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  • 【黒白を弁ぜず】姉を殺した死刑囚が捜査の相棒に―― 善悪の境界をなぞるサイコサスペンス

    2019年12月14日
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    花森リド:講談社コミックプラス
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    黒白を弁ぜず 1
    著者:窪谷純一
    発売日:2019年09月
    発行所:講談社
    価格:693円(税込)
    ISBNコード:9784065169469

    ふだん考えないですむならなるべく考えたくない話というのがいくつかあって、そのうちの1つが「善悪の区別」だ。「法律」と「警察」にアウトソースできてしまうので、ほぼ無視して暮らしている。ところが、丸投げしすぎたツケなのか、ますます「善悪の区別」がわからない。

    たとえば映画でたまにある「ヒロインがグラスの中身を嫌な相手にバシャっとかける」コテコテのシーン、あれは暴行罪にあたる。でもヒロインの味方である私は「逮捕だ」なんて思わない。「お行儀が悪いんだから」と笑いつつ「ざまあみろ」とスカッとしている。そう、こういう些細な話からしてすでに厄介なのだ。だから考えたくない。わかっていることは「わからない」ことだけだ。

    『黒白を弁ぜず』も、善悪の境界をなぞるようなサスペンスだ。とても厄介で胸がぞわぞわする。

    だって、本当に何が白くて何が黒いんだか全然わからないんだもの。

     

    姉の仇を護衛する刑事

    主人公の“白葉大地”は捜査一課の刑事。ある日、池袋で「全身の皮膚を剥がされ男性器を切断される」連続殺人事件が発生する。警察は猟奇殺人として捜査を進め、指紋や証拠は山ほど見つかるのに肝心の犯人像がまったく掴めない。そこで“ある死刑囚”に捜査協力を仰ぐことに。「なりふり構っていられない」ということだ。この「なりふり構っていられない」時点でだいぶ危ういのだが、白葉はその死刑囚の護衛をするよう上から言い渡される。

    「死刑囚を外に出す」というのだ。そして、表に出てしまう死刑囚がこちら。

    “黒枝生”。絵がつるりと綺麗なのもあって本作を読んでいると何度も拍子抜けしそうになる。拘束服ガチガチでもマウスピースで喋れないわけでもない黒枝の姿を見たときも口がポカンとなった。で、案の定なのだが、この美形の死刑囚は巷で大人気なのだ。

    「全身の皮膚を剥がされ男性器を切断される」や「7人の女子大生を殺した死刑囚」は文字通りグロテスクだが、こっちの無邪気な悪趣味さもグロテスク。……と、他人事のような顔で読んでいると、足首をぎゅっと掴まれる。

    白葉には他界した姉がいる。そして、その姉は黒枝が起こした連続殺人事件の犠牲者の1人なのだ。「どうする?」じゃねーよ、みたいな気持ちになる。で、なんでこんなに苛立つかというと、まさに「善悪の区別ってよくわからない」ことに直結しているからだ。『黒白を弁ぜず』は、この曖昧さがずっと続くマンガだ。

     

    餅は餅屋

    飄々としているうえに白葉を挑発するようなことばかり言う黒枝だが、警察が無茶やって表に出しただけのメリットはあって、連続殺人事件をサクサクと解決していく。

    思いも寄らない“犯人”をアッサリ見つけていく。ここは、正直かなり気持ちいい。殺人鬼である黒枝には殺人鬼の事情がわかるというか、黒枝が「善悪に区別はない」ことをすごく意識している男だからなのだと思う。なんで警察が“犯人”にたどり着けないのか? 無能だから? それは、各エピソードの“犯人”が現れたときによくわかるはずだ。

    もう一度、黒枝と白葉の話に戻ろう。多分ここが一番「善悪の区別」が曖昧な関係だ。

    「罪に問われず俺を殺す方法、教えてあげる」と囁く黒枝を、どう扱えばいいんだろう。「わからない」を連呼していてもしょうがないのだが、黒枝を殺したいほど憎み、当たり前のように「キチガイ」と口にする白葉に、私は何を願ったらいいんだろうか。お姉さんの恨みをはらす? それとも殺さずにいてほしい? 読んでいるあいだ何度も考えたが、苛立つばかりで答えが見つからなかった。私は、この2人が「善悪の境界」という曖昧で温度のない世界をフラつく様を見たいだけだ。

    試し読みはこちら

    (レビュアー:花森リド)


    ※本記事は、講談社コミックプラスに2019年10月13日に掲載されたものです。
    ※この記事の内容は掲載当時のものです。




     

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