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4月14日(水)に発売された『実力も運のうち 能力主義は正義か?』が、発売直後に3刷が決定し、早くも2万部を突破するなど売れ行き好調です。
著者は、100万部超のベストセラー『これからの「正義」の話をしよう』やテレビ番組「ハーバード白熱教室」(NHK Eテレ)で知られる政治哲学者のマイケル・サンデルさん。新刊『実力も運のうち 能力主義は正義か?』では、人種や性別、出自によらず能力の高い者が成功を手にできる「能力主義(メリトクラシー)」に対する批判が展開されています。
能力主義の社会に生きる人びとは、才能と努力の許すかぎり成功を目指すことができます。一見すると、誰にも成功のチャンスが平等にあるようですが、果たしてそれは本当でしょうか? その成功(あるいは失敗)によって格差や分断を生む、大きな“落とし穴”があることを、あなたは見抜けますか?
達成への障壁を取り除くことができれば、誰もが成功を収める平等な機会を手にするはずだ。人種、階級、性別にかかわらず、自分の才能と努力が許すかぎり出世できるのである。さらに、機会が本当に平等なら、頂点に登り詰めた人びとは、成功とそれがもたらす報酬に値すると言っていいだろう。これが能力主義の約束だった。
本書126ページより
「人種、階級、性別にかかわらず、自分の才能と努力が許すかぎり出世できる」。私たちは、この約束を守る能力主義の社会を生きています。平等な条件で競争した結果は、その結果を出した個人へと向けられます。
当たり前に見えるこの約束は果たして守られているのでしょうか。ここに、人間の尊厳を損なう“落とし穴”があるとサンデルさんは言います。
社会で成功できる才能を授かることや自分の能力を伸ばす環境は、個人の能力だけで選択することはできません。しかし、勝者の多くは、自身の成功について、自身の能力によるものだと信じてやまず、敗者に対しては「やればできる」「努力不足」という言葉を投げつけます。そして敗者もまた、成功できなかった自身の能力を卑下しながら、勝者のことを疎む構造になっています。
サンデルさんはイギリスのEU離脱(ブレグジット)やアメリカのトランプ大統領就任を例に出しながら、平等となるはずの能力主義が格差や分断を生んでいると批判します。
サンデルさんは、能力主義を全否定するわけではなく、世界的に囚われている過度な能力主義を見直したいと考えています。
サンデルさんはこの改善策の一つとして、大学入試の「くじ引き」の導入を提案します。
大学入試は働き口など今後の人生に大きく影響を与えるイベントです。その勝者となるため、日米問わず熾烈な競争を生みます。
「くじ引き」の導入は、能力主義に生きている私たち――とくに勝者たち――にとって不公平な印象を覚えるかもしれません。しかし、生まれや環境、そして個人の才能など、一人ひとりが同じ条件ではないこと、つまり人生には「運」や「共同体」といった能力以外の要素が絡むことを思い出させてくれます。
この提案は、あくまでも解決する可能性の一つ。望ましい社会のあり方は、あらゆる階級、性別、人種、民族の人びとによる熟議の中からしか生まれないものです。
本書は、今の社会が直面している難題を通して、誰にとっても善いとされる社会の仕組みについて考える土台を提示してくれます。