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今月3日、イラストレーター、絵本作家の井上洋介さんがお亡くなりになりました。たくさんの面白い絵本をありがとうございました。合掌。
井上洋介さんは『ちょうつがいの絵本』(フレーベル館/1976年)、『ビックリえほん』(文研出版/1976年、復刊ドットコム/2008年)、『でんしゃえほん』(2000年/ビリケン出版)など多くのナンセンス絵本を手掛ける一方、児童書の挿絵も数多く描かれています。その代表作は神沢利子先生の『くまの子ウーフ』(1969年/ポプラ社)ではないでしょうか。
この「ウーフ」というくまのイメージはすぐに思い浮かんだそうで、井上さんは下記のように語っています。
(神沢さんの)文章でやっぱり、いいくまを描こうと思ったんだね。それでくまの絵を描いたら、あ、これだと思って、あんまり数描かないうちに決まったわけ。このくまだったらいいんじゃないかと思ってね。(中略)ふつうの半ズボンよりも吊りズボンのほうがずっとかわいくなって、はだかに着てるのはもっとかわいくて、だからズボンだけっていうね。楽にすっと描けた。
― 平凡社『別冊太陽 絵本の作家たちⅡ』(2005年)p.34より引用)
子どもたちの記憶に残る、本当にかわいいくまです。
しかしそれとは逆に、井上さんはトラウマになるような挿絵も残されています。その代表作は『合成人間ビルケ』(作:ベリヤーエフ、訳:馬上義太郎/岩崎書店「SFこども図書館」シリーズ/1967年)※1。もう、表紙のインパクトが半端じゃないです。
▼これが表紙です!!
(©岩崎書店)
「ガラス台に乗せられた老人の生首のアップ」という衝撃的な表紙。内容も強烈で、人間を首だけの状態で生存させることに成功したマッドサイエンティストの師弟と、助手のローラン、そして事故死から首だけで再生し、他の死体の胴体と合成される踊り子「ビルケ」が登場する、暗く重い物語となっています。当時小学校の図書館でこの本を手に取った私は、あまりの衝撃にその後『合成人間ビルケ』を幾度も借りることになるのでした。
▼表紙の次に目に飛び込んでくるのが、扉前のカラー挿絵です。
(©岩崎書店)
犬を使った動物実験の様子です。この絵を見て「そういえば何かの本で、ソビエトではこういう実験をやっていると読んだことがある!」と思ったことを覚えています(原作者のベリヤーエフはロシア人です)。
▼そんな中、ビルケの回想シーンでは、井上洋介さんの遊び心を感じることができます。
(©岩崎書店)
生首になったビルケの背後に、フランス人画家・ロートレックの作品「ムーラン・ルージュのラ・グーリュ」が描かれています。他にも名画をモチーフにしたと思われる挿絵がいくつかあり、このハードな内容に対して井上さんはウィットとユーモアをもって取り組まれていたことが伝わってきます。
ちなみにこの作品は、4年後に別の翻訳者で邦題『生きている首』(訳:飯田規和/岩崎書店「SF少年文庫」/1971年)として刊行されており、そちらの表紙もインパクトがあります。
▼これです。
(©岩崎書店)
なんと絵本『かわいそうなぞう』(文:つちやゆきお文/金の星社/1970年)で有名な、武部本一郎さん※2の絵です。それにしても同じ作品が同じ出版社から別レーベル・別翻訳で刊行されるのは、なかなか珍しいケースです。
岩崎書店は2003年にも馬上翻訳版に挿絵を変え、邦題『いきている首』(岩崎書店「冒険ファンタジー名作選」)としてリニューアル刊行しています。
▼表紙はこれです。
(©岩崎書店)
垢ぬけていて、「昭和」から「平成」という感じです。
井上洋介さんの挿絵の印象が強い本作『合成人間ビルケ』ですが、別の翻訳・挿絵でも読んでみたい作品です。
※1 …当初は『合成人間』(SF世界の名作)として刊行、1976年改題
※2 …SFアートの巨匠でもあります。