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「どうして、いつもイヤイヤなの?」。その「ふきげん」には理由があります。
4月23日(木)に、岩崎書店から発売された『ふきげんな子どもの育て方』は、「ふきげん」な状態にある子どもたちにかける、50の具体的な言葉が収録された育児書です。
近年、保育園などの現場で急増している「ふきげん」な子どもに対して警鐘を鳴らす著者・湯汲英史さんと、本書の編集者である田辺三恵さんに、本書の成り立ちから「ふきげん」な状態が続くことで将来にどのような影響を及ぼすか伺いました。
湯汲英史
35年間、保育所で巡回相談を続け、主に発達障害の診断をする。現在、公益社団法人発達協会常常務理事、早稲田大学非常勤講師を務める。主な著書に『関わりことば26』(鈴木出版)、『0歳~6歳子どもの感情コントロールと保育の本』(学研教育みらい)がある。公認心理師、言語聴覚士、精神保健福祉士。
――『ふきげんな子どもの育て方』の企画の成り立ちについてお聞かせください
田辺 昨年から、「岩崎書店の子育てシリーズ」というものを立ち上げ、その第3弾として「扱いにくい」「育てにくい」子どもとどう接したらいいか、そのhow to本を作りたくて湯汲さんに声をかけました。
すると、現場では「ふきげん」な様態の子どもたちが目につくようになったという話を伺いました。「ふきげん」という表現なら誰にでもコミットできる表現だと思い、湯汲さんからアドバイスをもらいながら、典型的な50のケースをピックアップしてもらい作成しました。
▲それぞれのふきげんな子どものケースには、「だめだめ!」と注意の一点張りだけではなく、具体的な言葉の内容を一目で分かるように見開きにして、実践しやすいように構成しています。(田辺)
――「ふきげんな」子どもが現場で増えているというのは、湯汲さんの実感として何人くらいいるのでしょうか。
湯汲 私は35年の間、保育園を訪問し発達障害の子どもたちを中心に診てきましたが、ここ10年近くで特に「ふきげん」な子どもが増えたと感じています。
保育園に120人いるとしたら、2、3人は発達障害と診断されている子どもがいます。その子どもたちとは別に、理解力も社会性もあるけれど、感情をコントロールができない「ふきげん」な子どもが、10人以上はいるのではないかと感じています。
――「ふきげん」な状態というのは、具体的にどういった行動を指すのでしょうか。
湯汲 急に大きな声で騒ぎ始めたり、友だちとのトラブルが絶えなかったりします。また、急に他の子どもを叩く、噛みつくといった行動をすることもあります。
子どもは感情のコントロールが苦手です。犬や猫のように、気に食わないから噛みつくなどの行動は情動行動と言われます。人間も1歳から2歳くらいまではそういった行動をとりますが、親や周りの大人、友人たちと関わりながら学び、自分の情動を自制できるようになります。やがて5歳くらいになると、自分の感情を言語化し相手に伝えることができるようになります。
しかし、「ふきげん」な子どもたちは、自分の思いや感情を相手に伝えることができず、叩いたり騒いだりしてしまいます。少し前はこうした子どもたちのことを「怒りん坊だな」と、現場でも気にしていなかったようですが、ここ最近は現場でも「いきなり他人を叩く」といった相談が増えています。5年ほど前からは、女の子の乱暴が増えたとも聞いています。
私も、こうした「ふきげん」な子どもたちと正面から向き合わないと大変なことになるかもしれない、と考えるようになりました。
――「ふきげん」な状態を放置したまま成長した子どもはどうなるのでしょうか。
湯汲 社会に適合できないことが、最も懸念されるところです。「授業中、突然教室を出ていってしまう」「先生の話を聞かない」いわゆる「小1プロブレム」を抱える都内の小学校は、2016年の調査で18%にも上ると言われています。小学1年生の時に、読み・書き・計算といった学習の基本を学びます。ここが崩れてしまうと、学習姿勢が未熟のまま成長してしまう。そうすると、学業不振どころか学習という行為自体が成り立たなくなる。
現在、高校生の中退率というのは1.4%と言われています。その主な原因は学習能力の低さによるものです。「サポート校」など、子どもたちの学習を支援する施設が増え、このパーセンテージが低くなったとも聞きます。しかし、高校を卒業してからはどうでしょうか。
さらに、感情のコントロールが未熟のままだと大人になって問題を起こすこともあります。最近、注目されている「煽り運転」もその一つです。このままでは、社会そのものが成り立たなくなる、そういった危機感があります。
――たしかに「ふきげん」な状態というのは大人にも馴染みがありますね。こうした「ふきげん」を解消していくにはどういったプロセスが必要なのでしょうか。
湯汲 大人や仲間から承認されることが重要になってきます。2歳くらいから、「見て見て!」と自分の作ったものを見てもらうなど、承認を求めるようになります。
自分の振る舞いが、大人たちや家族から喜ばれたり、褒められたりすることで社会的欲求が満たされるようになります。一方で、注意や叱られることを通して、自分の振る舞いが他人から認められることなのか考えるようになり、自らの振る舞いを制御できるようになります。
――「ふきげん」な子どもが増えてくると、育児はさらに厳しい状況にさらされますね。
湯汲 子どもを育てる環境が大きく変わっています。これまでの育児は、両親や親戚などの前世代から引き継がれたものや、周囲の経験知によるものが大きかったです。
しかし、今は親世代が孤立化し、育児はそれぞれの家庭の中で起こっている個別的な事柄として扱われてしまいます。どう対応していいかわからない、そういった状態で親も余裕がなくなっていく。こうした不安定な環境は、子どもの発育にも大きなマイナスです。
さらに、今回の新型コロナウイルスの流行により、子育ての環境はより厳しいものになるかもしれません。
湯汲 今回のコロナ禍で、私が恐れていることは「不登校の増加」です。
コロナ以前も不登校の問題はありましたが、コロナによる不登校は少し内容が異なります。コロナ以前の不登校は、人づき合いや、感覚が過敏すぎることが理由として挙げられました。しかし、コロナ以降の不登校の子どもの中には、小学校に通うはずの期間家にいたことで、学校に行く必要が無いと考える子どももいるようです。
低学年のうちに不登校になってしまった子どもを奮起させるのは中々大変です。小学校は最初の社会性を身につける場所ですが、ここで誰とも付き合えなくなっていくと、将来に大きく影響を及ぼします。
また多くの小学校が再開した6月1日(月)以降、交通整理の人に話を聞くと、多くの子どもたちが暗い顔をして登校していると聞きました。不安定な社会にいることが、子どもたちの発達に影響を及ぼしていることは明らかです。
――本書は「withコロナ」の本としても使用できる内容ですか。
湯汲 その認識です。「ふきげん」に対応する類書は、ほかにありません。社会性に注目した育児書が、アジア圏を中心に注目されている中、本書が処方箋のようなものになればと思います。
――最後に、この本に込めた思いをお聞かせください。
湯汲 本書を執筆した理由の1つは、将来に対する不安です。2021年の出生数は70万人台になるかもしれないと言われています。それは、今の子育て環境の脆弱さやコロナ禍を含めた社会的不安が原因かもしれません。
本書には、50の「ふきげん」なケースが収録されています。子どもたちがどう考えているか、何が起こるか事前に知っていれば、子育てへの心の余裕を持つことができると思います。
この本が、子育てへの一つの方向性を示し、戸惑いをなくし、自信につながったなら幸いです。そして、こうした時代だからこそ、育児に励む方々を応援し続けたいと思います。
子どもたちにも「ふきげん」なままだと友達ができないよ、ということも伝えたいです。
――本日はありがとうございました。