています。

    それに、選書屋さんみたいになってしまうと、全体のプロジェクトの中で本周りだけを手がける事業者という立ち位置になってしまうんです。プロジェクトの一番上、クライアントに一番近いところにいる旗振り役にならないと、意思ある仕事ができません。つまり、本来届けたい価値を提供できないんです。ですので、プロジェクトの中でも上のクリエイティブディレクターのポジションを今後も狙っていきたい。

    ――図書館流通センター(TRC)さんとも公共図書館において大きな取り組みをされていますね。

    具体的なアクションとしては大きく2つあります。1つは図書館を巡る本のサーカス「Library Book Circus」というイベントのフォーマットを提案しました。これは各図書館でイベントをゼロから立ち上げるのは大変なので、イベントのフォーマットをTRCさんと一緒につくるという取り組みです。

    そのイベントがサーカスのようにいろんな図書館を巡っていくというコンセプトで、ビジュアルとか企画の骨子といった器は共通にして、あとは地域に合わせてアレンジするという立て付けになっています。3月末に2回目を実施する予定でしたが、新型コロナウイルスのまん延防止等重点措置となっため、5月に延期になりました。結構多くの図書館さんから引き合いがあっていい感じで進んでいます。

    もう1つは新しい図書館づくりです。各自治体で図書館を使った新しい街づくりなどの公募型プロポーザルに、TRCさんと一緒に提案し始めました。まだまだ始まったばかりですので、成果はこれからですね。

     

    新たな“モチベーションインフラ”という拠点づくりへ

    ――リノベチームの今後の展開について教えてください。

    箱根本箱、文喫はわかりやすくもあるので、それを拡大していきます。それとは別に、全然違う新しいアプローチをやっていきます。まだまったく誰も価値を感じてないところを、いかに切り開いていくか、いろいろと今考えています。ぼくはどちらかというとそういうことを考えるのが好きで、これまでのアプローチだけだと、ぼく自身も飽きちゃうと思っています(笑)。

    ――今、どんなことを考えているのでしょうか。

    新規ブランドを立ち上げて自治体との仕事をやっていきたい。図書館は当然ですが、公園とか公衆トイレとか、そういった当たり前の場所を生き生きと生きるための場、“モチベーションインフラ”の拠点につくり変えて、新しい価値を提供していきたいと思っています。

     

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    【第2弾インタビュー】

    日販プラットフォーム創造事業本部文喫事業チーム武田 建悟プロデューサー
    “汗水流して”一点物の「文喫」をつくり続けたい!~新たなステージに挑戦する“日販リノベチーム”




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