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  • 『流浪の月』は「人間の関係」に向き合い続けた“BL”出身の作家が描く珠玉の傑作

    2019年09月16日
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    東京創元社 編集部 桂島浩輔
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    8月30日(金)に東京創元社から発売された『流浪の月』が、発売前から書店員の話題になり注目されています。

    作者の凪良ゆうさんは、これまでBL漫画の原作などで活躍している知る人ぞ知る作家でした。その繊細な感情の描写や、読者の心を打つ言葉は、BLのジャンルを越えて注目され、2017年には非BL作の『神さまのビオトープ』(講談社)が出版されました。

    凪良さんの魅力に惹かれ、思わず『流浪の月』の依頼をしたという東京創元社 桂島浩輔さんに、本書が書かれるきっかけや面白さを紹介していただきました。

    流浪の月
    著者:凪良ゆう
    発売日:2019年08月
    発行所:東京創元社
    価格:1,650円(税込)
    ISBNコード:9784488028022

     

    「BL」というジャンルを越える作家の登場

    かつて〈ライトノベルから一般文芸への“越境”〉ということが喧伝されたころ(そういうことが新聞の記事にもなる時代がありました)、「BLの業界にも、BL以外を書いても高く評価されるような書き手は当然いるんだろうな」と、ぼんやり思ったことがあります。
    しかし自分で探しに行く余裕はなく、情報を得ようにもどこにアンテナを向けたら良いのかよくわからないまま、気づけば十年以上が経過していました。

    近年、榎田尤利(ユウリ)氏や木原音瀬氏をはじめとして、少しずつしかし次々と、BLの書き手が一般文芸に進出したり、非BL作品を手掛けたりしているのが目につくようになりました。

    やはりそういう方々はいらっしゃったのだな、と思い、そのいくつかを遅まきながら読み始めました。想定したことではあったものの、際立った筆力、読者を巻き込むヴィヴィッドな感情描写(独特な、感動喚起能力とでも言ったら良いか)などに圧倒されることも少なくありませんでした。

    そして、……その中でも、凪良ゆう氏の作品に出合ったときの驚きたるや! 「いた。やっぱり、凄いひとがいた」と譫言のようにつぶやきつつ、「この方の新作原稿を戴きたい」と猛烈に思い、矢も盾もたまらず依頼のメールを書き送ったのでした。

     

    人間が、人間を理解すること、歩み寄ること、受け入れること

    男女の恋愛を描いた小説がそうである以上に、BLで描かれる恋愛には、障壁があることが多いように思います(詳しくはありませんが……なにせ付け焼刃なものですからお許しください)。社会的な障壁も存在しますし、恋した相手がゲイではない場合、そこが大きな大きな障壁にもなり得ます。

    心の方面で成就しても、身体の方面で成就しない場合だって考えられるのです。なるほど、この関係を説得力を持たせつつ描くには、ある程度の力技と、それ以上に書き手が主人公ふたりの心理の動きに脇目も振らずに寄り添う必要があるのだな、と思いました。人間が、人間を理解すること、歩み寄ること、そして受け入れること。こういう作品を書き続けていたら、それは確かに小説が巧くなるだろう。

    そこに加えて凪良ゆう氏の作品は、まず設定に長けているのと、「どのようにこの話を収束させるのだろう?」と毎度思わせる展開の妙があります。

    長々書き綴ってきましたが、凪良ゆう氏の特長は、今回の作品にもすべて詰め込まれています。デビュー12年目の著者が新たなフィールドで心をこめて贈る、単行本での非BL作品。心を揺り動かす傑作です。必ずや、今後いっそう多くの読者の支持を受ける書き手となるだろう実力を備えた、“大器”の新たな船出にご注目ください。




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