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引き続き、新潮社のご協力で校閲のお仕事について学んでいるねむちゃん。先週は湯浅さんが実技試験を経て「校閲者」となったことが分かりましたが、今週はなんと、実際に校閲が入った原稿を見せていただきます!
今回の対談相手
湯浅美知子 株式会社新潮社 校閲部
PROFILE
1973年生まれ。入社以来、校閲部員として週刊誌から文芸作品までありとあらゆる刊行物を担当し、今年で20年。新潮社の刊行物のクオリティーを保つべく日々努力しておりますが、誤植や疑問点がありましたら、お気軽にお便りくださいませ。
〈こちらのお二人にもご協力いただいています〉
飯島秀一さん:
株式会社新潮社 校閲部部長(書籍部門担当)。本の楽しさ、素晴らしさを夢眠書店でいっぱい発信してください。
田中範央さん:
株式会社新潮社 編集者。入社後、週刊新潮に8年在籍、出版部に異動し単行本を作りつづけて今年で20年(もうそんなになるのか……/本人談)。
夢眠ねむ(以下、夢眠):じゃあちょっと、見せていただいてもいいですか? 田中さんご担当の作品を。
田中範央(以下、田中):これは『村上海賊の娘』で、著者の和田竜さんにもお見せする許可をいただきました。歴史小説で、フィクションも入ってはいるんですけど、歴史上実際にあった織田信長軍と村上海賊(毛利家)との戦いを書いたものなので、資料の量がものすごく……。
夢眠:(ダンボール1箱分ある資料の山を見て)うわー! ギョギョギョー!! すごい量ですね!
田中:作中には、史料からの引用もあるんですよ。例えばこのような記述があった場合には、実際の史料をあたって、本当にその通りに書いてあるかどうか確認する必要があります。
「『信長公記』によると、信長方の武将たちが野田、森口、森河内に続いて天王寺に砦を完成させたのは、天正四年の四月十四日のことである」(『村上海賊の娘』上巻 p.17より )
夢眠:そうか。ここは想像じゃなくて、本当の史料が引用されている一文なんですね。
田中:これだけの史料を全部コピーさせてもらって、それを校閲でのチェックに使いました。引用が正しいかどうかというのと、もう一つ、これもまさに校閲の仕事なんですが、史料に対する和田さんの解釈が間違っているんじゃないかという指摘も、校閲者がしてくれました。
夢眠:うひゃー! すごーい!!
田中:これが校閲者の字で、「この部分の和田さんの解釈は間違いではないか」という指摘を入れているんですが、後になって、和田さんがここにフィクションを入れていたことが分かりました。それで「さすがにそこまで細かく読み取る人はいないだろうから、そのままでいいんじゃないか」ということになりました。
夢眠:(原稿を見て)私、本当にこのイメージでした。赤線を引かれて「ぴょっ」って。
田中:でも、これは2稿なのでまだかわいいほうで……。
夢眠:かわいいほう!? 学校のテストだったら、相当……ギャッてなりますよ。
田中:さっき話した校閲の仕事で「合っているかどうか確認する」というのがありましたけど、これが初校で……。
夢眠:うわー、ふせんがいっぱい!
田中:校閲の仕事で大変なのは、まず、この原稿、真っ赤っ赤ですよね。これを印刷所が直して、次のゲラが出てきたときに、赤字がしっかり直っているかを確認してくれるのが校閲者なんです。自分は印刷所のオペレーターさんと校閲者には絶対になりたくないなと思っています(笑)。
夢眠:分かります。私もPAさんとかにはなりたくないです。自分がフォローをしなきゃいけないのが大変そうだから!(笑)
飯島秀一(以下、飯島):じゃあ、その赤字合わせの実演を。
夢眠:実演!? これは初のムービー撮影をしたほうがいいんじゃないですか?
湯浅美知子(以下、湯浅):これが、印刷所の人が赤字をみんな直してくれているはずのゲラなんですけど、本当に直っているかチェックする方法として「めくり合わせ」というのがあって、パラパラ漫画みたいにするんです。こことここを合わせて……。
夢眠:えっ? えっ?
湯浅:違っているところが分かるんです。
夢眠:分かんない―!!(笑) えっ、それ「字」っていうか、「形」で見てますか?
飯島:そうですね。お札の点検でも、よくバーッてめくるんですよ。違うのがあると残像で分かるので、それを除ける。
夢眠:でも私、ちょっと意味分かったかも。
湯浅:例えば、一字抜けていると、ずれますね。その場合は、一字分だけずらして、またこうやって……。
飯島:ただ、あまりにも赤字が多いと目が飛んじゃうので、その場合はゲラと原稿を両方置いて見るような感じですね。
夢眠:私、すごいグータラというか、どうやったらラクしてできるかなって思っちゃうんですけど、「後ろからライトが当たっている台に乗せてチェックする」とかではダメなんですか?
飯島:それは最終的に印刷所がチェックするときの方法ですね。
夢眠:あ、じゃあ、あながち間違いではない?
飯島:ただ、「めくり合わせ」は誰もがやっているわけではなくて、ある他の会社では、このやり方ではなく、両方の原稿を追っていく形だと伺いました。
夢眠:じゃあ、それぞれの「門」によって師匠が違って……。
湯浅:そうですね、「お流儀がある」ということですね。
夢眠:かっこいいー! お茶とかお花みたいじゃないですか!
―先ほどの「めくり合わせ」はどれくらいで習得されたんですか?
夢眠:串打ち3年! みたいな(笑)。
湯浅:仕事ですし、あまり時間がかかってはいけなかったので、最初に雑誌の仕事をしているときに、人がやっているのを見て覚えました。雑誌の仕事は何人かでチームを組んでやっていたのですが、私がやった仕事を他の人も見て「こういうところができてない」というのをチェックしてくれました。で、みんなが帰ったあとにそーっと見て、「あ、こことここができてないんだ」って。誰も、あんまり言ってくれないんですよね。多分、職人の世界ってそうだと思うんですけど。人がやっているのをこう……見て。
田中:編集でも、著者への疑問出しとか、やっぱり教えてくれないんですよ。幸い、私にはいい先輩がいて「著者に疑問を出すときはこういう風にやれ」とか教えてもらえたんですけど、他の人は先輩が置いていったゲラを見て、「こうやって疑問を出すのか」って覚えたり。
夢眠:その先輩も実は、気付かないフリをしてゲラを置いているとか? かわいい子をガケから落とすみたいに。「ゲラだぞ、見ろよ……」って。
湯浅:それはない! 絶対にない!(笑)
田中:あと、先輩が著者に送ったFAXをすぐにコピーして「著者に対してはこういうことをやっているんだな」というのを盗んだりしている人もいました。
夢眠:すぐにコピーして! すごい世界ですね!
飯島:新人にはなるべく雑誌を経験させます。複数のスタッフの中に入れて、自分が最初に見たゲラの、次のゲラにまた赤字が入るとか、色々な入れ方があるんだということを学ばせます。
夢眠:雑誌だと色々な方の書く癖が見えるし、スピード感も早いから、勉強になるってことなんですね。
湯浅:色々な人がいると、色々なやり方があるというのが分かります。やっぱり人間というのは偏っているので、自分ではまんべんなくやっているつもりでも絶対に抜けているところがあるし、自分は誰かの抜けを補っているわけです。なので、なるべく色々な人の仕事を見て、まんべんない目を養いなさいということだと思います。あと、雑誌というのはきついので、若くて丈夫なうちによろしくという意味もあると思います(笑)。
夢眠:「朝起きられる」とか。
湯浅:「夜遅くまで耐えられる」とか(笑)。
―雑誌と書籍、それぞれだいたい何人くらいの体制でやるのが一般的ですか?
飯島:書籍の場合、基本的に担当者は1人です。あとは外部の方に頼んで、初校と再校で1人ずつ違う方に見てもらいます。
湯浅:そのために、在宅でお仕事してくださる外部の方が何人もいます。例えば初校の時にAさんに頼んで、再校の時にはBさんに頼むと、Aさんが見た結果とBさんが見た結果というのが、それぞれ得られますよね。どんなに小さな仕事でも、2人で見るようにしろと言われます。1人だと、どうしても癖がありますので。
夢眠:視点が凝り固まって、一方向しか見えなくなるというのはありますよね。
湯浅:雑誌だと、「週刊新潮」の場合は6人です。ただ、6人では忙しいときはやりきれないので、外部スタッフにも入ってもらいます。月刊誌はもっと少なくて、2~3人ですね。
夢眠:えー! すごい!
飯島:私が入社した頃は、諸先輩方入れて4~5人くらいの中でやっていたので、色々と見られて鍛えられましたね。
夢眠:すごい世界……。ゴリゴリの文系なのに、職人で体育会系っぽい感じですね。
湯浅:仕事の覚え方は職人っぽかったですね。
夢眠:技を盗むっていうところですよね。
湯浅:あと、自分がやった仕事をもう1回見たら、こんなに直されていた……とか。本当に落ち込むんですけど、それをやらないと、自分ができなかったところがいつまでもそのままになってしまうので。
夢眠:じゃあ、今は盗まれる側ですか?
湯浅:いやいやいやいや(笑)。やっぱり会社にいる間はずっと勉強しないと、という感じです。
―そのマインドを持ち続けられる人にしか、できない仕事ですね。
夢眠:うわー、耳が痛い! 私は甘いので、「自分ができないことは誰かが補ってくれる!」「ありがとう!」みたいな気持ちを前面に出しちゃいます(笑)。でも、自分も補わないと。
湯浅:得意分野っていうのが誰にでもあるので、あまりにも専門的なものは、得意な人に頼んだり、聞きに行ったりしますね。
夢眠:ちゃんと分からないことを調べて、詰めていくっていう作業だけでも大変なのに、その極みみたいなお仕事ですね。
パラパラ漫画のように原稿を素早くめくる「めくり合わせ」には、ねむちゃんもほんのひきだし編集部も目を丸くしました。今週はこれまで以上に、校閲者の “職人” 的な面が見られた回だったのではないでしょうか? それにしても作品が書き上げられた「生まれたて」のときから何度も何度も原稿を見ていると、内容をすっかり覚えてしまうのではないかという疑問も湧いてきます。次回の対談は、そんな質問から始まりますよ。お楽しみに!