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  • 生物に「顔」があるのは何のため?顔の進化の意味を解きあかす

    2021年04月02日
    知る・学ぶ
    花森リド:講談社BOOK倶楽部
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    「顔」の進化
    著者:馬場悠男
    発売日:2021年01月
    発行所:講談社
    価格:1,100円(税込)
    ISBNコード:9784065222317

     

    いろんな「顔」の不思議に出合う

    首から上のあちこちを撫でたりつまんだりしながら読みたくなる本だ。『「顔」の進化 あなたの顔はどこからきたのか』には、太古の顔から未来の顔、そしてあらゆる生物の顔にまつわる面白いエピソードが並んでいる。

    ブルーバックスや学術文庫を読みながら「面白いなー、誰かに話したいな」と思ったところに付箋を貼っていくのが好きなのだが、この本は付箋がびっしりになった。ああどこを紹介しよう。

    たとえば、“第2章 顔の人類学”にはこんな楽しいくだりがある。

    顔が胴体の真上に載っていて、全体にのっぺりと平らで毛がない。頭だけが異様に盛り上がっていてやたらに長い毛があり、あるいは毛がなくてもテカテカ光ったりしていて目立っている。だが鼻面(鼻鏡)はどこにあるかもわからず、下を向いた二つの孔で呼吸しているのはいかにも息苦しそうだ。耳もとても小さく、毛が生えていない。しかも、まったく耳を動かさないので、どんな気持ちでいるのかわからない。

    さあ、これはどの生き物の顔でしょう? 答えは“ヒト”。ではこの辛口コメントは“誰”によるものか? “イヌ”です。

    そもそも眼が前を向き、横に切れ長で、白目がむき出しになっているのは気持ちが悪い。かわいそうに口が引っ込んでいて小さいので、餌を食べにくそうだし、身を守る犬歯も小さい。

    けちょんけちょんに言われているが、よくよく考えると私たちの顔は本当にそんなつくりになっているし、イヌの顔はそうじゃない。なるほどヘンテコだね。私たち、なんでこんな顔になっちゃったのだろう? まあ、私に言わせればイヌの湿った鼻も不思議だよ。

    こんなふうにありとあらゆる生物の「顔」の不思議とその答えに出合う本だ。それぞれの「顔」がなぜそうなったのか、そもそも「顔」とは何であるのかを楽しく教えてくれる。昆虫にも爬虫類にも魚にも……いや、「口」を持つ生物にはみんな顔があるのだ。

    そして、どういう顔なのかによって、その生物の行動もわかる。

    魚類では、顔(頭とも一体)の後ろは、すぐ胴体になっている。胸と腹の区別はなく、胴体の椎骨から肋骨が生え、肋骨で囲まれた中心に心臓を含めた内臓が入っている。つまり、頸がないので、顔だけを動かすことはできない。

    ほんとだ、クルッとこちらを見てくる魚はいない。思わず自分の首をさすりながら読んでしまった。

    著者は馬場悠男先生。人類学の研究者だ。国立科学博物館にいる猿人の「ルーシー」や、近年インドネシアで発見されたホモ・フロレシエンシスの復元を見たことがある人も多いのではないだろうか。彼らは馬場先生の企画・監修のもと生まれた。NHKのサイエンス番組でもおなじみだ。

    私はこの小柄なフロレシエンシスのちょっと勇ましいポーズと表情が大好きだ。(このフロレシエンシスの魅力の理由が本書でよくわかった。とてもドラマチックな人なのだ)

    人類はどうやって今の顔になったのか。

    ご先祖たちを並べるとよくわかる。体の構造が変わると、顔と動きが変わる。そして体の構造が変われば喉の形もかわり、やがて声もでる。

    もともと口と顔の関係は、「食う」という生物としての最重要課題を満たすことから始まった。なお、食う機能にはのちに、攻撃や威嚇という機能も含まれるようになった。
    ところが、ヒトの出現によって、口の役割はそれまでとは大きくかわった。(略)いわば、消化器の入り口に情報発信機能が付加されたのである。

    声が出れば複雑なコミュニケーションがとれて、やがて文化がうまれるのだ。顔って面白い!

     

    アジア人には横顔がない

    ヒトと他の生物の顔の違いに加えて「人種ごとの違い」にも本書はふれている。ここでとくに好きだった箇所をいくつか紹介したい。

    まず、大前提としての「人種差別はやめよう」という話について。たとえば目が小さくて一重まぶたで頬骨が高くて鼻がまるっこい私がキューバやローマに行ったら、しみじみ「うわー、みんなと違う」と思ったし、「君はどこからきたの? 中国? 日本?」と言われた。悪意を感じたことはあまりないけれど、「みんな一緒」なんて思えないし、自分自身だって「違い」は絶対に気になるのだ。

    ヒトの顔の違いを述べるうえで、「人種差別はやめよう」ということと同時に、馬場先生はこう断言する。

    「違いがない」という考えにもとづいて人種差別を反対するのは、もし「違いがある」と証明されたときに、ならば差別してよいのだと誤解されるおそれがある。違いがあっても、それを認めることが重要なのだ。

    「違うものは違うし……」とモヤモヤする気持ちが晴れた。

    上記のことをおさえつつ、次のくだりを読んで「あー!」と膝を打った。

    ヨーロッパ人は鼻が高く隆起し、頬が引っ込んでいるので、横顔でも個体識別することが可能である。ところがアジア人は、稀な例外はあるが、一般には横顔では個体識別ができない。
    紙幣に印刷された偉人の顔は、斜め正面のことが多いが、コインに刻まれる顔は、必ず横顔である。それは、コインに顔を刻み始めたのがヨーロッパ人(西アジア人も含む)だったからだ。もし、東アジア人がコインに横顔を掘ろうとしても、個体識別ができないのであきらめざるをえなかっただろう。

    たしかにものすごく知っている人の横顔以外はあまりわからない。日本の紙幣に印刷されている偉人は横顔じゃないし、あの横顔のコインは西洋のお金というイメージだ。(福沢諭吉もけっこうこちら側を向いている)

    他にも、ディズニー映画でよく見る片眉をクイっと上げる表情を私がちっともマネできない理由も本書のおかげでよくわかった。生物学的特性によるものなので、ディズニープリンセスのあの顔は、練習すりゃできるってものでもなさそうだ。

     

    顔のためにできること

    ヒトの顔の仕組み、なりたち、そして進化がわかると、次は「じゃあ未来はどうなるの?」という点も気になってくる。2万年といわずほんの数百年で日本人の顔の形は変わっていること、そして現代において歯並びが悪い人が増えた理由についても本書はふれ、警鐘を鳴らす。

    外国の多くでは(アメリカでさえ)、サラダにする野菜は硬く、慌てて食べると口の中が切れそうになる。肉も硬い赤身が多く、それを噛みしめて味わっている。ヨーロッパでは、パンの大部分はグルテンが多く、チーズやハムをはさんだサンドイッチを、幼児も老人も食いちぎって食べている。

    噛んで食べることは生きることや顔につながっている。魚類もイヌもゾウも顔のパーツとして歯をもち、その歯の本数や配置が顔にどんな影響をあたえるかが本書を読むとよくわかる。だから、私たちも自分の顔のことを思えば、きっと硬い食べ物を食べたくなるはずだ。顔の歴史と仕組みを知ると、顔を大切にしたくなる。

    ちなみに、本書によると我々ヒトは「くしゃみ」の方法が正しくないらしい。イヌやヒトの赤ちゃんは「正しいくしゃみ」ができている。知らなかった! そりゃもちろん顔は大切だし、できればこれも改められたらいいのだけれど、ちょっと私は無理かもなあと考えている。

    (レビュアー:花森リド)


    ※本記事は、講談社BOOK倶楽部に2021年3月6日に掲載されたものです。
    ※この記事の内容は掲載当時のものです。




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