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映画「読まれなかった小説」の本編映像が、公開初日の本日11月29日(金)に解禁されました。
映画「読まれなかった小説」は、第67回カンヌ国際映画祭でパルムドール(大賞)を受賞した「雪の轍」のヌリ・ビルゲ・ジェイラン監督最新作。本作も、第71回カンヌ国際映画祭コンペティション部門に正式出品されています。
その内容は、作家の夢を抱く主人公の青年・シナンと、“かつては尊敬された”引退間際の教師である競馬好きの父との軋轢と邂逅を、誰も読まなかった「シナンの書いた小説」を通して描くというもの。解禁された本編映像には、チェーホフ、ドストエフスキーなど数々の名作に捧げられたオマージュが見られます。
文学好き必見の一作、どんなオマージュが散りばめられているのか、まずは映像から見つけてみてください。
今回解禁された本編映像は、主人公のシナンが、地元の著名な作家・スレイマンと書店で議論するシーン。その背景にはガルシア=マルケス、フランツ・カフカ、ヴァージニア・ウルフらの肖像が飾られています。
実はこれらは、ジェイラン監督が撮影場所としてこの書店を見つけた際にすでに飾られていたもの。
また、シナンの部屋のクローゼットには、カミュとシオランの写真が飾られています。
シナンとスレイマンの会話のなかで、シナンは、「文学と農村風景」というシンポジウムへある作家が参加を断ったことについて、スレイマンに意見を求めます。
このシンポジウムは、実際に開催されたもの。くだんの作家は、欠席の理由を明らかにしています。
「読まれなかった小説」劇中には、祖父の回想という形で、父・イドリスが赤ん坊時代、畑仕事の間に籠に入れられ放っておかれたというエピソードが挿し込まれます。そこで映し出されるのは、まるで死んでいるかのように眠る赤ん坊の顔に、蟻がたかっているショット。このシーンからは、ガブリエル・ガルシア=マルケス著『百年の孤独』のラストで、ブエンディア一族の末裔の赤ん坊の死体が、予言通り蟻に運ばれていく光景が想起されます。
劇中ではほかにも「蟻」をモチーフにしたシーンがあり、縄を吊った木の下で死体のように横たわるイドリスをシナンが確かめにいった際、実際にはイドリスはここでも眠っていたのですが、その顔にはやはり蟻がたかっています。
この「蟻がたかる」という発想とガルシア=マルケスの肖像の組み合わせには、監督の意図を感じずにはいられません。
劇中には、シナンと母・アスマンがイドリスについて語り合っているとき、アスマンが突如、会話を断ち切るように「雪が降っている」と言うシーンがあります。ここから想起されるのは、アントン・チェーホフ著『三人姉妹』第二幕に登場する、マーシャ、ヴェルシーニン、トゥーゼンバフの会話。生きている意味を問うマーシャに対して、トゥーゼンバフが「意味ですか……。いま雪が降っています。どんな意味がありますか?」と問い返すシーンは、チェーホフの作品のなかでも有名なセリフです。
ジェイラン監督は、影響を受けた人物について「自分が影響を受けたのは、映画ではなく文学。特にチェーホフは私の映画制作に最も大きな影響を与え、私に人生の見方を教えてくれました。彼のすべての小説を何度も読んだほどです」と語っています。このことからも、その可能性は大いにありそうです。
ドストエフスキー著『罪と罰』には、マルメラードフという男が登場します。彼は、主人公のラスコーリニコフが親密な関係になる女性、娼婦・ソーニャの父。給料を飲み代に使ってしまう悪癖のため、一家を不幸に陥れるダメ男なのですが、かの有名な酒場での長広舌「マルメラードフの告白」は、『罪と罰』全体の主題を貫くものとなっています。
「読まれなかった小説」のイドリスもまた、競馬に給料をつぎ込み、借金を笑って誤魔化す男。
貧困に喘ぎながらも誇り高いイドリスの態度には、マルメラードフに通じるものがあるのではないでしょうか。
さまざまな作品へのオマージュが込められた、映画「読まれなかった小説」。ほかにも文学ファンの心をくすぐるオマージュが、随所に隠されているかもしれません。
ぜひ劇場へ足を運んで、探してみてくださいね!
※参考:「読まれなかった小説」パンフレット内 野谷文昭さん(東京大学名誉教授)寄稿「蟻と再生」
・映画「読まれなかった小説」に「まるで“観る文学”」「3時間観続けてまだ観たいと思った」と絶賛の声続々!池澤夏樹、井上荒野らもコメント
あらすじ
シナンの夢は作家になること。大学を卒業し、重い足取りでトロイ遺跡近くの故郷へ戻ってきた彼は、処女小説を出版しようと奔走するが、誰にも相手にされない。
気が進まぬままに教員試験を受けるシナン。父と同じ教師になって、この小さな町で平凡に生きるなんて……。父子の気持ちは交わらぬように見えた。しかし、ふたりを繋いだのは意外にも誰も読まなかったシナンの書いた小説だった――。
11月29日(金)より、新宿武蔵野館、ヒューマントラストシネマ有楽町ほか全国順次ロードショー!
監督・編集:ヌリ・ビルゲ・ジェイラン(「雪の轍」)
撮影監督:ギョクハン・ティリヤキ
脚本:アキン・アクス、エブル・ジェイラン、ヌリ・ビルゲ・ジェイラン
音楽:ミルザ・タヒロヴィッチ
挿入曲:J.S.バッハ「パッサカリア ハ短調BWV582」(編曲:レオポルド・ストコフスキー)
出演:アイドゥン・ドウ・デミルコル、ムラト・ジェムジル、ベンヌ・ユルドゥルムラー、ハザール・エルグチュルほか
配給:ビターズ・エンド
2018/トルコ=フランス=ドイツ=ブルガリア=マケドニア=ボスニア=スウェーデン=カタール/189分/英題:The Wild Pear Tree/原題:Ahlat Ağaci
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