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  • 人類はあと100年で絶滅する!?進化の仕組みから知る「死」と「多様性」

    2021年06月13日
    知る・学ぶ
    草野真一:講談社BOOK倶楽部
    Pocket

    生物はなぜ死ぬのか
    著者:小林武彦
    発売日:2021年04月
    発行所:講談社
    価格:990円(税込)
    ISBNコード:9784065232170

     

    遺伝情報とは設計図だ

    本書の著者、小林武彦先生は生物学、わけても遺伝研究の専門家です。数年前に『DNAの98%は謎 生命の鍵を握る「非コードDNA」とは何か』という本を出版されています。

    わたしたちの姿は、両親から受け継いだ遺伝子から構成されている部分がとても多くなっています。これは、細胞内のDNAに書き込まれた遺伝情報(ゲノム)のはたらきによるものです。
    本書の表現をかりれば、遺伝情報とは設計図です。人はそこに書き込まれた情報にしたがって組み立てられます。ところが、DNAでこの役割を果たしているのはわずか2%にすぎず、残りの98%は何のために存在しているのかわかりませんでした。Junk(ゴミ)とさえ言われていたのです。『DNAの98%は謎 生命の鍵を握る「非コードDNA」とは何か』は最新の研究成果により、ここが重要な役割を担っていることを教えてくれました。

    本書は、それとは少々趣を異にしています。

    自分のおじいちゃんは父方も母方も若ハゲでした。子どものころは、将来は自分も若ハゲになるんだと思っていました。ところが今、すっかりオッサンになっても、この兆候はあらわれていません。
    おじいちゃんの設計図にはまちがいなく「若ハゲ」と書かれていたはずです。自分はそれを受け継がなかったか、顕現しないようなかたちで受け継いだか、いずれかだったということでしょう。

    どうしてそんなことが起こったのでしょうか?
    自分のアタマがおじいちゃんの性質を引き継がなかったのはなぜなのでしょう?

    実は、このことが本書のテーマ「生物はなぜ死ぬのか」に大きく関係しています。

     

    進化の理由

    結論からいうと、わたしが若ハゲにならなかったのは、遺伝が備えている性質――多様化によるもののようです。
    わたしはおじいちゃんからさまざまなものを受け継いでいます。顔や肉体の造作はもちろん、味覚や好み、酒が呑めるか呑めないかまで。
    しかし、おじいちゃんとまったく同じではありません。似てはいるが、違っているところもたくさんあります。そのひとつが頭髪の状態だったのです。すなわち、遺伝とは「似たものを作りだすしくみ」であると同時に、「違ったものを作りだすしくみ」でもあります。

    本書はそれを語るために、地球の誕生とそこにはじめて生物が生まれた事情から語り起こしています。思わず、おいおいそこから始めるのかよとツッコミを入れてしまいましたが、後述するように、「生物はなぜ死ぬのか」はとても大きな問いです。その問いに答えを与えるために、本書は始原を述べているのです。

    本書に紹介されたたとえ「25メートルプールにバラバラに分解した腕時計の部品を沈め、ぐるぐるかき混ぜていたら自然に腕時計が完成し、しかも動き出す確率」の奇跡(と呼んでいいでしょう)によって地球に生物が誕生して以来、生物は進化を続けてきました。
    長い長い時間のあいだには、環境は幾度も変わりました。極端に気温が低くなったこともあるし、酸素が少なくなったこともあります。巨大な隕石が降り注いできたり、大地震が起こったこともあります。そのたびに、生物はかたちを変えてきました。
    進化とは遺伝のつみかさねです。もし遺伝が「同じものを作りだすしくみ」であったなら、こうした環境の変化に適応できるはずはありません。
    適応できなければ、個体の死、さらには種の絶滅があるばかりです。たとえば今、われわれは恐竜を見ることはできませんが、これは彼らが環境の変化に適応できず、絶滅の道をたどるほかなかったからです。

    わたしたちが今ここに存在しているのは、気が遠くなるような回数の遺伝、つまり「別のものを作りだす」ことを繰り返してきたからです。ものすごくわかりやすく乱暴に表現するならば、「俺はこの変化に耐えられないが、息子たちは耐えられる。なぜなら俺と同じじゃないからだ」そう言い残して息絶えるような父親があったからです。

    遺伝子の変化が多様性を生み出し、その多様性があるからこそ、死や絶滅によって生物は進化してこられました。その過程で私たち人類を含むさまざまな生き物は、さまざまな死に方を獲得してきました。現在も「細胞や個体の死」が存在し続けるということは、死ぬ個体が選択されてきたということです。「進化が生き物を作った」という視点から考えると、「生き物が死ぬこと」も進化が作った、と言えるのではないでしょうか。

     

    お釈迦様の疑問は解決された?

    生物はなぜ死ぬのか。その理由のひとつはここにあります。生物は自分に似てはいるが別の性質を持つ個体を作りだし、環境の変化に適応してきたのです。

    これが、たいへん哲学的かつ宗教的なテーマであることはおわかりでしょう。

    紀元前のインドに、とても裕福な王子様が生まれました。彼は、望めばどんなものでも手に入りました。召使いがたくさんいる自分の城に住んでいましたし、舞踊など芸の観覧も毎日のようにおこなっていたといいます。美しいお姫様と結婚して子どももつくりましたし、お妾さんも何人もいました。およそ考えられるあらゆるものを、彼は手にしていたのです。しかし、満足はできませんでした。やがて彼はそのすべてを捨て、いち修行者になります。数年後、彼はお釈迦様と呼ばれるようになりました。

    彼が満足できなかったのは、現状を享受していては、彼が抱いた疑問――生老病死に答えを与えることができなかったからです。

    本書は、「生物はなぜ死ぬのか」のみならず、生老病死すべてに答えを与えています。こんなことを言うと仏教関係者に叱られてしまうかもしれませんが、若きお釈迦様が抱いた疑問の半分ぐらいは、本書に答えがあるのです。しかも、本書の語り口はたいへん平易ですから、自分のような門外漢さえ理解できます。

    とはいえ、だからこそ生まれるペシミスティックな認識もあります。

    私は、何も対策を取らなければ、残念ですが日本などの先進国の人口減少が引き金となり、人類は今から100年ももたないと思っています。非常に近い将来、絶滅的な危機を迎える可能性はあると思います。

    本書はたいへんわかりやすい遺伝学の入門書になっています。「ああ、そういうことなのかあ」と感じる瞬間が、あなたにもきっとあることでしょう。

    同時に本書は、提言の書でもあります。

    このままいけばたぶん滅ぶ。しかし、それを回避する方法もある。すごく難しいが不可能ではない。この本は実証的な科学の方法をとりつつ、そう語っています。

    (レビュアー:草野真一)


    ※本記事は、講談社BOOK倶楽部に2021年5月27日に掲載されたものです。
    ※この記事の内容は掲載当時のものです。




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