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  • 年々増加する「職場いじめ」は日本社会の構造的問題|「大人のいじめ」への対処法も掲載

    2021年12月25日
    知る・学ぶ
    中野亜希:講談社BOOK俱楽部
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    大人のいじめ
    著者:坂倉昇平
    発売日:2021年11月
    発行所:講談社
    価格:990円(税込)
    ISBNコード:9784065260944

     

    「大人のいじめ」が起きるメカニズム

    「いじめ」と聞いて思い浮かべるのは「主に学校を舞台に、被害者も加害者も子ども」のケースが多い。しかし、大人にもいじめはある。ネット上での不特定多数によるバッシングや、近隣の知人、ママ友間でのいじめはもちろん、田舎のムラ社会における過剰な監視・干渉などもいじめと呼ぶことができそうだ。
    本書『大人のいじめ』は、その中でも「職場における大人のいじめ」に焦点を当てている。労働問題の啓発や解決、政策提言などを行うNPO法人「POSSE」に実際に寄せられた相談事例をもとに、その特徴や背景を解説した1冊だ。

    職場でのいじめがここ10年で激増している。2011年までの統計では労働相談の1位は「解雇」だったが、この10年で入れ替わるように「いじめ・嫌がらせ」の相談件数が大幅に増加した。

    今や労働相談といえば「職場いじめ」の時代であるという。以下の事件が記憶にあるという人も多いだろう。

    近年、この職場いじめの深刻さを印象付けたのは、神戸市立東須磨小学校の事件だろう。
    20代の男性教諭を主な標的に、同僚の教諭4名が激辛カレーを無理やり食べさせたり、校内の物置部屋に閉じ込めたり、プロレス技をかけるなどの行為をしていたという事件だ。調査委員会によって、125におよぶ多様ないじめが認定された。

    この事件は大きく報道され、手を替え品を替え行われていた陰湿ないじめの手口も明かされた。職場でのいじめは、加害者の性格や資質に、「適切な相談窓口がない」「ハラスメント研修の不十分さ」「勤務年数による上下関係」といった要因が重なり起こるものと思われがちだ。しかし、本件の調査委員会による報告書には「教員の多忙」がいじめを生み出し、止められなくなる「構造的問題」として挙げられている。その構造が日本全体に共通する職場いじめの背景にあり、日本中の職場で発生しうるものだと本書は指摘する。

    また、労災とは、「労働者が労務に従事したことによって被る災害」だが、職場のいじめは労災認定されづらい。
    さらに、労基署が「いじめ」ではなく「業務上の対立によるトラブル」と認定したため、労災として認められないケースも少なくないようだ。

    認定されないケースの多さゆえに見えづらいが、今や精神障害を引き起こしたとして労災を申請されている事件のほぼ半数が、長時間労働ではなく、「いじめ」によるものである可能性が高いのだ。

     

    「職場のいじめ」3つの特徴

    近年の職場のいじめには3つの特徴があるという。

    1.長時間労働など、過酷な労働環境に起因する
    2.上司から部下だけではなく、同僚によってもいじめが行われることがある
    3.会社がいじめを放置している

    職場における「大人のいじめ」は、「気が合わない」「好き嫌い」で始まるものではないし、「会社に訴えれば救われる」わけでもないらしい。はじめに挙げた近隣の人間関係のいじめやネットいじめ、子供のいじめとは根本的に異なる性質がもつことが、明快な分析によって見えてくるのが興味深い。

    本書で取り上げられているいじめの実例は「物流」「介護」「保育」など、長時間、かつ過酷な環境になりがちな労働の現場のものだ。いじめの詳細が克明なので読むのが辛(つら)いところもあるが、読むほどに「職場のいじめ」は単に「反りが合わない」「性格の悪い人間はどこにでもいる」といったレベルの話ではないのが腑(ふ)に落ちる。
    時間的・精神的なゆとりが失われている職場は少なくない。上司を含め社員に対するプレッシャーが強まり、ストレスが増加し、非効率な者、異物と見なされた者は「いじめても良い存在」とみなされる。

    例えば、マタハラ。

    責任や業務量が増大し、働き続ける必要性が増す中で、妊娠、出産、育児が職場に「迷惑をかける」行為として浮かび上がり、「コスト」を抑制する「合理的」な労務管理として、マタハラが蔓延しているのだ。

    短期的な利益追求の手法として、会社がいじめを容認することがある。いじめ行為によって非効率な社員、異質とみなされた社員を退職に追い込んだり、見せしめとして他の社員を律するのだ。介護職場における大人のいじめについて、以下のように語られていたことが、ここでも説得力を持ってくる。

    利潤を第一に考える経営者の方針に「適合」するように、職員の思考や働き方、人間関係が変容させられた結果として、いじめが蔓延しているのだ。

     

    20ページでわかる「大人のいじめ」への対処法

    職場のいじめは構造的なものと考えると、「気にしないほうがいい」「そんな会社はやめてしまえばいい」という気休めや一時的な配置換えといった対策では根本的な解決にならないことがわかる。今すでに「いじめられていて、辛い」という人も多いだろう。

    もしあなたがそんな状況に置かれているなら、巻末の「付録 職場いじめに悩む人への実践的アドバイス」は必読だ。20ページほどの中に、個人として職場のいじめにどのように対応すべきかがコンパクトにまとまっている。「選ぶにあたり、慎重になるべき選択肢」とその理由も挙げられており、非常に有用だ。人に対する好き嫌いや、感情のもつれによる人間関係の不和への対処法は千差万別だが、職場における「大人のいじめ」は、ある意味システマティックに起こるものだ。このアドバイスに沿って粛々と対応することで、ある程度の解決を見られることも多いのではないだろうか。

    日本で暮らす私たちは、子供の頃から「みんなと仲良く」「働くことは素晴らしく、尊い」と教わってきた。しかし、働くことの負の側面や、労働者の権利について学ぶ機会はとても少ない。日本で働く社会人にとって、本書は読んでおきたい1冊と言えるだろう。

    (レビュアー:中野亜希)


    ※本記事は、講談社BOOK倶楽部に2021年12月14日に掲載されたものです。
    ※この記事の内容は掲載当時のものです。




     

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