'); }else{ document.write(''); } //-->
9月13日(金)、蜷川実花監督×小栗旬さん主演による映画「人間失格 太宰治と3人の女たち」が公開されました。
本作は「太宰治の人生」に焦点をあて、太宰が代表作『人間失格』を生み出すまでを、彼と深く関わった3人の女性のエピソードを通して描き出すというもの。
この蜷川監督ならではのアプローチは、どのように形になっていったのか。脚本を手がけた早船歌江子さんに伺いました。
早船歌江子(はやふね かえこ)
2010年「おみやさん7」(EX)でデビュー。「ラッキーセブン」(12/CX)、「未来日記 ―ANOTHER:WORLD―」(12/CX)、「TOKYO エアポート~東京空港管制保安部~」(12/CX)、「ビブリア古書堂の事件手帖」(13/CX)、「デザイナーベイビー」(15/NHK)などのテレビドラマや、映画「紙の月」(14/吉田大八監督)を執筆。戯曲翻訳に「OTHER DESERT CITIES」(17/梅田芸術劇場 ジョン・ロビン・ベイツ作)、「お気に召すまま」(19/東京芸術劇場 ウィリアム・シェイクスピア作)がある。
―― ついに映画公開となりました。脚本に着手されたのはいつ頃ですか?
お話を最初にいただいたのが2014年で、2016年の1月に脚本に着手しました。
最初の2か月くらいで資料を読み込んで、初稿が上がったのが5月頃。そこから手直しを繰り返して、間をおいてから撮影に入る前にも改稿していったので、足掛け3年くらいの間ずっと脚本を書いていましたね。
―― 最初のオファーが2014年ということですが、初めのうちは断っていらっしゃったと聞きました。
そうなんです。2度お断りしたんですが、3度目のときにお受けすることにしました。蜷川監督にお会いしたのは、2015年の年の瀬です。
というのも、当時のスケジュールの都合ももちろん理由の一つではあるんですが、私、そもそもあんまり太宰が好きじゃなかったんですよ。でも一方で、蜷川監督は本当に太宰が好きなんです。だから、蜷川監督の撮りたい物語を私が脚本にするのは難しいだろうと思ってお断りしていました。
でも池田プロデューサーは「むしろ太宰に対するスタンスが正反対だからお願いしたい」と考えていらっしゃったそうです。「クリエイターとしても、ダメンズとしても太宰治のことが好きな蜷川監督と、基本的に太宰のことが嫌いな早船さん。2人をかけ合わせると、一方的な価値観だけで作られたものではない、どちら側の人が見ても納得できる映画になるはずだ」と。池田さんとは過去に「紙の月」で一緒にお仕事をしているんですが、蜷川監督も気に入ってくださっていたようで、そのご縁もありました。
―― なるほど。ちなみに、どうして太宰治のことが嫌いだったんですか?
最初に読んだ太宰治作品が『人間失格』で、たしか高校生の頃だったんですけど「自意識過剰で気持ち悪くて、全然好きじゃない」と思って。
きっかけは姉が「新潮文庫の100冊」を夏の間に読破するという計画を立てて、家に文庫がたくさんあったのでふと手に取った、くらいの何気ないものだったんですけど、そのときの嫌悪感がすさまじかったんです(苦笑)。今になってみれば、最初に読んだのが『人間失格』だったのがよくなかったのかなとも思うんですが……。
―― しかし脚本の執筆にあたっては、太宰の作品だけでなく史実も丹念に調べることになったと思います。“作品を通して見ていた太宰治”とは違う、知らなかった姿はありましたか?
すごくたくさんあります。こんなに資料が残っている作家も少ないので、文献はたくさん読みましたね。
一番印象的だったのは「太宰治はけっこう男っぽい人なんだな」ということ。それまで「家にこもって、世間を斜めに見て、女性とグズグズ付き合って……」というイメージを持っていたんですけど、太宰と親交のあった人たちが彼について書いた資料を読んでみると、実際はたいてい男友達とつるんで飲み歩いていて、むしろやんちゃな人なのかもしれないと思うようになったんです。
「そういう面があったうえで、女性たちとの恋愛があったんだ」と思ったら、だんだん見え方が変わってきて。それが面白かったし、そういう人物なんだったら書いてみたいなと思いました。今となっては「もともと嫌いだったから、今回の作品が書けたのかもしれない」と思っています。太宰の〈弱さの文学〉がもともと好きだったら、どうしてもそこにフォーカスしてしまったはずなので。
私の考えですが、私たちが見ている「繊細で弱い太宰」は、太宰がそう見せたくて自ら作り上げた姿なんじゃないでしょうか。いろいろ調べましたが、太宰はやっぱり、何となく「本当の自分」を隠そうとしている気がするんです。
―― そんな太宰治を、映画では小栗旬さんが演じています。脚本はキャストが決定する前から進めていらっしゃったと思うんですが、小栗さんに決まったことはどのように影響しましたか?
太宰が実はやんちゃで“男子”な面を持っているという要素は、小栗旬さんが演じてくださることでうまく現れるんじゃないかなと思いました。
たとえば太宰役が東北出身の方だったら、もっと津軽弁なまりのセリフにすることもできただろうと思うんです。物語も、太宰が疎開先の実家から戻ってきたばかりの頃を出発点にしていますしね。長女の園子ちゃんも、実際にその頃は津軽弁をしゃべっていたそうです。
でもそこはやっぱり蜷川実花さんの映画なので、「女性の視点を通した太宰治という男性」を強く打ち出すことを意識して、あるときから振り切りました。最初の段階では脚本に、作家としての仕事方面のエピソード、文豪との交流なんかをけっこう盛り込んでいたんですよ。特に井伏鱒二(いぶせ ますじ)は、当初は主要人物として登場する予定でしたが、やっぱり井伏鱒二が出てくると太宰治の過去やコンプレックスをもっと描かざるをえないんですよね。なので映画では、そういう役割を凝縮して坂口安吾一人に担ってもらうことにしました。
とはいえ私自身は、太宰治はすごくコンプレックスの強い人物だったと思うし、『如是我聞』の暴れ方なんて本当にダサいなと思います(笑)。でもダサいけれど、うまく書こうとしないところ、「自分はこう思っている」ということを絶対に人に押し付けないし、「これが正しいから君もそうしなさい」と言ったはいいけどその瞬間に照れちゃう、みたいなところが人間として好きですね。
―― では続いて、作品全体について伺います。実は私、最初に「小説ではなく太宰治の人生にフォーカスして、蜷川実花さんが映画を撮る」と知ったとき、「どういう映像になるんだろう?」と思っていたんですよ。蜷川さんの作品に対して「色彩が鮮やかで、華やかで生命力がある」「被写体を色っぽく撮る」という印象を持っている一方で、太宰治に対しては「枯れている」というイメージだったので。
そもそも物語が終戦直後の1946年頃からを舞台にしているので、「どんなビジュアルにするか」という話し合いは初期の頃からあって、答えもわりと長いこと出なかった記憶がありますね。
当時太宰には2人子どもがいましたが(のちにもう1人生まれる)、小さな子どもがいる場所ではなかなか仕事ができないということで、三鷹のあちこちで間借りをしていたそうです。家主が昼間仕事に出ている間に、そこを仕事場として使わせてもらうという。実際の場所を訪れてみたりもしましたが、それも、当時の情勢として社会的な住宅難だったこともあってとても蜷川実花さんが好きこのんで撮りそうもない場所ばかりだなあと思っていました。
―― となると、脚本を書くときには、具体的な映像は想像していなかったのですか。
私は実際にそうであったろうものを想定して書きましたが、監督はどう撮るんだろうな?と。
製作初期に「どういう画にしたいですか?」と蜷川さんに聞いたとき、蜷川さんが「こういうのも撮れるんだよ」と写真集を貸し出してくれたんです。『noir』っていう写真集なんですが、それを見て全体の雰囲気というか、イメージは掴むことができました。
具体的にどういう画にするかは、撮影準備が具体的に始まってから少しずつ固まっていった感じですね。ビジュアル力の高い監督さんなので、室内のシーンのほうが面白い画が撮れるだろうなというのはスタッフ内で共通認識があったんですが、では室内メインで撮影するとしてどんなふうにするかっていうのは、私だけじゃなくて、池田プロデューサーも、蜷川監督自身もいろいろ悩んで、暗中模索のなか美術の方と話しながら答えを出していきました。
蜷川さんはこれだけビジュアル力が評価されている方なので、イメージがあるなら教えてもらえるとありがたいけど、そもそも確実に共有できるものではないと思っています。それに、私の仕事は「話を構築すること」なので、私の書いた脚本を見て「ああ撮ってみよう」「こうしたいな」というのが出てきたらいいなと思うし、実際のところその積み重ねでした。
でもいざ完成してみると、すごく蜷川さんらしい画ですよね。
―― そうですよね。そんなに長く悩んでいらっしゃったとは、驚きました。
後編へ続く 》
※9月14日(土)正午配信です
9月13日(金)ロードショー
監督:蜷川実花
出演:
小栗旬 宮沢りえ 沢尻エリカ 二階堂ふみ
成田凌 / 千葉雄大 瀬戸康史 高良健吾 / 藤原竜也
脚本:早船歌江子
音楽:三宅純
撮影:近藤龍人
主題歌:東京スカパラダイスオーケストラ「カナリヤ鳴く空 feat.チバユウスケ」(cutting edge/JUSTA RECORD)
配給:松竹、アスミック・エース
http://ningenshikkaku-movie.com
男と女に起こることのすべてがここにある
天才作家、太宰治。身重の妻・美知子とふたりの子どもがいながら恋の噂が絶えず、自殺未遂を繰り返す――。その破天荒な生き方で文壇から疎まれているが、ベストセラーを連発して時のスターとなっていた。
太宰は、作家志望の静子の文才に惚れこんで激しく愛し合い、同時に未亡人の富栄にも救いを求めていく。ふたりの愛人に子どもがほしいと言われるイカれた日々の中で、それでも夫の才能を信じる美知子に叱咤され、遂に自分にしか書けない「人間に失格した男」の物語に取りかかるのだが・・・。
今、日本中を騒がせるセンセーショナルなスキャンダルが幕を明ける!
©2019『人間失格』製作委員会