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第9話のテーマは、出版される本の内容に間違いがないかをチェックする「校閲」のお仕事。先週の対談で「今日出た原稿は今日中に片付ける」という、素人にはおおよそできそうもないスピードで校閲をこなしていることが判明しましたが、湯浅さんはいったいどんな試験をクリアして「校閲者」になったのでしょうか?
今回の対談相手
湯浅美知子 株式会社新潮社 校閲部
PROFILE
1973年生まれ。入社以来、校閲部員として週刊誌から文芸作品までありとあらゆる刊行物を担当し、今年で20年。新潮社の刊行物のクオリティーを保つべく日々努力しておりますが、誤植や疑問点がありましたら、お気軽にお便りくださいませ。
〈こちらのお二人にもご協力いただいています〉
飯島秀一さん:
株式会社新潮社 校閲部部長(書籍部門担当)。本の楽しさ、素晴らしさを夢眠書店でいっぱい発信してください。
田中範央さん:
株式会社新潮社 編集者。入社後、週刊新潮に8年在籍、出版部に異動し単行本を作りつづけて今年で20年(もうそんなになるのか……/本人談)。
夢眠ねむ(以下、夢眠):名前が載らないとか「向き・不向き」でいえば、私みたいに「夢眠ねむ!」って書きたい出たがりの人は校閲者に向いていないと思うんですけど、湯浅さんはもともと「本に関わる仕事がしたい」という夢があったんですか?
湯浅美知子(以下、湯浅):学生の頃に、出版社に勤めている先輩のところでアルバイトをしていて、出版の仕事は面白いなって思っていたんですけど、出版社の求人って編集者の募集ばっかりなんですよね。編集は無理だと思ったんですけど、それしか募集がないので、とりあえず編集者として入って、後でもっとおとなしい部署に移してもらえないかなと考えていたんです。編集者って、知らない人のところにグイグイ行って「さあさあ、書きましょう」みたいな……。
湯浅:もっと一人で考えながらできる仕事はないかなと思っていたら、私が就職するときにたまたま新潮社の校閲を募集していたので、試験を受けました。
夢眠:試験……。難しそう! 原稿がドサッとあって「どこが間違っているか引け!」みたいな感じですか?
湯浅:そうです。本当に、実技試験です。
飯島秀一(以下、飯島):40分くらい時間を与えて、原稿と、それを組んだゲラを突き合わせて、一字一句同じように再現するというような試験です。わざと誤植を入れてあるゲラを読ませて、違っているところを指摘してもらう。
夢眠:そんな実際にやる仕事みたいなことを、いきなりテストでやるんですか!? 聞いているだけで、めちゃくちゃ狭き門のような気が……。
湯浅:いや、そんなことないですよ。就活で受けた試験の中でもわりと簡単で、「絶対満点とらないと通らない」と思って、何回も見直した覚えがあります。
夢眠:小さい頃から、間違い探しとか得意だったんですか?
湯浅:いえ、そんなことないですよ。普通です。自分では普通だと思ってるんですけど。
夢眠:いや、絶対そこが秀でているんだと思いますよ。
湯浅:今回、この対談のお話をいただいてから考えてみたんですけど、確かに、人よりも汚い字が読めますね。友人にけっこう個性的な字の人が多くて、「お前読めねーよ!」とかさんざん言われてるときに「ちょっと待って、私読んでみる……。ここは、こうだよ」とかっていうのが、確かに得意でした。
夢眠:察する能力がすごく高いってことですね。
湯浅:作家の先生からすごい字の原稿が来ても「読めません」とは言えないので、とりあえず頑張らないといけないんです。
飯島:彼女が入った頃(1996年)は、まだ生原稿の時代でしたからね。今はパソコンが圧倒的多数ですけど。
湯浅:そうですね。ちょうど配属されたところで仕事を教えてくれた上司が、本当に優秀な上司で、色々教えていただきました。
夢眠:私はまだ、校閲者としてどういう方がすごいのかが全然分からなくて、皆さん全部すごいように感じちゃいます。たとえば月の満ち欠けとか、「この季節はこうだから、こうでないと正しくない」みたいな細かい部分って、辞書だけでは合っているかどうかが分からないと思うんですよね。やっぱり、豊富な知識を持っている方がすごいってことになるんですか?
湯浅:知識があるというよりは、「ここは本当にこれでいいのか?」という考えでいつも原稿を見ているので、分からなかったら調べます。知っているから気がつくんじゃないんです。
夢眠:そっか、ちゃんと「分からない」と思って調べられる能力なんですね。
湯浅:そうです。だから、何とも思わないっていうのが一番いけません。
夢眠:「読めない字でも読もう」っていう愛情がある時点で、無関心じゃないってことですもんね。「読めない!」って振りきっちゃう人は向いていないってことですね。「これは何かを思って書かれたものだから、何かあるはずだ」って読み取る力のある人が、優秀な校閲者ということか……。
―優秀な校閲者さんは「察する」というか「気になるところが多い」ということですか?
湯浅:そうですね。一つの文を読んだときに「ここはチェックしないといけない」「ここはこのままでいい」っていうのを、私は何回も見ないと分からないんですが、優秀な方なら1回で分かると思います。
飯島:事実関係を調べるにも、全部調べていたらきりがないので「ここは大丈夫だろう」っていう判断というか、その感覚を掴むのが難しいですね。
夢眠:それこそ優先順位というか、「ここは絶対に間違っちゃいけない」っていうのもあるんですね。なんか、想像もつかなかったのが、ちょっと意味が分かってきました。そういう優秀な校閲者が集まっている“聖地“みたいなところが新潮社だっていう噂を聞いたんですよ。
飯島:他の出版社にも専門の校閲部がありますので、そんなに、うちだけが突出しているとは思えないんですけど……。
夢眠:それは先端を走っている方の謙虚なご意見なのでは……?
―独立した校閲部がちゃんとある出版社というのは、今どれくらいあるんですか?
飯島:あっても、人数はだんだん減ってきていますね。そうすると「校閲部」という名前は一応あっても、校閲は外部にお願いして、それを編集との間でつなぐような形になってきてしまいます。その点、うちは上層部が校閲の重要さを理解してくれているので、この規模を保てています。
夢眠:私、本当に無知だったので、校閲ってちゃんとしたタイプ(笑)の、しっかり者の編集の方が担っているんだと思ってました。でもちゃんと組織があって、専門の方がされていると分かって、びっくりでした。
湯浅:新潮社はわりと何でも分業して、特化して、それぞれの持ち分に集中するっていうのがあると思います。
夢眠:それって重要なことですよね。できる方や得意な方に任せたほうが、いいものができると思います。
飯島:校閲部のない出版社だと、基本的に編集者が全部見ることになりますよね。トータルな意味での編集者としては、それが理想だとは思うんですけど……。
田中:確かに、うちは分業しているので、ラクさせてもらうじゃないですけど、そういう部分はあります(笑)。
湯浅:結局、私たちは書かれたものしか見ていないですから、逆に言うと、それくらいは気がつかなきゃダメじゃんって思います。
夢眠:かっこいい!
夢眠:何となく、校閲ってすんごい怖い人たちがやってるのかと思っていたんですが……。
湯浅:あ、怖い人もいます。
夢眠:あははは!(笑) 湯浅さんも飯島さんも、お二人とも柔らかい方だから。もっとこう……辞書をそのまま擬人化したような方がやってるというイメージがあったんですけど(笑)。
湯浅:そういう人もいますよ(笑)。
夢眠:じゃあ、今回は優しそうな方が来てくださったんですね(笑)。
湯浅:人見知りな人もいますが、やっぱりこういうときは、話すのが苦にならない人間を連れてくるので(笑)。
夢眠:よかったー!
湯浅:職場でも、奥の方にはね、やっぱりちょっと変わった人も、いますよね……。まあ、私も奥の方の席で仕事してるんですが(笑)。
書かれてあることに「本当に正しいのか?」という疑問を常に持つこと、それを繰り返して“カン”を養うこと。「特にどこが秀でているというわけではないけれど、読みにくい字を読むのが得意だった」という湯浅さんですが、分業して持ち場に集中するという社風もあいまって、「校閲者としての矜持」のようなものをお持ちだと感じました。次回は校閲した原稿もお見せします! お楽しみに!!