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  • 「子育てだけが、昭和の時代から地続きなのかも」|『山中教授、同級生の小児脳科学者と子育てを語る』

    2021年12月11日
    知る・学ぶ
    中野亜希:講談社BOOK俱楽部
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    山中教授、同級生の小児脳科学者と子育てを語る
    著者:山中伸弥 成田奈緒子
    発売日:2021年10月
    発行所:講談社
    価格:990円(税込)
    ISBNコード:9784065259122

    「くじけない、折れない、しぶといメンタルを作るにはどうしたらいい?」「世の中には勉強より大切なことがある!」『山中教授、同級生の小児脳科学者と子育てを語る』は、天才ノーベル賞科学者・山中伸弥教授が、神戸大学医学部時代の同級生で「勉学の恩人」でもあった小児脳科学者・成田奈緒子医師と子育て論を語る1冊だ。

    山中教授といえば「iPS細胞の開発」「ノーベル賞科学者」。子育てを語るイメージはない。山中教授も確かに人の子であり親だけど、きっとご両親もお医者様で、小さい時から恵まれていたのでは? すごい人が、なるべくしてすごくなった話かあ……。私はそう思っていた。本を開いてすぐの、著者おふたりのプロフィールを見るまでは。

    81年 一度も塾に通わず神戸大学医学部に現役合格。柔道部に入ったが、3年でラグビー部に転部。授業にあまり出ず、出席番号の近かった成田のノートを借りて試験を乗り切る。

    成田先生を「恩人」と称し、「成田さんがいなければ、僕は大学の医学部を卒業できなかったかもしれない」という山中教授。部活に没頭して同級生にノートを借りるなんて、なんだか親しみやすい。勉強漬けでガツガツしているわけでもないのに、一度も塾に通わずに医学部に合格できる秘訣は「天才だから」だけじゃないようだ。

     

    「ほったらかし」が子どもを伸ばす

    山中教授のお母様は、実家の工場の経理を担当しており、家にいることは少ない。子ども時代の山中家は、今どきの共働き家庭と同じような環境だったという。両親とも、忙しさもあってか、子どもにあれこれ言うタイプではなかったそう。

    成田 怒られたことも?
    山中 いや、それは当然あったよ。一番怒られたのは、コタツ台を火の海にした時かな。
    成田 火の海!?

    科学雑誌の付録のアルコールランプで遊んでいたら、アルコールをこぼしてコタツ台は火の海に。たまたま、その日は家にお母様がいて大事に至らなかったものの、ずいぶん怒られたそう。それでも「もう科学雑誌は買ってあげない」とはならなかったし、子供の自主性を伸ばすためか「なんでも自分でしなさい」という家庭だったと山中教授は語る。お父様から医学部受験を勧められたのは高校3年の秋。山中教授の同級生であり、小児科医である成田奈緒子先生は「親子関係の距離感が絶妙」と絶賛する。

    成田 いや本当にそう思います。例えば、高度成長期からずっと、多くの日本人がわが子に「こうなってほしい」とレールを敷いてきたと私は考えてます。そのレールから外れてしまうと心配で仕方がないから世話を焼く。平成、令和とさまざまなものが変化したのに、子育てだけが、昭和の時代から地続きなのかもしれません。
    山中 そうなっちゃいますね。
    成田 ところが、心配された子どもは「一番そばにいて自分をわかっているはずの親から、こんなに心配されている自分はダメな人間だ」って思っちゃう。心配されるってことは信用されていないってことだから。子どもの自己肯定感はどんどん下がる。そう考えると、自分で選んだことを失敗しては立ち上がって続けて、自信をつける方が重要。

    自己肯定感が下がる原因を紐解いてみると、子ども時代の経験に端を発していることが少なくない。忘れるくらい昔の親の一言が、呪いのように子どもの心を縛っていることもある。親が心配してくれることをありがたく思う反面「自分でできるのに」「どうしてあれこれ口を出すんだろう」と感じたことのある人は多いだろう。
    「ほったらかし」とは、自分で考える力を身につけさせること。放置ではなく、子育てに必要なことなのだ。

     

    「助けて」を言える力

    一方、成田先生は多忙な病院勤務のお父様と、今でいう「教育ママ」のお母様の元で育った。注意力に欠け、不器用な面があり、今ならおそらくADHDと診断されたかもしれないという成田先生。ご両親との関係は良好なものではなかった。大学時代に親しくしていた山中教授も、ずっと後に雑誌の記事でそれを知り、ショックを受けたそう。

    山中 50年近く前の話やもんな。お母さんはもちろん、医者にさえ知識はなかったよね。(中略)
    成田 そうだと思う。こうやってその分野が専門の医者になってみて、母親の狼狽というか、焦りが手に取るようにわかる。今、初めてお会いする患者さんの親御さんは、皆さんうちの母親と様子がそっくりやもんね。あの時代、娘の辛さに寄り添うのは難しかったと思う。
    山中 そんなふうに言えるなんてすごいな。

    「うちの家庭そのものが『こころ』が入っていない『家庭』という箱だけだったように思う」という成田先生。多忙な家庭と育てにくい性質の子。半世紀以上たった今でも、同じような悩みを抱える家庭は多い。

    子どもたちは、自分の本音を絶対に出せない。思っていることを表に出せない。親に自分の本心を伝えられない。でも、そこをほぐしてあげて、親に自分のありのままを出せるようになったとき、初めて子どもたちは解放されるんですね(成田)

    成田 「助けて」を言える力を育てるには、「いつでも助けるよ。大丈夫だよ」って周囲が伝えることです。SOSは恥ずかしいことじゃない。あんた、ひとりで生きてるんちゃうで! って伝えなくてはいけません。

    世間体を保ち、素の自分を隠す。そうして家庭の体裁を保つことは、親に子にも必要ない。素を出すこともSOSを出すことも、恥ずかしいことではないのだ。そして、正しく自己肯定感が育っていれば、周囲に助けを求める自分を責めることもない。「ちょっと手を貸してくれへん?」と素直に言える人は、そこをきっかけにまた成長できるのだ。

     

    良い習慣が脳を育てる

    親が子にしてあげられることは、良い習慣をつけてあげること。二人が口を揃えて挙げる大切な習慣が「早寝早起き朝ごはん」だ。両家ともに、多忙な両親ではあったが、子どもたちに早寝早起きの習慣をつけ、栄養を考えた食事を作ってくれていたことが、脳の発達に大きな影響を与えたという。

    成田 一番は、「早寝早起き朝ごはん」。幼児期から夜は8時に寝かされて、朝は5時、6時起き。この習慣をきちんとつけてもらったからこそ、確実に脳が育ったと思う。だからこそ、小学校から大学まであれだけの心理的ストレスがありながら、こころが壊れなかったのだろうと思います。

    脳を動かすために食べ、食べるために脳内物質を活性化させる。そのしくみは「早寝早起き朝ごはん」にあるのだ。確かに、子ども時代を思い起こせば、成績の良い子はみんな早起きして身なりをきちんと整え、朝ごはんをしっかり食べてきていた。睡眠を大切にし、「早寝早起き朝ごはん」の習慣を守る。そうすれば全部うまくいく。本書を読むと、その理由がしっかり分かる。なんと言ってもそのエビデンスが山中教授、成田先生のお二人なのだ。これほど説得力をもつ話があるだろうか。

    本書は、もうすぐ還暦の著者おふたりが「どう育てられたか」「子供をどう育てたか」を語る1冊だが、今の時代においてもすんなり読める「子育ての極意」ではないだろうか。「良いものは良い」という普遍性を感じる。コロナ禍であり、なにかと閉塞感のある今の日本だが、そこで子どもをどう育てればいいのか、多くのヒントを得られるはずだ。

    筆者は子育てをしていないが「自分はこれでいいんだ」と気づきがあったり、おふたりの心の柔軟さや若々しさに「歳を取るのも悪くない」と明るい気持ちになれたことも書き添えたい。子を持つ親だけでなく、すべての世代におすすめしたい1冊だ。

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      (レビュアー:中野亜希)


      ※本記事は、講談社BOOK倶楽部に2021年11月17日に掲載されたものです。
      ※この記事の内容は掲載当時のものです。




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