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新潮社校閲部 湯浅さんとの対談は今回で最後。夢眠書店に置くおすすめの本の紹介や、開店するにあたってのアドバイスをしていただきます!
今回の対談相手
湯浅美知子 株式会社新潮社 校閲部
PROFILE
1973年生まれ。入社以来、校閲部員として週刊誌から文芸作品までありとあらゆる刊行物を担当し、今年で20年。新潮社の刊行物のクオリティーを保つべく日々努力しておりますが、誤植や疑問点がありましたら、お気軽にお便りくださいませ。
〈こちらのお二人にもご協力いただいています〉
飯島秀一さん(写真右):
株式会社新潮社 校閲部部長(書籍部門担当)。本の楽しさ、素晴らしさを夢眠書店でいっぱい発信してください。
田中範央さん(写真左):
株式会社新潮社 編集者。入社後、週刊新潮に8年在籍、出版部に異動し単行本を作りつづけて今年で20年(もうそんなになるのか……/本人談)。
夢眠ねむ(以下、夢眠):校閲者には凝り性な方が多いということですが、湯浅さんは何に凝っていますか?
湯浅美知子(以下、湯浅):私は料理の本が好きです。
夢眠:わ! 一緒です!
湯浅:ねむさんはお料理が好きとのことで。ただ、新潮社ではあまりちゃんとしたレシピ本を出していないので、どうしても文豪が好きだった食べ物の本とか、そういう「くくり」になるんですけど。
夢眠:買ってまーす(笑)。私、文豪のおやつとか犬とか、そういう本が本当に好きで。
湯浅:あ~、ありがとうございます! もともと、沢村貞子さんの献立日記だけの本が出ていたことがあったんです。その本は残念ながら絶版になったんですが、復刊というか、写真と、ざっくりしたレシピも入れたのが、こちらの本です。
夢眠:これ、めっちゃ面白そう……。私、こういう本がとにかく好きなので。好きなのが見抜かれていた。
湯浅:よかったです。自分で作っておいしかったのは、いりどうふですね。
夢眠:いりどうふ……、これですね。具だくさんだ! ……えっ、延々と1か月、味が変わらない?
湯浅:そうそう。冷凍できるっていうのがいいなと思いまして。
夢眠:豆腐なのに……。高野豆腐みたいになっちゃいそう。
湯浅:大丈夫でしたよ。普通に解凍したら食べられました。
夢眠:炒って水分を抜いてるから大丈夫なのか……。って、急に主婦の会話みたいになってしまった(笑)。
湯浅:小説は古いものと、ちょっと前のものと、わりと最近のもので3冊選びました。
最近は、わりと何でも売れるとすぐに映像化したり映画化したり、ということが行われますが、『家守綺譚』には映像になりきらない、小説でないと味わえないものがあると思います。100年くらい前という設定で、ありえないような色々なことが家の中で起こるんです。例えば、「亡くなった友人の家に住む」という設定なんですが、その友人がたまに幽霊で現れるんですね。で、「庭のサルスベリの木があるだろう?」って言う。「ああ、あるよ」と答えると、「あの木はお前のことが好きなんだ」とか言い出すんですね。
夢眠:めっちゃ面白そうー!
湯浅:こういうものは、映像化してもいいんですけど、やっぱり本で読んで妄想を広げたいですね。
夢眠:変なファンタジーに行っちゃうと、ちょっと違う感じがしますよね。
湯浅:その書き方も、もの静かな文体で。もし気に入っていただけたら、続編もありますので。
次は、昭和50年代くらいに出た本なんですけど、お手紙の往復でできている小説で、泣ける本としておすすめします。あまりにも泣けるので、私は外で読まないようにしています。この前、どうして泣けるのかを考えようとしたのですが、考えただけで泣いてしまったので、やめました(笑)。
夢眠:かわいいー!
湯浅:やっぱり台詞というか、手紙だから文面なんですけど、すごくいいんですよ。「ストレートにパッといいことを言ってくれるな」という気がすごくしまして。私はあまりにこの小説が好きで、舞台になったところにも行きました。
夢眠:聖地巡礼ですね。
湯浅:そんなことはしたことなかったんですけど、これだけは、行きました。兵庫県の、芦屋の近くの香櫨園という素敵な住宅街です。
夢眠:わー、読ませていただきます! 本が好きな方に本をおすすめしてもらうのって、楽しいですね。
湯浅:最後に、これはかなり古い本なんですけど、短編集です。
夢眠:これは時代ものですか?
湯浅:江戸時代くらいになるのかな……。これはぜひ、芸能人の方に読んでほしいと思いまして。
夢眠:えっ?
湯浅:真ん中あたりにある「ある恋の話」という短編です。これは、ある役者のファンになった女性の話です。私も色々なスターのファンになったりしたんですけど。
夢眠:気になる! パーソナリティーに迫りたい!(笑)
湯浅:幕末の頃に、役者のファンになって毎日毎日芝居に通って、「なんて素敵なんだろう」「普段のあの人が見たい」と思って出待ちみたいなことをしたら、普段の彼があまりにもしょぼくてガッカリして「私が好きだったあの人って何だったんだろう?」って悩んじゃうんですね。結局「私は本当にあの人が好きなんじゃなくて、彼が舞台の上で役を演じて輝いている幻みたいなものが好きだったのにちがいないわ」と、自分の気持を見つめ直すんですけど、その役者のほうは単純に「あいつ、いつも来るな。きっと俺のファンなんだな。俺のこと好きなんだろうな」って思っちゃうんですね。で、どうなっちゃうかっていう話なんですけど……。
夢眠:気になるー!! 以前「夢眠書店開店日記」の取材で文藝春秋さんにお邪魔したときに、菊池寛像と写真撮ったんですよ。横でこうやって同じ顔して撮りました(笑)。
― 毎回、おすすめしていただいた本のPOPをねむちゃんが書いているんですけど、今回はどの本で書きましょうか?
湯浅:それはもう、ねむさんが書きたいと思ってくださったもので。
夢眠:えっ! どうしよう……。
― 最後のファンの話が、面白いかもしれないですね。
湯浅:「自分がスターとお近づきになったならば……」みたいなことは、やっぱりファンは一度は妄想することだと思うので、それをスターであるねむさんがどう思うのか、うかがってみたい感じはしますね。
夢眠:では書かせていただきます! 楽しみー。
湯浅:やっぱり、一番最初にいらっしゃるのはファンの皆さんだと思うんですよね。ファンの方は、確かに気にされていたように、最初は本に関心がないかもしれないですけど、ファンはスターの好きなものが知りたいわけですよ。それを通してスターを知りたいというか、間接的ではあるけれど、同じ本を読んだということは大きな喜びだろうと思いますし。なので、あまり気取らず「自分の本当に好きなものを集めた」という風にやれば、ファンも嬉しいと思います。
夢眠:それ聞かないと、ちょっと気取るところでした。「これが私の愛読書です!」みたいになったら、みんな「ウソー!?」ってなっちゃうんで(笑)。
湯浅:本当に普段読んでいて、普段こんなことを考えているっていう、それこそスターの、ステージ以外の「人となり」みたいなものが知りたいんじゃないかと、一般人としては思うところがあるんです。家にたとえると、皆を家に入れるわけにはいかないけど、庭っていうのは皆が見ますよね。だから、その庭を作るんだというような気持ちで。
夢眠:庭……、なるほど。今日、お話が面白くて全然メモが取れなくて、「庭」しか書いてない(笑)。
湯浅:きれいな庭にするんじゃなくて、好きな花を植える。
夢眠:「これきれいでしょ?」って言うよりは、自分が素敵だと思う空間を作るってことですね。なんか、赤字が入ったゲラとかを展示したいなって思いました。
湯浅:えぇー!?
夢眠:かっこいいなと思ったんです。書いた原稿を新潮社さんにお渡しして、赤字を入れてもらって、出す。かっこいいー! コンセプチュアル!(笑) 本好きでも、ゲラが見られることってなかなかないですから。
湯浅:でも我々としては、あまり見てほしくないんです。お恥ずかしいというか。例えば、ねむさんが素敵な衣装でステージに出て行ったとして、そこにゴミがついていたりしたら、ファンの人がうっとりしきれないですよね。我々の仕事っていうのは、本がそんな風にならないようにするという感じですね。
夢眠:なるほど、そうしたらちゃんとした文章を書いて、めくるとゲラが見えるっていうのがいいかも! 気になる人だけ見て、うかうかした人には分からない仕組みにして、展示できたらいいな(笑)。今日は貴重なお話を本当にありがとうございました!
感想
校閲と聞くと、皆キリッとパキッとしていて厳しいというイメージがあって、びくびくしていたのですが、実際お話を伺ってみると柔かぁく包み込んでくれるような皆さまで……。(※個人差はあるようですが!(笑))
本は、情報が刷られているもの。その情報が誤って読者に伝わらないように正しつつ、その存在を前に出さないようにしている謙虚なお姿がスマートで、本当に素敵でした。出版物の戸締りをしてくれている校閲の皆さまに感謝!
第9話はこれでおしまい。次回は、恐らく国内で知らない人はいないのではないかと思われる、あの国民的漫画雑誌の編集部にお邪魔します! お楽しみに!