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大ベストセラー『嫌われる勇気』シリーズで知られる哲学者・アドラー心理学の専門家、岸見一郎さんの新刊『今ここを生きる勇気 老・病・死と向き合うための哲学講義』が5月11日(月)に発売されました。
副題の“老・病・死”から、高齢の人向けの内容を想起させますが、すべての人が今をより善く生きるために必要な「哲学」のエッセンスが詰まった内容となっています。
「哲学は抽象的で難しい」というイメージを持つ人も多いと思います。しかし岸見さんによれば、哲学は生活者として地に足をつけて考える具体的な学問だと言います。
哲学は、既成の価値観を徹底的に疑い、本当にそれが正しいか立ち止まって考えるところから始まります。自分が正しいと思ってやっていることは、果たして本当に“正しい”のか、踏みとどまるきっかけを与えるのが哲学だと岸見さんは説きます。
本書では、岸見さんの専門であるギリシア哲学や、三木清、アドラー心理学を題材に「哲学がなぜ必要なのか」「幸福とはなにか」といったさまざまな問いを立てていきます。
有名大学へ進学し大企業に就職、ゆくゆくは出世し重要なポストにつく……。こうしたキャリアを歩むことは一般的には“成功”と呼ぶことができるかもしれません。しかし、こうした成功はあなたにとって幸せなのでしょうか。
何が幸福かは人によってさまざまですが、その中には、「これは“幸福”なものだよ」と他者(社会や人)から押しつけられたものもあると岸見さんは言います。先ほど挙げた“成功”例も誰かにとっては幸福かもしれません。しかし、本当に必要なのはあなたにとってのオリジナルな幸福を探すことです。
哲学は「この“幸福”は、自分にとっての幸福なのだろうか」と問い直し、他者からの承認を必要としない自分だけの価値を見出すことに役立つ学問。一般的には、“成功”と呼ばれるものではないかもしれない、けれどあなたにとって本当の幸せを掴むことは可能なのです。
本書の中には、岸見さんが経験した母親の介護体験や、50歳の頃に自身を襲った心筋梗塞のことについても掲載されています。
老いや病気によって健康が蝕まれると、幸福でいることは難しいように思えます。ましてや、死を目前にした場合はどうでしょうか。
「なぜ健康でいる必要があるのか」「死の不安を解消する術はあるのか」、こうした実存に関わるような問いにも、岸見さんの哲学的なアプローチから回答を得ることができます。病床において、あるいは死を目前にしても、人は価値を失わない。岸見さんの力強い言葉に胸を打たれます。
本書では、戻れない過去のことで悩みを抱え、まだ存在しない未来のことに怯えるのではなく、今できる他者貢献を考え、幸福を掴み取ることこそが重要だとまとめられます。
どんな時も準備期間やリハーサルではなく、本番です。病気で入院している時も、それがその人にとっての本当の人生であり、退院して初めて本当の人生が始まるわけではないのです。(本書197ページより)
「今」を生きる私たちには、過去や未来はありません。自分の人生を生きるために、哲学を学び、今ここで立ち止まる勇気を身につけてみませんか。