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  • 映画「人間失格 太宰治と3人の女たち」:脚本家・早船歌江子が捉えた“3人の女”の姿

    2019年09月14日
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    日販 ほんのひきだし編集部 浅野
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    9月13日(金)、蜷川実花監督×小栗旬さん主演による映画「人間失格 太宰治と3人の女たち」が公開されました。

    本作は「太宰治の人生」に焦点をあて、太宰が代表作『人間失格』を生み出すまでを、彼と深く関わった3人の女性のエピソードを通して描き出すというもの。

    インタビュー後編では、脚本を手がけた早船歌江子さんに、この「3人の女たち」についてくわしく伺います。

    前編はこちら

    早船歌江子(はやふね かえこ)
    2010年「おみやさん7」(EX)でデビュー。「ラッキーセブン」(12/CX)、「未来日記 ―ANOTHER:WORLD―」(12/CX)、「TOKYO エアポート~東京空港管制保安部~」(12/CX)、「ビブリア古書堂の事件手帖」(13/CX)、「デザイナーベイビー」(15/NHK)などのテレビドラマや、映画「紙の月」(14/吉田大八監督)を執筆。戯曲翻訳に「OTHER DESERT CITIES」(17/梅田芸術劇場 ジョン・ロビン・ベイツ作)、「お気に召すまま」(19/東京芸術劇場 ウィリアム・シェイクスピア作)がある。

     

    太宰治を取り巻く3人の女たち

    ―― 「人間失格 太宰治と3人の女たち」は、太宰の物語であるとともに、彼と深く関わった3人の女性を描いた作品でもあります。彼女たちを、早船さんはどのように捉えましたか?

    静子さん(太宰の弟子で愛人/演:沢尻エリカ)や、富栄さん(太宰の“最後の女”/演:二階堂ふみ)は日記も残っていたので掴みやすかったですが、美知子さん(太宰の正妻/演:宮沢りえ)は難しかったですね。

    富栄さんに関しては、ある時、蜷川監督が実際にあったエピソードを話してくれたときに「それだ!」って思ったんです。言ってしまうと、「付き合う男によって自分のステータスも上がる」って考えている人。最終的にはっきり打ち出せてないですけどね。でも性格が悪いわけじゃなくて、彼女にとってそれが自然なことだったと思っています。

    「人間失格 太宰治と3人の女たち」の構成は大きく4章立てにして、その流れにのっとって太宰の変化を描いています。富栄はそのうちの第2章で登場し、そこから第3章、さらに第3章から第4章へ移るとき、大きく変化するんです。

    最初のほうは、本当に純粋な「恋」で、全力で太宰治のことが好き。でもその後“太宰の女”と認められてからは、たとえば編集者の佐倉潤一くん(演:成田凌)に対して「あら、まだいらっしゃったの」みたいなことを言うわけですよ(笑)。つまり富栄は、そういうタイプです。

    とはいえ、この2人にはすごくいい恋愛をしている時期もあって、実際に富栄さんの日記を読んでみると、1947年の7~8月あたりはすごく盛り上がっているのが伝わってくるんです。でも、周りの人にはわからないですよね。だから編集者たちからは、「ダサい」「ちょっと相手してもらってるだけなのに、先生の文学を理解できるのは自分だけだと思い込んでいる」って思われている。そのイタさみたいなものって、逆に共感できますよね。

    恋愛をしていて知らずしらずのうちに客観性がなくなっていく感じも含めて、富栄さんについては“変化”を描きました。

     

    破壊のトリガーを引いた静子

    ―― 静子さんについてはどうですか?

    静子さんは、蜷川監督の思い入れが特に強かったんじゃないかな。お母様に似ているっておっしゃっていましたし。

    私から見た静子は、「ナチュラルボーン・破壊者」。実際の人物像としては、太宰の『道化の華』に出てくる「僕はこの手もて、園を水にしづめた」がいたく心に刺さって、自分が幼い子どもを死なせてしまったことを告白小説として書きたいというモチベーションから、太宰に手紙を送って、関係が始まったというキャラクターです。ただ、彼女は構造的な長編小説を書くのがあまり得意ではなかったんですね。逆に、エッセイはすごくいいんですけど。

    ―― 太宰も、静子に執拗に「日記を見せて」と迫っていましたね。その日記がもとで、『斜陽』が生まれました。

    静子の日記は、ある感覚で始めから終わりまで貫かれているので、読んでいてすごく面白いですよ。でも物書きにも「感覚はすごく鋭いのに、それ以上にはなれない人」っていると思うんです。感度が高くても、プロとしての仕事ができるかはまた別の話なので。書きたいことがあるからポンッて書いちゃうんだけど、それを一つの構造に落とし込むには、実はそれとは別の視点が必要なんですよね。彼女自身もそこに難しさがあるという自覚があったようです。

    一方の太宰は、そういう“感覚的なもの”に対して、器を作ることが得意だったと思います。だから太宰にとっても、静子との出会いは非常に望んでいたものだったはずなんですよ。

    彼女が太宰の愛人になることを望んだのと、太宰の「『桜の園』のような作品を書きたい」という気持ちがちょうど合った。それが始まりだったと捉えています。

    斜陽/人間失格/桜桃/走れメロス
    著者:太宰治
    発売日:2000年10月
    発行所:文藝春秋
    価格:781円(税込)
    ISBNコード:9784167151119

    ―― 静子が「破壊者」だということについて、もう少しくわしくお聞きしたいです。

    彼女には、破壊衝動があったと思うんです。「人生どうなってもかまわないから、好きな人と一緒にいたい」という。

    でも当時って、皆生きるのに精一杯で、彼女自身も生きるためにお金をどうにかしなければならない状況ではあった。にもかかわらず「どうなってもいいからあなたの愛人になりたい」という静子の姿が、太宰に火をつけたんだと思います。

    太宰のほうはというと、それまでわりとうまく“家庭の日常”をやってきていたのに、静子に出会ったことで、「まあ、これくらいだったらいいかな」と何気なく壊し始めてしまったんだと思います。『斜陽』を書くために恣意的に始めた恋愛だったことはある意味間違いないんだけど、まさかたった1年半でこんなに何もかも、自分まで壊れるとは思っていなかったでしょうね。静子はそのトリガーになった人物だし、静子の手紙は、私にとっては“破壊の足音”みたいなものですね。

    しかも静子は、太宰治があとは壊れていくだけになったとき、途中でぷつりといなくなっちゃいますよね。そういうところも「破壊者」だと思います。

    ―― 欲しかったものを手に入れて退場する、あの振る舞いは鮮やかともいえますね。

    そうですよね。「日記ちょうだい」「じゃあ子どもちょうだい」っていうやりとりは、本当に最高です。太宰にとっては予測不可能な反応だっただろうなと思います。しかも小説家の業というのか、「家庭があるから」と断らないで「わかった」って言っちゃうんですよね(笑)。これはまさに、太宰の『御伽草子』の言う「性格の悲喜劇」です。

     

    美知子からにじみ出る「現実の感触」

    ―― 最後に、美知子さんについては。

    美知子さんは、何を考えていたのか分からない人ですよね。ただ、戦後のあの時代に3人も子どもを抱えて、そのうち1人は障害を持っていて、しかも夫が太宰治でしょう。たまったもんじゃないですよ(苦笑)。本当に大変だったと思います。

    脚本を書くにあたって、津島佑子さん(劇中で生まれる太宰の三女「里子」)の『山のある家 井戸のある家』を読んだんですが、そこでお兄さんのことを書いているなかに、美知子さんのエピソードがあったんです。それを読むと、大変さがよくわかると思います。

    山のある家井戸のある家
    著者:津島佑子 申京淑 金ふ我
    発売日:2007年06月
    発行所:集英社
    価格:2,090円(税込)
    ISBNコード:9784087748574

    蜷川監督自身も当時次男が生まれたばかりで、お父様のこともあったので、その大変さを自分のことのように理解していたはずです。要するに美知子さんの大変さって、置かれている状況というか“設定としての辛苦”ではなくて、赤ちゃんのおしめを変えていたらお客さんが来て、対応しようとしたら向こうで子どもが転んで……というふうに、いくつものことが重なるところにあるんです。そういう「現実味のある大変さ」さえ伝われば、それだけでこの人に寄り添えるんじゃないかなと思いました。

    美知子さんは太宰の作品を確実に愛していたし、それはのちの彼女の行動で証明されることなので、ただただ“現実の感触”を見てもらえればお客さんにもわかってもらえると思って書きました。

    ―― 美知子さんが太宰を突き放すシーンは、胸に迫りました。

    そうしなければならなかったんですよね。美知子さんは自分の気持ちを押し殺して、火を呑み込んだまま出さずに生きた人だと思います。

    でも、実際のところはわからない。そういう意味でも、「人間失格 太宰と3人の女たち」は、太宰治の人生を大胆に解釈した作品だといっていいと思います。

     

    映画「人間失格 太宰治と3人の女たち」

    9月13日(金)ロードショー

    監督:蜷川実花

    出演:
    小栗旬 宮沢りえ 沢尻エリカ 二階堂ふみ
    成田凌 / 千葉雄大 瀬戸康史 高良健吾 / 藤原竜也

    脚本:早船歌江子
    音楽:三宅純
    撮影:近藤龍人
    主題歌:東京スカパラダイスオーケストラ「カナリヤ鳴く空 feat.チバユウスケ」(cutting edge/JUSTA RECORD)
    配給:松竹、アスミック・エース

    http://ningenshikkaku-movie.com

    男と女に起こることのすべてがここにある

    天才作家、太宰治。身重の妻・美知子とふたりの子どもがいながら恋の噂が絶えず、自殺未遂を繰り返す――。その破天荒な生き方で文壇から疎まれているが、ベストセラーを連発して時のスターとなっていた。
    太宰は、作家志望の静子の文才に惚れこんで激しく愛し合い、同時に未亡人の富栄にも救いを求めていく。ふたりの愛人に子どもがほしいと言われるイカれた日々の中で、それでも夫の才能を信じる美知子に叱咤され、遂に自分にしか書けない「人間に失格した男」の物語に取りかかるのだが・・・。
    今、日本中を騒がせるセンセーショナルなスキャンダルが幕を明ける!

    ©2019『人間失格』製作委員会



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