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  • “2時間のコンチェルトを作る気持ちで臨んだ” 映画『蜜蜂と遠雷』石川慶監督インタビュー

    2019年10月08日
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    日販 ほんのひきだし編集部 浅野
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    「映画化は無謀、そう思っていました。『参りました』を通り越して『やってくれました!』の一言です。」

    史上初となる直木賞・本屋大賞のダブル受賞を果たした、恩田陸さんの小説『蜜蜂と遠雷』。映像化不可能と思われていた同作を見事一本の映画にし、恩田さんを唸らせたのが、本作が2作目の長編映画となる石川慶監督です。

    石川監督は、『愚行録』で長編監督デビューし高く評価された新鋭。『蜜蜂と遠雷』の映画化にどのように取り組んだのか、お話を伺いました。

    石川慶(いしかわ・けい)
    1977年6月20日生まれ、愛知県出身。 ポーランド国立映画大学で演出を学ぶ。2017年に公開した『愚行録』では、2016年ヴェネチア国際映画祭オリゾンティ·コンペティション部門に選出されたほか、新藤兼人賞銀賞、ヨコハマ映画祭、日本映画プロフェッショナル大賞では新人監督賞も受賞。その他の主な映画監督作には短編『点』(17)がある。

    ――『蜜蜂と遠雷』については、恩田陸さん自身が「絶対に小説でなければできないことをやろうと決心して書き始めたもの」と語っています。映画化にあたっては、相当なプレッシャーを感じたのではないかと思うのですが……。

    そもそも「恩田陸さんの小説を扱わせていただく」というだけでもプレッシャーなのに、史上初の直木賞・本屋大賞ダブル受賞作、さらに本屋大賞を同じ作家さんが2度受賞したのも史上初ですからね。東宝さんのような大きな環境で映画を作るのも初めてで、すべてがプレッシャーでした(笑)。

    『蜜蜂と遠雷』は、映画監督にも読んでいた人がすごく多かったみたいで、映画を撮り終わってからお会いした方みんなに「どうやったの?」「あれはちょっと難しくない?」と言われましたね。やっぱり皆さん「自分だったらどう撮ろうか」と考えながら読んでいたようです。

    蜜蜂と遠雷 上
    著者:恩田陸
    発売日:2019年04月
    発行所:幻冬舎
    価格:803円(税込)
    ISBNコード:9784344428522

    恩田陸さんの小説って、作品によって全然違いますよね。『蜜蜂と遠雷』を撮っていたときに『ねじの回転』も読んでいたのですが、とても同じ作家の作品とは思えませんでした。

    ああいうハードな作品もすごく好きですけど、これに関しても、映画化はかなり大変だろうなと思います(笑)。

    ねじの回転 上
    著者:恩田陸
    発売日:2005年12月
    発行所:集英社
    価格:524円(税込)
    ISBNコード:9784087478891

    ―― 無事完成して「『参りました』を通り越して『やってくれました!』の一言です」という恩田さんの絶賛コメントをご覧になったときは、どんなお気持ちでしたか?

    本当に嬉しかったです。先日も恩田先生にご挨拶できたのですが、映画を撮り終わった今も笑顔で言葉を交わすことができて、本当によかったなあと。

    映画化にあたっては「前後編はやめてほしい」「2時間以内の作品にしてほしい」という厳密なオーダーがあったのですが、僕としても『蜜蜂と遠雷』は基本的にできるだけ短く、作品自体が一つの音楽として駆け抜けていくようにしたいなと考えていたので、脚本も、編集の段階でもかなりシェイプアップしました。

    ―― 前作『愚行録』では「できるだけドライに、たとえるなら爬虫類の肌のような質感にしたかった」とおっしゃっていましたが、今作に関してはどんな完成イメージをお持ちでしたか?

    クライマックスの亜夜の演奏、そこがきちんとできていればすべてよし!と思って作っていましたが、その山へ向けてきちんと話を積み上げていかなければクライマックスは迎えられないので、2時間のコンチェルトを作るような気持ちでしたね。先ほど「作品自体が一つの音楽として駆け抜けていくように」と話しましたが、今振り返っても、最後のクライマックスに向けて疾走するというイメージを持っていたように思います。

    それから、回想シーンをあまり入れずに、現在軸のドキュメンタリーのようにしたいとも考えていました。回想シーンがしっかりあるのは明石くらいですね。

    ―― 確かに、どのようにして彼らが国際ピアノコンクールまでたどり着いたのかはあまり描かずに、佇まいやキャラクター同士の関係性から、“それまで”がにじみ出るような描かれ方をしていました。

    でも本当は、明石の回想シーンはもっと残したかったんですよ。松坂桃李くんと子どものやりとりがほのぼのしていてすごく好きで、できるだけたっぷり残そうとしたんですが、泣く泣く削りました。息子役の子が毎テイク違う絵を描いて、「何描いてるの?」「きりん」「今回は犬~」って話している姿がすごくよかったんです。

    ―― 今回は、脚本も石川監督が手がけていらっしゃるんですよね。

    最初は、自分で脚本を書く予定ではなかったんですけどね。

    原作小説もそうなんですが、『蜜蜂と遠雷』は演奏の場面がとても多いんです。つまり裏を返すと、セリフじゃない部分がすごく多い。セリフのある場面だけ脚本家の方に書いてもらうという選択肢もあったんですが、最終的には、脚本も自分が担当したことで「画で語るストーリー」と「セリフで進むストーリー」をきちんと調和させることができたと思います。

    ―― 小説では文字で表現されていた音楽を、実際の音や映像で表現するにあたっては、苦労された点も多いのではないでしょうか。

    小説は、実際には音が鳴らないからこそ「自分の解釈で自由に音を鳴らすことができる」という良さがあって、恩田先生はそれをものすごく巧みにされていますよね。だから『蜜蜂と遠雷』に関しては、映像にするからこそわかりにくくなってしまう、物語の世界に入っていきにくくなってしまう要素がとても多いなと感じていました。そこはすごく難しかったですね。特に現代音楽やピアノ曲は、なじみのない方も多いので。

    ただ、そうはいっても“音楽”なので、「根源的にはわからない人はいない」という信念でやり通した部分もありました。それから、多少内容がアカデミックになってしまっても、観ているうちになんとなく「分かったような気持ち」になってもらえたらいいなという思いがあったので、「演奏者ってどんなことを考えているんだろう」「この曲のこのパートを演奏するときは、オーケストラのどの楽器と合わせるんだろう」「ピアニストが陥りやすいミスには、どんなものがあるんだろう」といろいろ勉強して、門外漢の自分に分かることをなんとか脚本に落とし込んでいったという感じです。

    演奏シーンに関しては、キャストの4人とピアノ演奏の4人に「表裏一体となって2人で1人のキャラクターを演じてください」と伝えていました。「このキャラクターだったらどういうふうに弾くか」を2人ですり合わせて、そのキャラクター像へ向けて練習してきてくれたので、現場で僕があれこれ言うことはなかったです。

    撮影したとき、ここで拍手をしてくださいという指示があったわけではないのに、観客役で参加してくれたエキストラの皆さんから自然に拍手が沸き起こったんですよ。それを見て「この映画、うまくいっている気がするな」と手応えを感じていました。

    ――『蜜蜂と遠雷』には亜夜、マサル、明石、塵という異なる4人の才能が登場しますが、鈴鹿央士さん演じる風間塵はとりわけ印象的でした。小説を読んでイメージしていた塵そのままといっても過言ではないくらいでしたが、監督もオーディションで「塵そのものだ」と感じられたそうですね。

    オーディションを受けてくれた子のなかで、央士くんが一番「訳が分からなかった」のは確かですね(笑)。今はけっこう精悍な感じですけど、当時はまだ幼さが残っていて、実績もあって演技が上手い子がたくさんいるなか、「岡山から出てきたばっかりで、映画のことはまだ全然わかりません」という感じで。オーディション後も、プロデューサーをはじめスタッフの間では「央士くん、どうかなあ」「この大作の主役級に抜擢するには、リスクが高いかもしれないなあ」というやりとりが続きました。

    その時「なんかこの光景見たことある気がするな」って思ったんですけど、賛否両論起こる感じや、オーディション会場にひょろひょろっと入ってきた央士くんの佇まい、天然な雰囲気が、原作で風間塵がパリのオーディションに現れたときのシーンそのものなんですよね。そういう意味でも「なるほど、塵だな」と思いました。央士くんはこれが俳優デビュー作ですけど、演技指導もあまりしませんでした。

    ―― 風間塵のピアノ演奏を担当された藤田真央さんについては、いかがですか。

    天然なふわふわっとした感じが、央士くんと似ていますね(笑)。

    それから藤田くんって、ちょっと丸まったような姿勢で、独特な鍵盤の触り方をするじゃないですか。ああいう弾き方って、音楽監修の方いわく“正しい弾き方”ではないそうなんです。「あの弾き方は本当は怒られるんだけど、音を聴くとすごくいいんだよね」っておっしゃっていて、そういうところも含めて「ああ、天才ってこういうことなのかな」と思いました。

    風間塵に限らず、俳優陣より先にピアニストが決まっていたんですけど、彼らが登場人物をイメージして演奏してくれた音は、キャラクター作りの際にかなり参考にしました。

    ―― 最後に、主人公の亜夜について伺います。“元・天才少女”という役どころで、原作よりもかなり寡黙なキャラクターになっていますよね。

    小説には登場する「奏」をどうするかを、かなりギリギリまで悩んでいたんですが、明石と亜夜の物語をきちんと結びつけるために、思い切って「登場させない」という選択をしました。それが「亜夜の寡黙さが強まる」という反作用を生んだんです。これによって、小説では数行にわたって書かれている情報、下手すると5ページ分くらいの情報を目線ひとつで表現しなければならなくなったので、撮るのも難しいし、演じた松岡茉優さんはそれよりもはるかに大変だったと思います。

    小説ではあまり感じないと思うんですが、原作の内容をそのまま映像にすると、明石って亜夜とほとんど接点がないまま、二次選考でいなくなってしまうんですよ。明石の物語だけ、主人公である亜夜とはまったく別個の物語のように見えてしまう。そこで、原作で奏が担っていた役割を、映画では明石に乗せることにしました。そうすることで、明石の物語がちゃんと亜夜の物語に還元されるようにしたかったんです。

    でも、ほとんど喋らない主人公だからこそ、観ているこちらは、演奏しているときの一つひとつの細かな目の動きから「彼女の感情の動きを読み取ろう」と無意識のうちに前のめりになるんですよね。亜夜がほとんどしゃべらないキャラクターになったことで、演奏が物語を前へ進めていく構造もより強まりましたし、結果としてうまくいったなと思っています。

    ―― 本日はありがとうございました!

     

    映画「蜜蜂と遠雷」

    【STORY】
    芳ヶ江国際ピアノコンクールに集まったピアニストたち。復活をかける元神童・亜夜。不屈の努力家・明石。信念の貴公子・マサル。
    そして、今は亡き”ピアノの神” が遺した異端児·風間塵。
    一人の異質な天才の登場により、三人の天才たちの運命が回り始める。
    それぞれの想いをかけ、天才たちの戦いの幕が切って落とされる。
    はたして、音楽の神様に愛されるのは、誰か?

    松岡茉優
    松坂桃李 森崎ウィン
    鈴鹿央士(新人) 臼田あさ美 ブルゾンちえみ 福島リラ / 眞島秀和 片桐はいり 光石研
    平田満 アンジェイ・ヒラ 斉藤由貴 鹿賀丈史

    原作:恩田陸『蜜蜂と遠雷』(幻冬舎文庫)
    監督・脚本・編集:石川慶
    「春と修羅」作曲:藤倉大
    ピアノ演奏:河村尚子 福間洸太朗 金子三勇士 藤田真央
    オーケストラ演奏:東京フィルハーモニー交響楽団(指揮:円光寺雅彦)

    10月4日(金)全国公開

    https://mitsubachi-enrai-movie.jp/

    ©2019 映画「蜜蜂と遠雷」製作委員会




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