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  • 今泉力哉監督「アイネクライネナハトムジーク」インタビュー:誰も脇役にならない“奇跡の連鎖”の物語

    2019年09月19日
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    日販 ほんのひきだし編集部 浅野
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    伊坂幸太郎さんの“初にして唯一の恋愛小説集”『アイネクライネナハトムジーク』が、「愛がなんだ」で話題を呼んだ今泉力哉監督によって映画化。物語の舞台である仙台での先行上映を経て、20日(金)に全国公開を迎えます。

    伊坂幸太郎さん本人からの指名を受けて、本作を撮った今泉監督。製作時のエピソードや作品への思いを伺いました。

    今泉力哉(いまいずみ・りきや)
    1981年生まれ。福島県出身。2010年「たまの映画」で長編映画監督デビュー。2012年、恋愛群像劇「こっぴどい猫」を発表、国際映画祭にて監督賞受賞。2013年「サッドティー」の出品を機に東京国際映画祭に5度ほど参加。その他の監督作に「知らない、ふたり」(16)、「退屈な日々にさようならを」(17)、「パンとバスと2度目のハツコイ」(18)など。4月に公開された「愛がなんだ」(19)が大ヒットを記録。

    アイネクライネナハトムジーク
    著者:伊坂幸太郎
    発売日:2017年08月
    発行所:幻冬舎
    価格:660円(税込)
    ISBNコード:9784344426313

     

    「伊坂幸太郎さんは、小説を読むきっかけになった作家の一人」

    ――「映像化するなら今泉監督しかいない」という伊坂幸太郎さんからのラブコールを受けて製作が始まったわけですが、今泉監督も以前から、伊坂さんの小説はよく読んでいらっしゃったそうですね。

    けっこういろんなところで「普段あまり小説は読まない」と話しているんですけど、昔よりは読むようになったんですよ。それまでは、手にはするものの読書が日常に根付かない……ということが多かったのですが。それが大学を卒業した後、23歳くらいのときに、ふと「あ、小説って面白いんだ」って気づいて。

    今も読んだ本の数は少ないですけど、小説を読むようになったきっかけの一人が、実は伊坂幸太郎さんなんです。たしか最初に読んだのは『グラスホッパー』とか『チルドレン』。それから『重力ピエロ』も読んで、そういうふうに「一人の作家の作品を読んでいく」ということがそれまであまりなかったので、今振り返ってみて、きっかけになった作家の一人だったんだなと思っています。『アイネクライネナハトムジーク』は、お話をいただいたときにはまだ書きあがっていませんでしたが、大変面白く読みました。

    ちなみにこれまでの人生で読んだ一番長い小説は、町田康さんの『告白』。最近だと、今村夏子さんの『むらさきのスカートの女』を読みました。

    ――『アイネクライネナハトムジーク』を映画化することになって、プレッシャーはありましたか?

    オファーをいただいたときは「まさか自分が撮ることになるとは」と驚きましたし、プレッシャーも感じました。でも実は、お話をいただくよりかなり前から「自分が映画化するとしたら、どんなふうに撮るか」ということは考えていたんです。

    伊坂幸太郎さんの作品は映画化されているものも多いですけど、小説を読んで、映画を観たときに「これは面白いな」「うまくいっているな」と思う作品と、ほかの作品は何が違うんだろう。その差って何なんだろう、と。伊坂さんの作品って、映画になりやすいとはいっても、やっぱり前提としてすごく難しいと思うんです。

    ―― それはなぜですか?

    たとえば一つは、特徴的なセリフが多いってことですね。キザというわけじゃないけど、生身の人間がそのまま発したとき、小説だったら“面白さ”の要素の一つになっているのに、映画としてはちょっと難しいんです。現実味がなくなる可能性があるというか。

    でも「アヒルと鴨のコインロッカー」を観て、「なるほど、誰か1人のキャラクターに集約すると成立するんだな」って気づいたんです。「アヒルと鴨~」では、瑛太さんがそれをやっていました。

    なので今回お話をいただいたときから、小説に出てくるセリフをそのままその人物に言わせるんじゃなくて、そういうセリフは一真(織田一真/演:矢本悠馬)とか美緒(一真の娘/演:恒松祐里)に言わせようって決めていました。織田家にまとめる。それは、撮り始めてからも意識していましたね。

    ―― 一真のキャラクター、すごくいいですよね。彼がいるかどうかで、物語すべてが変わってしまうくらい重要な存在だなと思いました。

    矢本さんに聞かせてあげたいです。舞台挨拶でほかのキャストから、散々なことを言われていたので(笑)。

    ―― 結婚したいかというと微妙ですけど、友達だったらたまにすごく会いたくなるタイプだと思います。

    やっぱりそうなんですね(笑)。萩原利久くんは「夏休みのキャンプでだけ会える、友達のお父さんくらいの距離感ならいてほしい」って言ってました。

     

    誰一人として“脇役”にならない物語

    ―― 続いて、ストーリー構成について伺いたいです。伊坂さんの作品って、細かいところまで伏線がたくさん張り巡らされていて、回収のしかたも非常に巧妙ですよね。

    伊坂さんの筆力、本当にすごいですよね……。『アイネクライネナハトムジーク』にしても、全員なんじゃないかっていうくらい人物同士が絡んでいますし。

    なので本当は、最初は僕が脚本もやるつもりだったんですけど、挫折してしまいました。なんというか……、小さい話すらも面白くて、どう取捨選択していけばいいのか分からなくなってしまったんですよ。ただでさえ、もともとサブ的なエピソードが好きなので、断片的にはアイデアが生まれるものの「これはどうやったら一つの話になるんだ……!?」と筆が止まってしまって。

    それで鈴木謙一さんに入っていただいたんですが、そこからはもう早かったですね(笑)。映画化にあたっていくつかの要素やエピソードを組み替える際にも、たくさんアイデアをいただきました。

    鈴木謙一(すずき・けんいち)
    1971年生まれ神奈川県出身。成城大学在学中に出会った中村義洋監督との共作で2001年に脚本家としてデビュー。以降、「灰暗い水の底から」(01)、「悪夢のエレベーター」(09)、「ボックス!」(10)、「劇場版 目を閉じてギラギラ」(11)、 「グッモーエビアン!」(12)、「残穢 ―住んではいけない部屋―」(16)、「殿、利息でござる!」(16)など、幅広いジャンルの作品に参加している。伊坂幸太郎原作では、「アヒルと鴨のコインロッカー」(06)、「ゴールデンスランバー」(09)、WOWOW連続ドラマW「バイバイ、ブラックバード」に続き、本作で4作品目となる。

    ――「アイネクライネナハトムジーク」を拝見して一番印象的だったのが、三浦春馬さん演じる「佐藤」と多部未華子さん演じる「紗季」がメイン人物ではあるものの、ほかのキャラクターが決して脇役ではないということでした。

    群像劇のよさって、そこにあると思います。周りの人たちが、主人公のために都合よく存在しているわけではないというか。今回大勢のエキストラに協力していただきましたけど、僕はそもそも「エキストラ」という呼び方があまり好きではなくて。やっぱりその人たちにも自分の人生があって、誰でもよくないし、代わりのきく存在ではないと思うので。

    それから佐藤って、実は、一真の言葉に影響を受けてそのバトンを誰かにつなぐっていう、本来なら脇役みたいな役割を担ってたりもするんですよね。それくらい、「この人だけが主役」というふうには作っていないんです。

    ―― 一真はもちろん、藤間(演:原田泰造)や美奈子(演:貫地谷しほり)、そのほかどの人物にも“自分が主人公”の物語があって、それが仙台という街のなかで結びついている。本人はそれと気づいていなくても、みんな何かしらの形でつながっていますよね。映画を観た後、自分の周りの人たち、同じ街で暮らしている人たちの存在感が濃くなった気がするんです。「これまでより、もうちょっと人に優しくなりたいな」と思う作品でした。

    嬉しいです。それ、三浦春馬さんが「そうであったらいいな」とおっしゃってたことなんですよ。「映画を観たことで、自分の日常生活が今より少し誇れるものになったらいいな」「映画を観た人が、日常生活で、周りの人を今より気遣おうと思うようになってくれたら嬉しい」っておっしゃっていたので。

    それから群像劇って、「誰と誰が出会うか」も重要なんですけど、「その情報をいつ知るか」ってことも大切なんです。登場人物とお客さんが同時に知る場合もあるし、登場人物たちは知らなくて、お客さんだけが知っているという場合もありますよね。「アイネクライネナハトムジーク」にもそういう場面がたくさんあって、「この事実をどのタイミングで誰に知らせるか」は意識しました。

    そうすることで、観ているお客さんも「その街の人」になれますよね。

    ―― 今お話ししていて、“隅っこにいる人まできちんと愛情を注ぐ”という今泉監督の視点が、この映画のあたたかさを作っているのかなと思いました。

    「主人公に何か目的があってそれを達成する」という物語もいいですけど、現実には目的がない人だって多いですよね。不器用だったり、優しさがズレていたりっていう「どこか足りない人」に、僕は魅力を感じます。

    今、ものを作る仕事をしていて、誰かを救いたいというような大それた思いはないですけど、「愛がなんだ」しかり、同じような悩みを持ってるキャラクターが登場人物として当たり前に物語に現れると、「自分もそれでいいんだ」「こういう人が自分以外にもいるんだ」って思えて、ちょっと自分を肯定できるんじゃないかなとは思っているんです。

    基本的にダメな人たちをずっと描いていますけど、その人たちには確実に愛情を持って接していますね。

     

    映画と向き合ったとき生まれた、「何よりも“今“が大事」という思い

    ―― 先ほど「バトンをつなぐ」という言葉が出ました。今回の映画化にあたって、原作にはない“次の世代”のエピソードが加わっているんですよね。

    一真のセリフに「後になって、『あの時、あそこにいたのが彼女で本当に良かった』って幸運に感謝できるようなのが、一番幸せなんだよ」というのがありますよね。これって物語全体を貫く一つのテーマなんですけど、撮るにあたって脚本と向き合っていたときに、「『後になって』っていつだ?」という疑問が湧いてきたんです。

    「誰とどんなふうに出会うか」じゃなくて「あとあと、その出会いが幸運だったと思えるか」というのは確かにそうなんだけど、でも「あとあと」がいつを指すのかによって、出会ったのがその人で良かったと思えるかどうかは変わってしまうじゃないですか。たとえば藤間でいうと、奥さんと出会って、結婚して、離婚して今がある。それぞれのタイミングで「よかった」と思っていたり、「よかったのかな」と揺らいでいたりしますよね。

    そう考えると、やっぱり今を大事にするしかないんだと思ったんです。それを新たに描いたことで、もう一つ深く、このテーマを掘り下げられたんじゃないかなと思います。

    ―― その一方で、時間が経過しても変わらないものとして“斉藤さん”の存在があります。

    これはぜひ、映画を観た後にみんなで議論してほしいポイントです。つまり「斉藤さんとは何者だったのか」。

    「アイネクライネナハトムジーク」では10年にわたる物語を描いていますが、彼はその10年間に、歌う歌も、服装も変わっていない。老けてもいないです。極端にいうと“場所”のようなものとして存在しているんですけど、それを皆さんがどう捉えるのか知りたいですね。

    もしかしたら、10年もストリートミュージシャンをやってるのに鳴かず飛ばずの、悲しい人だと思う人もいるかもしれない(笑)。

    ―― 街を歩いていて、斉藤さんの存在に気づかない人もいるでしょうね。“聞こえる人には聞こえる”というような。それも、人との出会いに似ている気がします。

    ―― 最後に製作を振り返って、思い出を教えてください。

    「アイネクライネナハトムジーク」は、原作が伊坂幸太郎さんですし、名のある俳優さんたちとのお仕事だったので、やっぱりすごくプレッシャーを感じた作品ではありました。

    でも撮影休みの日に、仙台に住んでいる実姉とお昼ごはんを食べに行って「なんかすごいことやってるね~」って言われたとき、ふっと“映画監督の自分”から“家族といるときの素の自分”に戻ることができて。

    初日の撮影で使わせていただいたカフェに行ったのですが、監督として撮影をして、その際にお世話になった店員さんもいる空間で、ただの弟として存在しているという不思議さに、フラットな気持ちを取り戻すことができたんです。あれは大事な時間でした。

    それから撮影中、映画を観たくて仙台市内の映画館に行ったら、本作のカメラマンの月永さんが同じ映画を観に来ていてばったり会うという“出会い”もありましたね。本当に偶然だったんですが、そこで信頼感が生まれました(笑)。

    ――「日常を豊かにするのは、小さな出来事の積み重ねなんだな」と感じるお話ばかりでした。本日はありがとうございました!

     

    映画「アイネクライネナハトムジーク」

    【ストーリー】仙台駅前。大型ビジョンには、日本人のボクシング世界王座をかけたタイトルマッチに沸く人々。そんな中、この時代に街頭アンケートに立つ会社員・佐藤(三浦春馬)の耳に、ふとギターの弾き語りが響く。歌に聴き入る紗季(多部未華子)と目が合い思わず声をかけると、快くアンケートに応えてくれた。二人の小さな出会いは、妻と娘に出て行かれ途方にくれる佐藤の上司(原田泰造)や、分不相応な美人妻(森絵梨佳)と可愛い娘を持つ佐藤の親友(矢本悠馬)、その娘の同級生家族、美人妻の友人で声しか知らない男に恋する美容師(貫地谷しほり)らを巻き込み、10年の時をかけて奇跡のような瞬間を呼び起こす――。

    原作:伊坂幸太郎『アイネクライネナハトムジーク』(幻冬舎文庫)

    主題歌:斉藤和義「小さな夜」(スピードスターレコーズ)

    監督:今泉力哉  脚本:鈴木謙一
    出演:三浦春馬、多部未華子、矢本悠馬、森絵梨佳、恒松祐里、萩原利久、貫地谷しほり、原田泰造
    配給・宣伝:ギャガ

    9月20日(金)TOHOシネマズ 日比谷ほか全国ロードショー
    9月13日(金)宮城県先行ロードショー

    https://gaga.ne.jp/EinekleineNachtmusik/

    ©2019「アイネクライネナハトムジーク」製作委員会




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