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50歳の恋愛と聞いて、みなさんはどのような恋模様を想像しますか?
甘い学園生活や、オフィスを舞台にした刺激的な恋愛ではないことは想像つきます。しかし、舞台を含めてどのような物語になるか想像しにくいですよね。
朝倉かすみさんの『平場の月』は、50歳同士のせつない恋模様を描いた小説です。
『平場の月』は発売から重版を重ね、累計発行部数は文芸書では多い10刷8万部を突破。第32回山本周五郎賞を受賞し、先日発表された第161回直木三十五賞の候補にもなりました。
登場人物は50歳の男女、地元の印刷会社で働く青砥健将と、病院の売店で働く泣きぼくろが印象的な須藤葉子。中学の頃の同級生同士だった2人は、身体の不調を感じた青砥が病院に訪れたときに再会します。
「あれ? 須藤?」
レジ係の女性は首から提げた名札をちらっと見て、うなずいた。いかにも、というようだった。いかにもわたしは須藤だが、それがなにか。
「青砥だよ、青砥」
胸元を指し、顔を突き出した。ほら、面影あんだろ、というふうに伸びた前髪を掻き上げ、少々肉はついたものの未だ細めの顔を見せた。青砥の顔はほころんでいた。愉快だった。青砥の声かけにより須藤の顔があっというまに昔に戻った。青砥の頭のなかから、ちびっこくて痩せっぽちのくせに、まっすぐ前を見て、ゆうゆうと廊下を歩く、中学生だった須藤のすがたが浮かび上がった。
「なんだ、青砥か」
須藤はちいさな顎を少し上げ、不敵というか、満足げというか、堂々たるというか、そんな笑みを浮かべた。そうだ、それだ。青砥の知っている、須藤の、いつもの、笑い顔だ。
(『平場の月』P.18より)
体調が悪く病院で再開するというのは年齢のリアリティを感じさせます。
実は離婚を経験し、同じ様な過去を抱えていた2人。学生時代の“出来事”もあり、“互助会”と称して定期的に飲みに出かけ、仲を深めていきます。
そんな青砥と須藤には転機が訪れます。
以上が簡単なあらすじになります。そして読み終わった感想は
「せつなすぎる……!!!」
小説を読み始めてすぐに、2人の恋愛がどのような結末を迎えるかが書かれています。
途中で読むのをやめたくなる辛い描写もありますが、それでもページをめくる手が止まらない引き込まれるストーリー。読み進めるうちに、最初に提示された結末を知っている読者には淡いせつなさが降り積もっていくような作品です。
そんな『平場の月』を買った方はどのような方なのでしょうか。
読者層はこちらです。
やはり50歳の男女の恋愛がテーマということもあり全体的に年齢層は高めなのが印象的。
しかし『平場の月』は若者にも読んでほしい! というのは、読んでみると年齢は関係ない恋模様が展開されるからです。
同級生の2人の会話は、お互いに調子を知ったようで、テンポもよく、小説を読んでいると50歳同士とは思えません。
さらに本作の主要連絡ツールはなんとLINE。青砥が勤務先への連絡に使用するのも、青砥と須藤のやり取りもLINEが中心です。
青砥は須藤に送ったLINEが既読になるかいつも気にかけていて、「高校生か!」と突っ込みたくなるキュンとするシーンもあります。LINEに心揺さぶられる50歳、若いですね……。
既読が付かないことに思い煩う場面は幾度もありますが、須藤への恋愛感情以上に、切実な願いに繋がっていきます。読んでいると「既読を付けてくれ……」と思わず願ってしまうほどです。
タイトルにある「平場」というのは“一般の人たちのいる場所”。「年配の方に向けた」というよりは、老若男女問わずに読んでほしい“万人向け”の恋愛小説です。