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レジ袋の有料化をはじめ、貧困や温暖化など、日本でも身近な問題としてクローズアップされることが増えているSDGs(Sustainable Development Goals 持続可能な開発目標)。その格好の入門書して版を重ねているのが、2020年7月13日に発売された『こどもSDGs(エスディージーズ) なぜSDGsが必要なのかがわかる本』です。
本書は売上の一部が「こども食堂」の支援に充てられる、コーズ・リレーテッド・マーケティングを取り入れているのも特徴です。そんな本書の成り立ちと意義について、監修者の秋山宏次郎さんと発売元であるカンゼンの編集担当・坪井義哉さん、営業担当の宇佐美光洋さんに伺いました。
(左上)監修者 秋山宏次郎さん(一般社団法人こども食堂支援機構 代表理事)
(右上)カンゼン 専務取締役 坪井義哉さん
(下)同 営業部 部長 宇佐美光洋さん
【SDGsとは】
持続可能な開発目標(SDGs)とは、2001年に策定されたミレニアム開発目標(MDGs)の後継として、2015年9月の国連サミットで採択された「持続可能な開発のための2030アジェンダ」にて記載された2030年までに持続可能でよりよい世界を目指す国際目標です。17のゴール169のターゲットから構成され、地球上の「誰一人取り残さない(leave no one behind)」ことを誓っています。 SDGsは発展途上国のみならず、先進国自身が取り組むユニバーサル(普遍的)なものであり、日本としても積極的に取り組んでいます。〈外務省ホームページより〉
――本書はどのようなきっかけで企画されたのですか?
坪井 『60分でわかる︕SDGs超⼊⾨』(技術評論社)をはじめ、ビジネス専門書を中心に編集・執筆をしている編集プロダクション・有限会社バウンドの清水友樹さんからご提案をいただいたことがきっかけです。
カンゼンが児童書にも力を入れていることから、SDGsの書籍を子ども向けに出してみたらどうですかと。すでに市場には類書が複数出ていたのですが、もう少しハンディなもので子どもがSDGsを身近に感じられるような企画であれば、弊社の方針にも沿ったものになるし、時代に合ったタイトルとしてニーズは高いだろうと考え、出版に向けて動き出しました。
本書は社会学習のジャンルにあたるかと思いますが、弊社ではこういうテーマに児童書で取り組むのは初めてでしたので、実験的な試みでもありました。
――第1章では「みんなの周りのさまざまな問題を理解しよう」と、まさにSDGsを身の周りのことからとらえるためのアプローチがなされていますね。
坪井 子どもたちが身近に感じられるテーマを、監修の秋山さんにも見ていただきながら取り上げています。お子さんが見てリアリティを感じられないと、こういうジャンルはおもしろく読めないですよね。
できるだけ学校や家庭といった身近で起きていることを幅広く取り込むことで、子どもたちが自分の生活に関わることとして、SDGsをとらえられるような展開を意識していただきました。
また、「ブラック・ライブズ・マター(黒人の命は大切)」や環境活動家であるグレタ・トゥンベリさんなど、世界のニュースに直結するような題材もできるだけ取り上げています。▲1テーマを見開き2ページ、オールカラーで解説
▲子どもたちが身近に感じられる切り口から理解が深められるよう構成
――本書では、SDGs時代に即した「コーズ・リレーテッド・マーケティング」を取り入れられているそうですね
※コーズ・リレーテッド・マーケティング=売上の一部を非営利団体に寄付するなど、社会貢献活動を前提にした商品やサービス、その販売活動を行う手法
坪井 はい。秋山さんにご提案いただいて実施していますが、これはこの本の最大の特徴かと思います。
秋山 私は、これまで会社員の傍ら企業や行政に新規プロジェクトをご提案する中で、SDGsに関する活動もいろいろと行なってきました。今回カンゼンさんからは、監修のご依頼の際に、監修料のご提示もいただきました。
しかし、私がこども食堂支援機構の代表をしていることもあって、せっかくこういった形で企画に関われるのであれば、監修料という形ではなく、売上の一部がこども食堂の支援金になるような、この書籍自体をSDGs的な本にしてはどうでしょうとご提案したのです。
カンゼンさんにも快諾いただき、実現することができました。おかげさまでお買い上げくださる読者の方はもちろん、販売いただく書店の方も、みなさんで子どもたちを支えることにつながるプロダクトになっています。
――こども食堂の子どもたちは、本書のモニターでもあるそうですね。
秋山 仲良くしているちびっ子が山ほどいますので(笑)、制作段階で子どもたちに文章を読んでもらい、「この単語はちょっと難しすぎる」といったフィードバックをしながら、言葉を修正していくなどのお手伝いもさせていただきました。
――そういったモニターの声で印象に残っていることはありますか?
秋山 こども食堂の運営者の方が食堂で子どもたちと一緒に読んでくださっているのですが、運営者自身も「(SDGsの詳細について)知らなかった」という声をたくさんお聞きします。子ども向けの書籍でありながら、大人も一緒に学べる作りになっているのが非常にうれしいですね。
坪井 本書は児童書ではありますが、読者を子ども扱いしすぎない説明文を著者が考えてくださいました。表現が簡単過ぎたり型通りで説明臭かったりすると、自分の子ども時代を振り返っても、見くびられたような気がすると思うのです。
また、1テーマごとに「考えてみよう」という項目を入れて、読者への問いかけになるような構成にしています。そこからまた、友だち同士や親子の会話につながっていくような作り方を心がけました。
――確かにSDGsの詳細がわかりやすくまとまっていて、大人が読んでも勉強になりました。本書には、「日本国内でのSDGs認知度は調査対象の28カ国中28位で最下位」といった残念なデータも掲載されています。
秋山 国連広報センター所長の根本かおるさんと話していたのですが、SDGs(Sustainable Development Goals)は表記がアルファベットですよね。英語圏の人ならそのまますっと理解できるのですが、日本ではアルファベット4文字を並べられてもそれだけでは内容がわかりません。そのことが普及へのハンディキャップになっているとは感じていますね。
――秋山さんがSDGsなどソーシャルな活動に積極的に関わられるようになったきっかけについて教えてください。
秋山 私はもともと社会改善活動だけに限らす、ビジネスのアイデアについてもわりと思いつくタイプなのです。以前勤めていた企業でも、社員数万人の中で新規事業提案数1位になったこともあります。
ただ、そういった企画が諸事情のため実現できずに腐っていた時期がありました。そんな時、内閣府で防災とITを組み合わせた改善案を募集しており、そこで私の提言を表彰していただいたのです。そのことをきっかけに、自分の会社でできないのなら社会に直接言えばいいのだということに気がつきました。
それからはさまざまな会社や行政に対してアイデアを提案し、20社ほどの新規事業の発起人になっています。それまでは自社も含めて自分で実現しようとずっと思っていましたが、アイデアを死蔵させておくのはもったいない。自分で実現できないのであれば、得意そうな人に話をしてやってもらう方が早いなというスタンスです。
――まさに本書でも、SDGsはみんなで考え、行動する、協力しあうことが大切と書かれていますね。
秋山 当然のことながらSDGsは一人でできるものではなく、いろいろな形で人と人とが協力をしながら実現していくものだと思っています。私もさまざまなプロジェクトの発起人になってはいますが、大抵の場合、直接的な便益はゼロです。
それでも実現することによる達成感がありますし、誰かと一緒にやることによって人脈ができたり、お金には代えられない資産が積み重なっていったりします。情けは人のためならずと言いますが、最終的には自分にも良い形のフィードバックが返ってきていると思っています。
――この2月に8刷、累計55,000部となったそうですが、2020年7月の発売当初から売行きは好調だったのでしょうか?
宇佐美 この企画が坪井から降りてきた時点では、営業も「SDGsという言葉は知っているけれど……」という認識からスタートしました。書店さんへのご案内の段階でも、世間的にはまだあまり普及していない状態でした。
しかし、2020年7月のレジ袋有料化の開始が大きなきっかけとなりました。「実はこの有料化もSDGsの取り組みの一環なのですよ」というお話を絡めると、本書のご提案にもより興味を持っていただけるようになりました。
それでも発売当初の動きはまずまずという感じでした。しかし夏休みに入ったくらいから、課題図書のコーナーなどで一緒に本書をご展開いただける書店さんが増え、新聞広告の効果もあって8月から急激に売行きが伸び始めました。
――昨今はSDGsのコーナーを設けられている書店さんも多いですが、それ以外のコーナーでも展開されているのですね。
宇佐美 この本の企画が成立した時点で、先行して『こども六法』や『なぜ僕らは働くのか』など、児童書でありながら大人も一緒に学べるような、いわゆる社会学習本のヒット商品が複数あり、コーナーとして形作られていくところでした。本書も、その社会学習コーナーで、今も継続的に展開いただいています。
また、中学受験などでSDGsに関する出題が非常に増えているようです。受験対策のコーナーに置いていただいている書店さんもいくつかありますので、受験生やその親御さんにも手にとっていただく機会になっていると思います。 ▲有隣堂たまプラーザテラス店様ではSDGsに関する資料とともに展開
――いま社会学習の本が注目を浴びているのはなぜだとお考えですか?
宇佐美 子どもたちがコロナ禍で学校に行けないような時期もありましたので、ドリルといった一般的な学習参考書とは別に、親御さんがお子さんに「学んでほしい」と思うようなテーマの本が求められているのではないでしょうか。
坪井 子どもたちのほうもYouTubeはじめいろいろなメディアを通して起業家の方などの活動に触れる機会も多いですから、社会に出たときに本当に役立つ力ともいうべきものが子どもたち自身に求められていると思います。
また、保護者の方々からは、子ども時代からできるだけ国際感覚を身に付けてほしいというニーズは確実にあるでしょう。SDGsはその筆頭だと思いますが、そういったニーズが本書への反響にも表れているような気がしています。
実際に、本書の購入者は30~40代の女性の割合が圧倒的に高いです。小学校中~高学年くらいの子どもを持つお母様が多いのだと思います。SNSを見ても、「子どもに買った本で自分も一緒に勉強ができた」というコメントが多いので、親子で一緒に読んでいただいているという手ごたえを感じています。
――SDGsは「2030年までに世界の人々が達成しなければならない17の目標」とされていますので、まずは多くの方に知っていただくことが重要ですね。
宇佐美 今後SDGsに関しては、新聞やテレビなどのメディアでも取り上げられることがさらに多くなってくると思います。弊社でも新聞広告などコンスタントに宣伝を行うことで、まずは本書をSDGsの「最初の一冊」として手に取っていただけるような流れを作っていきたいと考えています。
秋山 本書には、カンゼンさんのご協力で「子どもたちのご飯のため」という大義名分があります。普段ですと、自分の関わった本の宣伝は気恥ずかしいのですが、私もこの取り組みを成功事例として、さまざまな場面でPRしていきたいと思っています。
こども食堂の支援になるということで、こども食堂の運営者やPTAの会長さんなど、熱心に本書を薦めてくれる方もいらっしゃいます。それぞれが関わる場で応援してくださることで、SDGsを知るための活動が草の根的に広がっていけばありがたいですね。
坪井 コーズ・リレーテッド・マーケティングという試みは、弊社にとって初めてでしたが、この本の意味を考えても非常に意義のある取り組みになったと思っています。昨年12月にはシリーズ第2弾として『こども統計学』を発売し、こちらの売上の一部も「こども食堂支援機構」さんに寄付させていただいています。
3月には第3弾となる『こども地政学』を発売する予定です。このシリーズを続ければ続けるほど社会貢献にもつながりますので、今後も継続していきたいですね。