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  • ハラリ、ピケティら「21世紀の賢人」が語るアフターコロナを生きるヒント

    2021年03月22日
    知る・学ぶ
    草野真一:講談社BOOK倶楽部
    Pocket

    新しい世界
    著者:クーリエ・ジャポン
    発売日:2021年01月
    発行所:講談社
    価格:990円(税込)
    ISBNコード:9784065225462

     

    16人の賢者が語る「コロナと世界」

    現在、世界中で起きているコロナウイルスによる混乱は、まさに未曾有のものです。わたしたちはそれぞれに、コロナ禍に、そしてそれが収束した後の世界に向きあっていかねばなりません。
    とはいえ、それは容易なことではありません。二転三転する政治状況は、この国の指導者たちも迷い、困惑していることを如実に示しています。誰もどうしていいかわからないのです。

    アタマのいい人に聞いてみよう。
    ものすごく雑にいうと、本書のテーマはそれです。

    本書は巻頭で次のように語っています。

    本書を一言で形容するならば、世界最高の知性と洞察力を兼ね備えた、いわば「21世紀の賢人」たちが、それぞれの専門分野の立場から世界のいまを分析しつつ、「世界のこれから」について論じた一冊と言えよう。

    かくして、16人の賢人が現在を語る本ができあがりました。16人ですから、それぞれの語りは決して長くありません。また、記事はインタビュー形式でまとめられているため、モノによっては彼ら自身の著書よりずっと平易でわかりやすいものになっています。

    16人の主著をぜんぶ読破したという読書家(剛の者!)もいらっしゃるかもしれませんが、たいがいの人はなじみのない人もあることでしょう。ここには混迷の時代を生き抜く知恵が羅列されてあるばかりでなく、現代思想の地図も示されており、その意味でも画期的な本です。

    ときに、賢人たちの意見は対立していることもあります。しかし、彼らの意見を参考とし、羅針盤として進むべき道を見出そうとするならば、対立意見があることはむしろ好もしいことと言えるでしょう。誰もが最終的にひとつの道を選ばなければなりませんが(「なりゆきにまかせる」のもひとつの選択です)、どんな道を進むにせよ、さまざまな考え方に接した者とそうでない者では、その豊かさがまったく異なります。

    本書はまさに、ウィズコロナ、そしてアフターコロナの最高のガイドブックであります。

     

    人類は飢餓と戦争、感染症に勝利した?

    ここでは、全世界で1200万部を売り上げた驚異的なベストセラー『サピエンス全史』の著者、イスラエルのユヴァル・ノア・ハラリの見解を簡単にご紹介することにいたしましょう。
    彼はしばしば歴史学者と紹介されますし、みずからもhistorianだと語っていますが、彼を当代随一の思想家のひとりとすることに異論がある人は少ないはずです。

    彼はこれもベストセラーとなった著書『ホモ・デウス』において、次のような意味のことを語っています。

    人類の最大の敵は、長く「飢餓・戦争・感染症」の3つだった。現在、人類はこの3者との戦いに勝利している。

    飢餓も戦争も感染症もなくなっちゃいないじゃないか。戦いは続いているとするべきだろう?
    そう考える人もあるでしょう。しかし、ハラリはことの内実――もっといえば、死者の数を見ています。

    「今や飢餓で死ぬ人より糖尿で死ぬ人の方が多い」とはハラリの言ですが、飢えより栄養過多のほうが深刻な死亡要因となってしばらく経ちます。
    世界大戦はずいぶん長いこと起こっていません。局地戦はありますが、世界中でドンパチやるということは絶えてなくなっています。ハラリはこの要因のひとつとして核抑止力をあげていますが、大規模な戦争はそのまま地球を滅ぼすことにつながるため、戦争が忌避されているのは事実でしょう。

    では、感染症は?
    なくなっちゃいないだろう。俺たちはパンデミックの中にいるんだぜ!

    ハラリはこう述べています。

    14世紀フランスの「あたりまえ」について考えてみましょう。(略)
    もし当時、ペストではなく新型コロナウイルス感染症が発生したとして、誰が気にかけたでしょう? 誰も気にかけはしません。感染症で人口の1%が死亡する? そんなことは、まったくあたりまえのことなのです。公共のための緊急事態という概念はそのころまだ知られていませんでした。

    現在はハラリが提示した数よりコロナウイルス感染症の死亡者は増加していますが、ペスト、あるいはスペイン風邪のような、過去に起こった感染症の死者数とは文字どおりケタがちがっています。たとえば14世紀、ヨーロッパは全人口の5分の1以上をペストで失っています。5人に1人が死んだのです! 都市によっては半数以上が失われた土地もあります。コロナではそういう事態になっていないし、たぶんこれからもならないでしょう。

    こと「死者の数」という点では、人類の勝利はいまだ続いていると言ってもいいかもしれません。

    だからコロナは恐るるに足らないものなのでしょうか?

    「死ぬような大病じゃないから安全だ」という意見はよく聞きます。コロナで亡くなるのは、既往症がある方や高齢の人が多くなっています。若くて抵抗力があれば、治癒できるし回復する。それは、幾多の実例で証明されていることです。

    しかし、真に恐ろしいのはそこではありません。今、問題にすべきは「死者の数」ではないのです。ハラリもそれを指摘しています。

    現代世界はきわめて洗練された機関──病院や学校など──のネットワークによって特徴づけられます。それらは、想像できないほど人びとの生活環境を改善しましたが、同時に社会をより脆弱にしました。
    こんにちではどんな些細な感染症でも我々は非常に多くのものを失います。緊急性という概念は、こうした洗練と脆弱性に応じて発展しました。

     

    コロナ禍に必要なもの

    コロナウイルス感染症を罹患したフリーアナウンサーの赤江珠緒さんが、回復して職場復帰するとき言っていました。
    「母親がコロナになったとき、誰が小さな子の面倒を見るんだろう?」

    コロナウイルス感染症を罹患すれば、すくなくとも数日は入院するのが通例です。伝染病ですから完治するまで、家族をふくめ誰にも接触できません。お母さんが子供をみることさえできないのです。患者はすべての社会生活から離れることになります。それがコロナ禍の正体です。コロナは人の命は奪わないかもしれない。しかし、社会は壊します。対応のしようによっては、メチャクチャに壊れます。

    ハラリはコロナ禍によってロボットとベーシック・インカムが一般的なものになるだろうと述べています。さらに、この事態によって人々が当惑し、混乱することによって招かれる事態を恐れています。

    必要なのは、しっかりとした公共衛生システムと有能な科学機関、正しく情報を得た市民とグローバルな連帯です。これらが、今回やこれから起こる感染症に打ち勝つための重要な要素です。
    これらが不充分だと、人びとが自分たちを保護してくれる独裁者や救世主を待ち望むようになります。

    わたしたちは試されている。
    愚かなのか賢いのか。大人なのか子供なのか。これは試練の時である。
    ハラリばかりでなく、本書の賢人たちの誰もが、そう語っているように思えてなりません。

    我々が直面している危険や、それに対処する際に我々が果たす役割を誠実に把握することが重要です。我々の世代はコロナウイルスだけではなく、経済危機にも直面しています。この責任から逃れるべきではありません。
    (略)グローバルな連帯を信じる必要があります。こんにち私たちが直面している主要な問題のどれ一つとして、一国だけでは解決できないものです。グローバルな問題にはグローバルな解決策が必要なのです。

    (レビュアー:草野真一)


    ※本記事は、講談社BOOK倶楽部に2021年3月2日に掲載されたものです。
    ※この記事の内容は掲載当時のものです。




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