'); }else{ document.write(''); } //-->
2019年8月号で通巻700号を迎えた、鉄道趣味雑誌の老舗「鉄道ファン」。ビジュアル中心の見ごたえある誌面で、子どもから大人まで幅広い読者から支持を得ています。
その熱意のこもった雑誌づくりはどのように行なわれているのか、同誌の編集長を8年にわたって務める高田毅さんに、エッセイを寄せていただきました。
ひとことに「鉄道趣味」と言っても、写真撮影に出かけたり、全線乗りつぶしや廃線跡探訪、切符の収集、鉄道模型に凝っている方など、さまざまな活動形態が存在します。
一般には「撮り鉄」、「乗り鉄」という言葉も浸透していますね。また、鉄道以外の趣味がメインでも、たとえばカメラが趣味の方が鉄道を撮影することもあるでしょうし、旅行好きの方ならば、鉄道はその手段として重要な役割を担うはずです。
まして旅行のみならず、毎日の通勤で鉄道を利用されていて、昨日と今日で乗った車両の違いに気付けば、もはやそれは鉄道趣味の中に立ち入ったと言えるかもしれません。
今、東京都心を走る山手線では新形車両への置き換えが進行中で、黒い顔をして銀色に光る車体の電車はE235系と呼ばれる最新形式です。白色に強く輝く前照灯も特徴ですね。
山手線には50編成あまりの電車が走っていますが、すでにそのうちの9割はこの新形となり、今まで走っていたE231系500番台はまもなくすべてが引退、残りは4~5編成なので、これに乗車する機会はずいぶんと減りました。
いっぽうで、新宿駅で山手線の隣りに停まっている中央・総武線の電車に、元山手線のラインカラーを黄色とした色違い車両が使われていることがあります。
熱心なファンはこの状況をきちんと説明できますが、熱心でない方でもこの変化は目に入ることでしょう。ホームに電車が進入してきた際、そんな熱心でない(と思われる)方から「あっ、新しい電車だ」なんて声を聞くと、「鉄道ファン」誌を広げて説明してあげたくなります。
このように、鉄道趣味は多くの人たちが入り込める要素を含んでいますので、まずは誌面を開いて、内容をご覧いただければ、それほど興味のない方でも、見入る個所がいくつか出てくるはずです。
鉄道趣味に関する雑誌、書籍が昨今たいへん多く発行されるようになったきっかけは、こんな背景も理由の一つでしょう。
その中で「鉄道ファン」誌の特徴を考えてみますと……。
誌面は前述のように、さまざまな活動形態に合わせた記事を集めており、先代編集長からのことづてでもある「幕の内弁当」が基本方針となっています。
つまり、どんな項目も含め、この一冊で鉄道趣味を語れる内容を目指しているわけですが、とりわけ新形車両の紹介記事はかねてより定評をいただいていることから、これがメインの一つであることに違いはありません。
ちなみにこの新車紹介記事(新車ガイド)は、取材者自身が誌面を作成しております。現場に赴き写真を撮り、見聞内容からキャプションを起こし、そして誌面レイアウトまで、すべてを取材者が行なっているのです。
デザイナーにより工夫が凝らされた誌面デザインではありませんが、逆にプレーンなページ展開は、必要な情報がまっすぐに伝わるという効果を持つと考えています。
また、新車ガイドと並んで、単行本並みのボリュームがある特集も読みごたえ、見ごたえがあります。
私は1993年に初めて特集を担当し、1995年から今まで継続して扱っておりますが、到底1か月の作業期間でのまとめは無理と感じるテーマも多く、校了日が近づくとだんだん息が上がってくることもしばしばです。デスクメインの仕事ではありますが、編集者も体力勝負なのだとつくづく思います。
こうして仕上がった誌面を見ると、各ページ担当のセンスにより見栄えが少しずつ違いますが、部内全員が最低限の決め事を踏まえており、理想とする方向も同じなので、大きくブレることはありません。
「鉄道ファン」というのれんをくぐると、「鉄道ファン」の味付けでさまざまなメニューが並ぶ、そのような感じで、一号一号がまとめられていくのです。
交友社「鉄道ファン」編集長
高田 毅 TAKADA Takeshi
1963年生まれ。実用書の出版社勤務を経て1991年交友社入社。2011年から現職。本誌では特集ページを担当。
(「日販通信」2020年1月号「編集長雑記」より転載)