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  • ロスジェネ世代に寄り添うやさしい応援歌『ロス男』 同じ世代を生きた担当編集者の思いとは

    2019年10月12日
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    講談社 文芸第二出版部 大久保杏子
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    「ロスジェネ」と聞いてあなたは何を思い浮かべますか?

    90年代後半から00年代初めの就職氷河期時代に新卒として社会に出て行った世代を総称して「ロスジェネ世代」と呼びます。

    2002年大学卒業の私はまさにこの世代。100社も200社もエントリーシートを送り、内定を得られるのはわずか数社というのが当たり前の時代でした。せっかく入社した企業もいわゆるブラック企業で、数年で退職し、地元に帰ってしまい、その後の行方がわからない同級生もたくさんいます。

    「規制緩和」という言葉で選択肢が広がったような気持ちになっていた私たち当時の学生は、その後、20年近くも不安定な生活を余儀なくされるとは思いもよりませんでした。最近になって「あ、私たちの世代ってわりを喰っていたのか!」と気づいた人も多いと思います。かくいう私も本作を読んで改めて「私ってロスジェネだったのか!」と気づいた一人です。

    このように「ロスジェネ」というとネガティブな印象ばかりが先行してしまう昨今。本作『ロス男』には、フリーランスのライターで正規雇用経験なし、未婚、という典型的なロスジェネ世代の主人公が登場します。

    「無人ATMから出てきたときの、あの寒々しい気持ち。そのあと牛丼屋で食う牛丼のあのまずさ。あれだけは経験した人にしかわからないだろうな」(本文より)と語るように世知辛い生活をしている主人公ですが、心の一点がほんのり温かくなるような平岡さんの筆致には、終始救いがあります。

    主人公の他に、元同僚で長年別居している奥さんに恋をし続けている自由な老人のカンちゃん。ヤクザライターをしていた友人の小野。仕事で出会ったすべての言葉に色がつく共感覚の持ち主の女性漫画家。どこかで会ったことがあるような優しい登場人物たちの姿を眺めていると、しんどい状況であっても、たとえ一瞬だったとしても、誰かと出会い、繋がることが生きるってことなんだなとしみじみ思えてくるのです。

    作中に「わたしを、傷つけない自信がありますか?」というセリフが出てきます。『ロス男』はきっとあなたを傷つけない、優しく包んで、幸せにしてくれることを保証します。そして人生を肯定してくれる。すべての人への応援歌です。

    『ロス男』あらすじ

    生まれたときからロス(損)している世代と言われているけれど、そろそろ本当の自分の人生を起動したい――。

    40歳、フリーランスのライター、正規雇用経験なし、未婚。たった一人の肉親である母を亡くしてから、漠然とした喪失感を抱えていた。
    ある日、偶然再会した元同僚の「死ぬまでにやりたい10のこと」リストの作成を手伝ってから、少しずつ世界が変わり始める。
    ――「ロスジェネ世代」と言われた自分たちは、いったい何を「ロス」してしまったのだろうか。

    すべての人生を肯定する、注目若手作家の最新書き下ろし!

    ロス男
    著者:平岡陽明
    発売日:2019年10月
    発行所:講談社
    価格:1,595円(税込)
    ISBNコード:9784065170342

    アイキャッチイラスト/山本由実




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