• fluct

  • 1回の合戦費用は1億円!戦国大名はいかに自国を“経営”したか

    2020年08月09日
    知る・学ぶ
    花森リド:講談社BOOK倶楽部
    Pocket

    戦国大名の経済学
    著者:川戸貴史
    発売日:2020年06月
    発行所:講談社
    価格:1,100円(税込)
    ISBNコード:9784065200155

     

    で、こちらはお幾らだったのでしょう?

    「総制作費ウン億円」のような謳(うた)い文句で時代劇が宣伝される時、その制作費が大きければ大きいほど、スタッフロールの「時代考証」や「風俗考証」の欄を見るほど、「おお」となる。つまり、脚色はあるにせよ、「豪華絢爛! 戦国絵巻」のような景色からは荒唐無稽なファンタジーとは違う圧力が伝わる。

    それはそのまま「で、実際はどうだったんだ?」というところにつながる。だって馬がぺんぺん草のように生まれるはずはないし、いくら戦国時代なんていったって甲冑が100均並みの価格で出回っていたとも思えない。刀も槍も鉄砲もタダじゃない。なにより、「えいえい」と戦地を駆ける軍勢たちは人間だ。彼らだって霞を食べていたわけではない。

    つまり「戦国絵巻の世界、めっちゃお金かかっただろうな」と思うのだ。下世話と言われようがなんだろうが、なにか圧倒的に壮麗なものを目にした時、大人ならチラッと考えるはずだ。「ちなみにこちらはお幾らで?」と。

    そういう興味に答えをくれるのが『戦国大名の経済学』だ。武具、食糧、関銭(通行税)、そして人間。無数の要素を一つ一つ洗い、「お値段」を明らかする。

    が、この「お勘定」は、本書の序章に過ぎない。お値段がわかったら? そう、どうやってそれを手に入れるか? だ。

    権力にとって最も重要な収入源は年貢であった。それは統一政権へとひた走る豊臣政権でも変わらなかった。それゆえ、年貢を安定的に徴収するシステムを構築し、運営することが、政権維持には何よりも重要だった。(中略)公平さを欠く場合も往々にしてあった。しかしそれは確実に政権の綻びにつながっただろう。

    この戦国大名たちの経済戦略が本作のキモだ。戦争をするとき、国を治めるとき、「どうやってそれを手配したか?(=財源は? 財政は?)」を教えてくれる。

     

    戦国大名=軍事政権! 戦争は秋冬が多い?

    この本の面白さを約束する文章があるので引用したい。

    そもそも戦国大名とはどういう存在なのか。(略)ある特定の地域を独占的に支配した 武家権力(軍事政権)である。(中略)本書は、戦国大名の経営を考えることを主題とする。経営とは何かというと、これまた深遠なテーマになるが、ここでは簡単に、戦国大名の権力体を一つの組織と捉え、その組織運営に必要な収入をどうやって得、また必要な支出はどのようなものに対して行われていたのかを、史料から明らかになる範囲で解説する。

    楽しそう。が、これがめちゃくちゃ大変なのだ。だって相手は大昔の軍事政権だ。帳簿が残っていたらラッキーという感じで資料が乏しい。しかも、収入源は中世から受け継いだ田畑だったりするので、体系だてて見ることが難しいのだという。でも資料を一つ一つ洗い上げて「一回の戦争のお値段」や「経済政策」を洗い出すのがこの本の冒頭の面白みだ。巻末にずらりと並ぶ参考文献の数にギョッとする。

    1回の戦争はおよそ1億円必要だという。内訳の面白さは読んで確かめてほしい。兵士の武具、そして兵糧までお値段が明らかにされている。が、これが高いのか安いのか……? 買ったことがないからわからない。そんな私たちにも「わかる」感じがあちこちにあるのだ。たとえばこちら。

    米三〇〇石はどれくらいの価値だっただろうか。米の価格は年ごとだけではなく一年の間でも価格変動が大きい(収穫直後の秋から冬にかけては安く、収穫前の春から夏は高い)

    よって、一般的に戦争は秋から冬に行われたらしい。こういうちょっとした注釈がとても面白く、リアリティを感じさせる。

    戦争の費用に加え、城を作るにはいくら必要だったのか? という話まで丁寧に明らかにされている。(安土城はイメージ通り施工費がめちゃくちゃ高かった。が、当時の相場で見ると破格だったのだという)

     

    経済でも信長のインパクトは大

    戦国大名たちの収入源は租(税)だ。どうやって課税のシステムを整えたのか、どのように税収をコントロールしてきたかが語られている。なかでも面白いのが織田信長だ。本書の至る所で信長の特異性が語られている。彼の財源や懐具合を明らかにすることで、みんなが抱いているイメージとは違う部分と、経済感覚の鋭さの両方が伝わってくる。

    後に信長が都市の直轄化にこだわったことにも関わる話だが、年貢による収入を期待できるほどの所領を持たなかったため、商業課税に注目するようになったのかもしれない。

    織田家には、もともとは従来の武将のような収入がなかったのでは? というのだ。

    既存の商人の特権を篤(あつ)く保護するのがこの時の信長の政策の特徴であった。

    そして、年貢をあまり見込めない武将であったから、やがて商人からの税収をきっちり得てきたのだという。ここで、テレビで見る「城下町」や、かつて歴史の教科書で習った「楽座」がリアリティを持って手元に引き寄せられる。

    なかでも信長がなぜ「楽市・楽座」の施策を打ったのか、どの土地でどのように発令し、経済をコントロールしようとしたのかが面白い。ちっとも「うつけもの」なイメージではなかった。リアリストだ。

     

    戦国武将も楽じゃない

    この本を一言で説明するなら? と尋ねられたら、それはもう「戦国時代の経済のお話です」と答えるのみだ。ただ「経済」は一言では表せられない。

    本書で語られる切り口は数え切れない。戦国大名の諸経費というキャッチーな話に始まり、武将ごとの年貢(税)の集め方、そもそも当時の税の立ち位置、税の使い道(ちゃんとしていないようで、時々ちゃんとしていたりで面白い。ただし現代よりうんと納めがいのない税だったはずだ)、経済戦略、賄賂、貨幣、石高制、資源開発、貿易、そして鎖国……もう、本当にめくるめく世界なのだ。

    気になる要素から読んでいくのも楽しいが、最初から少しずつ読み進めることをすすめたい。なぜなら小さな収支の話を積み上げて(といっても、金額は大きいんですけどね)、やがてマクロ経済の話に繋がるからだ。そして、あらゆる局面で織田信長が爪痕を残しているので、信長好きにもおすすめしたい。

    日本史に対する視座が増えるはずだし、この先見る戦国時代のドラマに副音声が付くだろう。武将の後ろに無数の人々が思い浮かぶはずだ。実際、本書を読んだあと思わず観てしまった大河ドラマ“麒麟が来る”で、「鉄砲だ!?」というセリフや出陣のシーンが流れるたびに「ああ、税金が……!」と思ってしまった。

    (レビュアー:花森リド)


    ※本記事は、講談社BOOK倶楽部に2020年7月14日に掲載されたものです。
    ※この記事の内容は掲載当時のものです。




    タグ
    Pocket

  • GoogleAd:SP記事下

  • GoogleAd:007

  • ページの先頭に戻る