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    「愛される自信がない、でも愛されたい」“隠れビッチ”のリアルな本音を描いた三木康一郎監督の視線:映画『“隠れビッチ”やってました。』

    2019年12月05日
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    日販 ほんのひきだし編集部 浅野
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    「たくさんの男に『好き』って言われて、私の自信がチャージされればオッケーっしょ」
    26歳の独身女・ひろみの趣味&特技は「異性にモテること」。絶妙なスキンシップや会話術で相手を翻弄し、告白させたら即フェイドアウト。シェアハウス仲間のコジと彩に「最低の“隠れビッチ”ね!」とたしなめられるが、彼女の耳には届かない。
    そんなある日、ひろみの前に気になる相手・安藤くんが現れる。それは、彼女が自らの過去と向き合うための“小さな始まり”だった……。

    あらいぴろよさんが自身のトラウマとコンプレックスを描いたコミックエッセイ「“隠れビッチ”やってました。」。同作が『旅猫リポート』『植物図鑑 運命の恋、ひろいました』の三木康一郎さんによる監督・脚本で実写映画化されました。

    主人公・ひろみは、異性からモテることで承認欲求を満たす、世間的には否定されがちなヒロイン像。ひろみや彼女を取り巻く人々をどんな眼差しで見つめていたのか、三木監督にお話を伺いました。

    三木康一郎(みき こういちろう)
    1970年生まれ、富山県出身。映画監督作として『トリハダ-劇場版-』シリーズ(12・14)、『のぞきめ』『植物図鑑 運命の恋、ひろいました』(16)、『覆面系ノイズ』『リベンジgirl』(17)、『旅猫リポート』(18) などがある。「世にも奇妙な物語秋の特別編『昨日公園』」(06/フジテレビ)、「東京センチメンタル」(14、16/テレビ東京)、「ポルノグラファー」(18/フジテレビ)など、多彩なジャンルのドラマの演出も手がけている。

    “隠れビッチ”やってました。
    著者:あらいぴろよ
    発売日:2016年09月
    発行所:光文社
    価格:1,100円(税込)
    ISBNコード:9784334978877

     

    主人公は、男心を弄ぶ“隠れビッチ”

    ―― 原作を読んだとき、三木監督はひろみというキャラクターに対して、どういう印象を持ちましたか?

    「こういう人いるよね」って思いました。「たくさんの人から好きって言われたい、愛されたい」という思いにはすごく共感できます。それに対して自分から好きだと態度で示すか、“受け”の姿勢で好きだと言われるように仕向けるかが違うだけで、僕もひろみくらい可愛ければそうしていたかもなあ、なんて。

    ―― それでも「自分のことを好きになった人から選ぶ」って、軽蔑されがちですよね。

    そうですね。ただ、ある日突然運命の人が目の前に現れるなんて、全員に起きることじゃありません。いろんな人と出会って、そこから運命の人を見つけていくというやり方は、それ自体はあながち間違いでもないんです。

    周囲から「八方美人」「ビッチ」と思われているわけではない人にも、そういう気持ちは分かるんじゃないかなと思います。僕は女性ではないので、本当のところはわかっていないかもしれませんけどね。

    ――「素の自分が愛されるか自信がない」「本当はみっともないところも含めて、ありのままの自分を受け入れてほしい」というジレンマは、私もとても共感しました。そんなヒロインを演じたのが、映画初主演となる佐久間由衣さん。ナチュラルでしっかり者というイメージだったのですが、今回は感情の起伏が激しいキャラクターです。

    演じるにあたっては、ひろみの感情を探し当てるのが大変そうでしたね。感情って、ただ一口に「悲しくて泣く」といっても実際はいろんな方向の感情が含まれているでしょう。ひろみは特に泣くシーンが多いので、いろんな「泣く」でやり直すというのをけっこうやりました。

    ほかにも、たとえば家の扉を開けて外に出てくる何気ない仕草や、家に帰ってきたときの動きなど、細かいところまで「どういうふうに思ってそうしているのか」を大事にして演出していきました。ちょっとでも感情がはまっていなければ何度でもやり直したので、苦労したと思います。

    ―― そんなひろみが素の自分をさらけ出せる唯一の場所が、コジ(演:村上虹郎)・彩(演:大後寿々花)と3人で暮らすシェアハウスです。

    原作ではどんな家に住んでいるのかあまり細かく描かれていませんが、映画では「コジのおばあちゃんが亡くなって、父母は別で住んでいるので、コジがおばあちゃんの家を譲り受けて住んでいる」「でも一軒家に一人で住むのが寂しかったので、2人をシェア仲間として入れた」という設定にしました。おばあちゃんの頃からご近所づきあいが続いている、という雰囲気を捉えてくれたようで「近所でとれた野菜をもらってきた」みたいなアドリブがバンバン入っています。

    3人の関係性は、コジがお母さんで、彩がお姉さんぶっているお姉さん(笑)、そしてひろみが奔放な次女。そんなふうに立ち位置を決めて、部屋のつくりも考えました。家の中のシーンは、3人とも楽しそうにやっていましたね。

     

    “普通”を表現するのが一番難しい 森山未來が演じた「存在感のない平凡な男」

    ―― 本作では、ひろみが職場の上司の三沢さん(演:森山未來)に醜態を見られたところから、2人の関係が少しずつ深まっていきます。三沢さんは非常に重要なキャラクターですが、彼のバックグラウンドはほとんど描かれないので「どんな人なのか」がほとんどわからないままですよね。人生の夢もないし、結婚願望があるのかどうかもわかりません。

    森山未來さんにも、「三沢はとにかく普通の人です」としか言いませんでしたね。そういうふうにしか説明できなかったというか。

    ――「存在感のない平凡なキャラクターなので、存在感のない俳優にやらせてはいけない」という考えから森山未來さんに決まったそうですが、監督は「普通の人」をどんなふうに捉えていましたか?

    普通って、“真ん中”ってことですよね。閾値を超えずに「普通」の範囲のなかで、その時その時で怒りっぽかったり、Mっぽかったり、優しかったり、人間として成熟した面を見せたりする。「ただただ全力で怒っています」というような、一つだけの感情じゃないんです。そういう余白のあるキャラクターをやるのは、森山さんのようなしっかりと“人間”を演じられる、表現力のある俳優さんでなければ難しいんじゃないかなと思いました。それに、どれだけ普通といってもヒロインが好きになる相手ですから、魅力的にも見えなければならない。「普通」が一番単純じゃなくて、難しいんです。

    脚本を書いている段階では「真ん中」というイメージしか持っていなかったので、人間像はそこまで掘り下げられていませんでした。森山さんに決まったことで、「(森山さんが演じるなら)こういう面があるかも」「このときはこんなふうに思うだろうな」と、三沢を生身の人間として捉えられるようになったと思います。「三沢」の半分以上は、森山さんに託していました。

    ―― 一言で「こういう人」と言い表せないだけに、終盤、ひろみから「私のどこを好きになったの?」と聞かれたときの答えにはドキッとしました。

    僕の考えでは、弱くてダメな部分こそがその人の本質なのだとしたら、ひろみはそれが表に見えてくるタイプ。そして、三沢はそれを隠すタイプです。それがあの答えには込められています。

     

    人生は「めでたしめでたし」で終わらない 後味を残すラストシーンの理由

    ―― 本編にはもう一つ、ドキッとさせられる場面がありました。エンドロールの後のラストシーン、あれは脚本に着手する前から決めていたんですか?

    いえ、脚本の初稿を書いた時点では、エンドロールの前で本編を終えるつもりでした。でも、次の段階で脚本を揉んでいるとき、森山さんとご飯を食べながら映画について話していて「もう一つリアリティを持たせたいね」という話になったんです。実際の人生って「めでたしめでたし。はい、おしまい」とはいかないでしょう。人間の本質的な部分を描いた映画だからこそ、人間のもつリアルな複雑さを最後にスッと落としてもいいんじゃないかなと思って、ああいうラストにしました。

    自分が生きてきた中で関わった人たちって、もし途中で関係が切れてしまっても、何かしら自分の人生に存在が残っているじゃないですか。ひろみだって三沢だって、そういう“残してきた感覚”を持ったまま人生がずっと続いていくわけで。「こっちはうまくいっているけど、そうじゃない部分もあるよ」っていうことをきちんと表現したかったんです。

    ―― それでは最後に、これから映画をご覧になる方へのメッセージと、撮影時のこぼれ話を一つお願いします。

    今回『“隠れビッチ”やってました。』を作っていて、僕自身は「正解ってないんじゃないかな」「正解って、いろんなところに転がっているものじゃないかな」と思っていました。「こうあるべき」という一般論に凝り固まらないで、悩みながら一つひとつ自分に合う正解を見つけていこうとすれば、その過程で自分の求める幸せも見つかると思います。それをこの映画で感じてほしいです。

    こぼれ話は……、劇中でひろみが着ている衣装は、意外と僕の物が多いです(笑)。“隠れビッチ”のときは清楚で可愛らしい服を着ていますけど、普段のひろみは「雑な女」にしたかったんです。男っぽい服にしようと提案したら、佐久間さんと衣装部のスタッフがうちに来て、僕の服をたくさん持っていきました。映画ではぜひ、ひろみの服装にも注目してみてください(笑)。

     

    原作紹介はこちら

    3年間で200人!異性からのモテで自分を満たす「隠れビッチ」の末路は……

     

    映画『“隠れビッチ”やってました。』

    出演:佐久間由衣 / 村上虹郎 大後寿々花 小関裕太 / 森山未來
    監督・脚本:三木康一郎
    原作:あらいぴろよ「“隠れビッチ”やってました。」(光文社刊)

    2019年/日本/日本語/112分/カラー/ビスタ/5.1ch
    配給:キノフィルムズ/木下グループ

    12月6日(金)全国ロードショー

    kakurebitch.jp

    © 2019『“隠れビッチ”やってました。』フィルムパートナーズ/光文社




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