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国内における新型コロナウイルス感染拡大の「第一波」から約1年後となる4月10日、“ポストコロナのビジネス&カルチャーブック”『tattva(タットヴァ)』が創刊されました。
季刊誌として創刊された『tattva』は、特集だけでも100ページ超、一冊全体では224ページというかなりのボリューム。オードリー・タン氏、キャス・サンスティーン氏を筆頭に、創刊号には、哲学者、人類学者、精神科医、ミュージシャン、劇作家・演出家、落語家、工学博士、作家、ビジネスコンサルタント、美術評論家……と多彩な顔ぶれが登場しています。
そんな創刊号の特集テーマは「なやむをなやむのはきっといいこと。」。コロナ禍の混乱のなか、編集長の花井優太さんは「もしかすると、今一番、人類が同じテーマで悩んでいるかもしれない」「きちんと歩みを止めて、しっかり悩むことが必要なのではないか」と思い、創刊を決めたのだといいます。
この記事では花井編集長に、『tattva』創刊について伺ったインタビューをお届けします。これまでの日常を見つめ、不安ななか“これから先”を考えながら、1日1日をつないできた1年間。今あなたは何を考え、どんなことに、どんなふうに悩んでいますか?
―― まずは『tattva』創刊おめでとうございます。二子玉川 蔦屋家電でビジネス書ジャンルで月間売上トップをとるなど、早くも反響が寄せられていますが、創刊の準備はいつ頃始めたのでしょうか。
動き出したのは昨年の6月頃だったと思います。全体の構想はまだ漠然としていましたが、“雑誌”と聞いて一般的にイメージするような週刊誌やファッション雑誌の判型ではなく、書籍としても読まれる判型にするということだけは決めていました。
というのも、新型コロナウイルス感染症の拡大で、アルベール・カミュの『ペスト』が売れましたよね。
―― 売れましたね。「わずか4か月で12回、36万部超も増刷された」と発表されています(※2020年6月時点・新潮社発表によるもの/くわしくはこちら)。
電子書籍で買った人ももちろんいたでしょうけど、紙の本だけを見ても、そんなに大勢の人が『ペスト』を買ったわけですよね。しかも、ステイホームが推奨されている環境下にもかかわらず。さまざまな娯楽が「不要不急」という言葉のもとに自粛を強いられているなかで、今、人々は“考えるためのもの”を必要としているんじゃないかと思ったんです。
こういう不安定な、混沌とした状況下で重要なのは、受け取る情報に対して自分がどう向き合うか、自分と社会をどんなふうに結びつけるのかです。情報が氾濫するなかで、不確かな情報が急速に拡散され、オイルショックの時と同じようにトイレットペーパーの買い占めが起き、問題になりました。でも、「トイレットペーパーを買い占める必要はあるのか」を確かめるために、受け取る情報を「本当に正確な情報か?」と一つひとつファクトチェックしていくことは、実際には難しいですよね。たとえば新聞を毎日読んでいたとしても、各社の主張をわかっていないと、テキストの先を考えることはできません。それで、「こんな時代だからこそ変わらなければならない」と変化を急かすのではなく、まず「考えること」を提案しようと思いました。
今までは「それでも毎日は進んでいくから」と、多くの人が、不安や悩みに気づかないように、歩みを止めないようにしてきたと思うんです。そんな時、新型コロナウイルスという“わからないもの”によって不確定なことがたくさん起きて、これまで以上に、自分以外の人々の生活にも思いをめぐらせ、社会にもコミットしていく必要性が出てきました。だから、焦りにかられて無理にアクセルを踏まずに「自発的に歩みを止めることもありなんじゃないか」と考えました。
答えは一つと決まっていないし、きっとたくさん悩んでも答えは出ないし、出ないのは悪いことじゃないんです。それで、特集テーマは「みんなで考えよう」とかじゃなく「なやむをなやむのはきっといいこと。」にしました。これは『tattva』を作ることにしてから、比較的すぐに決まりました。
―― 内容もボリュームも、それこそ歩みを止めなければ、読みきれないし咀嚼もできない質・量です。
手段としては、Webメディアという選択肢もありますよね。実際、Webメディアでも、電子書籍でもよかったんです。
それでも紙媒体を選んだのは、コンテンツとコンテクストを編み合わせるのに最適で、かつ、一冊を通しての流れがあるのにどこから読み始めてもよく、途中で読むのをやめることもできる媒体だからです。Webはバラバラで記事が読まれるのが基本設計なので、他の記事との緩やかな連動が難しい。動画は基本的に、一度見始めたら止めることができないですよね。
それに、紙の本って、大勢の人が手軽に“共通の体験”をできるすごくいいツールなんですよ。デジタルデバイスは、ほとんどの人が持っていますけど、持っているデバイスによって画面の明るさや大きさ、操作性が異なります。人々がリアルで繋がりにくいタイミングなのと、「みんなで一緒に考えようよ」という『tattva』の姿勢としても、再生環境を同じにできる紙の本という媒体を選びました。
―― “ビジネス&カルチャーブック”というコンセプトも新鮮に感じました。
書店員さんたちからも「“ビジネスとカルチャー”をはっきり謳っているものって、これまでになかったですよね」という声をいただいています。思想も、社会学も、伝統芸能も、建築も、音楽も、一見いろんなものが全部ごちゃ混ぜになっているように見えると思うんですが、「バラバラのようでいて実はつながって構成されているのがいいですね」とも言っていただけていて、ちゃんと伝わっているのを感じてうれしいです。置いてくださる書店さんも増えていますし、ネット書店でも、特に週末の売れ行きがいいようです。
ビジネスとカルチャーを組み合わせたのは、「ビジネスの側からカルチャーを知ること」と、「カルチャーの側からビジネスを知ること」を同時にやりたかったからです。人って、日々の営みのなかで、働きながら文化的なものを楽しんでいるし、文化的なものを楽しみながら働いているわけですよね。両方同時にあるのが自然なんです。
―― カルチャーとしての価値と、ビジネスとしての成功。確かに、片方しか語られないことが多いですね。
「実際の自分たちの生活は、そんなにバーチカルじゃないのにな」と思っていました。『tattva』創刊号では、いろんな悩み、わからないものに寄り添うヒントを得られればと、各界でそれぞれ答えがなかなか出ない中、ご自身のお仕事を実践されている方たちが登場くださっています。普段は作品のことを主に語っていらっしゃる方が、『tattva』ではビジネスの話をしていたりします。
両方の視点があることが当然だし、両方の視点から見ないと見えないものがあるので、『tattva』ではどっちの入り口をもっているんです。
―― たとえば社会問題にアプローチする活動をしている企業・団体は、よく「この会社(団体)がなくなることがゴール」と発信していたりします。自分の内面と自分を取り巻く社会、両方に向き合うきっかけを提案している『tattva』ですが、もし私たちが深刻に悩むことのない世の中になった時、どうされますか。
そうですね……。役目を終えたと思ったら、『tattva』はリニューアルとかをして続いても、僕は編集長ではないんじゃないかなって。先のことだからなんとも言えないですけど、今はそういう気持ちです。
『tattva』は季刊です。次号のテーマは「にほんてき、ってなんだ。みにまりずむ? でこらてぃぶ?」。2021年7月上旬発売予定となっています。
〈編集長プロフィール〉
花井優太(はない・ゆうた)
1988年生まれ。編集者。カルチャー誌やウェブメディア、企業のブランドブック制作などを経験したのち、2021年にブートレグからビジネス&カルチャーブック『tattva』創刊。同誌編集長。広告領域のプランニングも行なっており、エディトリアルをバックボーンとしながら、世の中の文脈にフィットまたは先見性を持った戦略、クリエイティヴを得意とする。