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  • 『永遠の仔』『悼む人』の天童荒太さんが、3.11後の福島を舞台に描く、生への祈りの物語

    2016年02月27日
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    日販 商品情報センター 「新刊展望」編集部
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    “幻視”する力が見せるもの

    執筆にあたり天童さんが重きを置いているのは、「自分がその場所にいたら、自分の愛する人をそこで失ってしまったとしたら、どうするのか。とことん自分を追いつめて考え、深く自分(の内面)に思いを馳せること」。

    「舟作を、あるいは透子を生きる中で、物語が進む方向に人物たちをゆがめることなく追いかけて行くことを大事にしています」

    現地への取材が生かされているのは、なんといっても舟作と文平が〈光のエリア〉と呼ぶ建屋周辺の様子と海の中の描写だろう。とはいえそれは立ち入り禁止区域のこと。実際に目にすることのできる景色ではないが、それでも読者はその光景を、まざまざと“見る”ことができる。

    「それが小説の武器だと思っています。浪江町や大熊町の周辺は、いまも電気が来ていません。立ち入りも制限されているので、午後4時にはみんな町から出ないといけない。海から建屋周辺を見ることもできないので、逆に自分がどう表現してもそれを間違っているとは誰にも言えない。小説家の“幻視”する力を最大限に生かして、誰も見たことがない海の底の情景も舟作の眼を通して見せることができる。それはまさしく小説だけの力ですし、読書の喜びにもなると思う」

    脚本家として映像の世界にも身を置いたことのある天童さん。その風景はどのようにして作家の中に生まれ、文章として表されていくのだろうか。

    「自然と見えてくるわけではなくて、言葉を紡いでいくことによって立ち起こってきます。堤防があって、クレーンが見えてきて、光が放たれていて、と言葉を足すことで、その場所がリアリティを持ってくる。波が立ち泡が白くひるがえって、月に淡く照らされて、と鳥のイメージが浮かんでくる。それも言葉が言葉を呼んでつながっていきます」

    終盤に舟作が子どもたちにする短い「おとぎ話」がある。このお話は、『ムーンナイト・ダイバー』のメタファーとも読める。鳥はその大切なモチーフであり、ラストまでをつなぐ、象徴的な言葉でもある。

    「あのシーンまで来たときに、自分の中で(舟作の)子どもたちが海賊のお話をしてくれと言う。舟作が乗り移っている感じで、自分でもハイになって書いたのですが、話をつないでいくうちに、鳥が出てきたのはこのシーンのためだったのだとわかりました。ラストも全く決めていなかったのですが、最後までそのイメージが続いていったので、物語にはやはり神様がいて、何かを表現したら、それはおそらく意味がある。それを大事にしていきたいですね」

    『ムーンナイト・ダイバー』は天童さんにとって初めて片仮名を使ったタイトルだそう。「タイトルがまた言葉を呼んで、物語の描写の骨格が決まっていった感覚でした」。作中にも月の名前が散りばめられ、幻想的な雰囲気を醸し出している。

    表紙の写真は、天童さんがこの物語を書こうと思ったときに雑誌の表紙で見つけ、眺めながら書き進めたもの。月明かりが差し込む中、悲しみをのみ込んだ海へ、また人の心へ、深く深く潜行していく本作にぴったりの1枚だろう。

    「おそらく多くの人が〈生きること〉に答えの出ない問いを抱え続けている。大切なのは、そのことに真摯に悩んでいるのは君だけではないよと伝えることではないでしょうか。大きな生命の流れの中にいま我々が生きているのであれば、愛すべき人と成長し、目の前にあることを大切にしていくしかない。その問いに明確な答えは出ないかもしれないけれど、読者ひとりひとりが自分なりの温かな光を見出してくれたら、それが一番なのだろうと思っています」

    (2016・1・8)


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    天童荒太 Arata Tendo
    1960年、愛媛県生まれ。1986年に『白の家族』で第13回野性時代新人賞を受賞。1993年には『孤独の歌声』が第6回日本推理サスペンス大賞優秀作となる。1996年『家族狩り』で第9回山本周五郎賞、2000年にはベストセラーとなった『永遠の仔』で第53回日本推理作家協会賞、2009年『悼む人』で第140回直木賞、2013年『歓喜の仔』で第67回毎日出版文化賞(文学・芸術部門)を受賞。他に『あふれた愛』『包帯クラブ』など。

    あふれた愛
    著者:天童荒太
    発売日:2005年05月
    発行所:集英社
    価格:638円(税込)
    ISBNコード:9784087478174
    悼む人 上
    著者:天童荒太
    発売日:2011年05月
    発行所:文藝春秋
    価格:649円(税込)
    ISBNコード:9784167814014
    永遠の仔 1
    著者:天童荒太
    発売日:2004年10月
    発行所:幻冬舎
    価格:628円(税込)
    ISBNコード:9784344405714
    歓喜の仔
    著者:天童荒太
    発売日:2015年08月
    発行所:幻冬舎
    価格:968円(税込)
    ISBNコード:9784344423749

    (「新刊展望」2016年3月号より転載)

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