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  • 額賀澪さんが「本のための街」への旅で学んだこと

    2019年12月08日
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    日販 ほんのひきだし編集部「日販通信」担当
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    11月6日に『タスキメシ 箱根』が発売された額賀澪さん。本作は、“駅伝×料理”で熱い人間ドラマを描き、ベストセラーとなった青春スポーツ小説『タスキメシ』の続編です。

    そんな額賀さんは、昨年、韓国の“出版都市”でのイベントに招かれ、貴重な体験をしたのだそうです。今回はその旅で“学んだこと”について、エッセイを寄せていただきました。

    額賀 澪
    ぬかが・みお。1990年、茨城県生まれ。日本大学芸術学部文芸学科卒。2015年に『屋上のウインドノーツ』で松本清張賞を、『ヒトリコ』で小学館文庫小説賞を受賞し、デビュー。その他の著書に『タスキメシ』『さよならクリームソーダ』『君はレフティ』『潮風エスケープ』『ウズタマ』『完パケ!』『拝啓、本が売れません』『風に恋う』『猫と狸と恋する歌舞伎町』などがある。

     

    「出版都市」へ行く

    韓国のソウル郊外に「坡州(パジュ)出版都市」という街がある。その名の通り、出版社やデザイン会社、印刷会社など、本作りに関わる企業が集まって作られた「本のための街」だ。

    この街にある出版都市文化財団が毎年開催しているイベントに招待され、私は2018年の秋に初めて韓国へ行った。初韓国どころか、初海外だった。

    パジュは、建築雑誌の中にいるかのような美しい街だった。どの通りを歩いても出版社が軒を連ね、その一つ一つが、建築家が趣向を凝らして作ったのがわかる。街の側には板門店があり、軍事境界線を隔てて北朝鮮と接する最前線でもあった。

    せっかく出版関係のイベントに来たのだからと、出張中にパジュやソウルの書店に足を運んだ。

    「今、韓国で一番売れてる本はどれですか?」

    出張中ずっと通訳をしてくれた大学院生のヘジュさんに聞くと、彼女は一冊の本を指さした。「読んだ後、すごく辛い気分になる本ですけど……」と。その本はそれから2ヶ月後に日本でも翻訳版が発売された。それが『82年生まれ、キム・ジヨン』だった。

    パジュでのイベントには、各国から出版関係者が集まってプレゼンテーションを行った。アメリカのブックライター、フランスの出版経済学の教授、イギリスの雑誌編集者、台湾の書籍編集者……世界中の出版関係者の話を聞くことができた。

    「今の若者は現実社会での生活に疲れ切っていて、物語の中にまでシリアスな展開を求めない」

    「書店を軸にコミュニティ作りをし、『出版業界で楽しいことが起こっている』と人々に届けることが重要だ」

    「本や雑誌のPRにSNSやYouTube動画を活用しよう」

    「たとえ今は日の目を見なくても、信念を持って本作りをしていくことが大事だ」

    日本でもよく聞く議論が、さまざまな言語で活発に交わされた。それは決して「日本と同じことしか言ってない」というわけではなく、世界中で出版関係者が同じ問題に挑んでいるということだ。

    ソウルでは、若者が集まる繁華街のど真ん中でブックフェアが行われていた。日本で言えば、原宿の竹下通りのような場所だ。案内してくれた出版社の社長さんが、「立派なホールでブックフェアをやっても、本が好きな人しか来てくれない。だから人がたくさん集まるところに、こちらから出向くんです。ここには未来の読者がたくさんいるから」と話してくれた。

    ブックフェアでは、さまざまな出版社や書店が屋台のようにブースを出し、本を販売していた。ブースの前で一歩立ち止まると、「これは海外で仕入れたチョコレートのレシピ本だよ。可愛いでしょ」とか、私が日本人だと知ると「日本の作家を特集した韓国の文芸誌があるよ」と紹介してくれた。ちなみに特集されていたのは多和田葉子さんだった。チーズドッグ片手にブックフェアを見物して回る若者がたくさんいた。

    異国の地にも日本と同じように書店があり、本を作る人と売る人がいる。言葉も文化も違うのに、誰もが「本を売るにはどうすればいいか。どうすれば出版業界を盛り上げられるのか」と頭を悩ませている。それが、私が短い旅の中で学んだことだ。

    「みんなで頑張って本を作っていこう」と、ずっと思っていた。本を作る人、売る人、読む人。みんなで頑張って本を作っていけば大丈夫だと。それは日本国内に限った話だった。海外に目を向けたことなどなかった。韓国から帰ってきて、「みんな」の範囲がとても大きくなって、仲間がたくさん増えたような心強さを感じた。

    【著者の最新刊】

    タスキメシー箱根ー
    著者:額賀澪
    発売日:2019年11月
    発行所:小学館
    価格:1,650円(税込)
    ISBNコード:9784093865579

    あの眞家早馬が「駅伝」の世界に戻ってきた!
    大学卒業後、管理栄養士として病院で働いていた早馬は、紫峰大学駅伝部のコーチアシスタント兼栄養管理として、部員たちと箱根駅伝初出場を目指すことになる。高校時代、大学時代も陸上の名門校で長距離走選手として期待されたものの、怪我から思うような成績を残せなかった早馬。その背景にあった、嫉妬、諦め、苦い思い――。数々の挫折を経験した者として部員たちに寄り添い、食の大切さ、目標達成の楽しさを伝えようと奮闘する早馬。そんな彼のことをキャプテンの4年生、仙波千早は最初は受け入れられずにいたが……。

    〈小学館 公式サイト『タスキメシ 箱根』より〉

    タスキメシ
    著者:額賀澪
    発売日:2019年11月
    発行所:小学館
    価格:825円(税込)
    ISBNコード:9784094067149

    (「日販通信」2019年12月号「書店との出合い」より転載)

     

    あわせて読みたい

    新刊の発売日に、必ず読む本がある。:額賀澪さんの読書日記「彼の本を読む日」




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