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  • 朝井リョウが描く“対立が削がれた時代”の息苦しさとは?『死にがいを求めて生きているの』

    2019年07月14日
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    ほんのひきだし編集部
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    『何者』で直木賞を受賞し、人間関係や生き方にもがく若者を描いてきた朝井リョウさん。今年3月に発売された『死にがいを求めて生きているの』では「対立」をテーマに、対極的な性格の2人の登場人物から“平成”という時代の闇を浮き彫りにします。

    朝井さんは自身が生きてきた“平成”をどのようにみているのでしょうか。

    写真:Shu Tokonami

    死にがいを求めて生きているの
    著者:朝井リョウ
    発売日:2019年03月
    発行所:中央公論新社
    価格:1,728円(税込)
    ISBNコード:9784120051715

    ▼作品紹介はこちら
    朝井リョウ最新作は「平成」の闇を描く物語『死にがいを求めて生きているの』

     

    決められたレールがない心もとなさ

    ――本作は、8組9人の作家が「対立」をテーマに異なる時代を描く「螺旋プロジェクト」の一環として生まれました。先の平成という時代を担当された朝井さんは、どのような問題意識をもっていたのでしょうか。

    企画当初は、何を描けばいいのかわからない状態が続きました。ほかの時代を担当している作家が次々にテーマを決めていくなか、平成における「対立」が思い浮かばなかったんです。

    明確な問題意識をもって、というわけではなく、平成の「対立」が思い浮かばないということはすなわち平成は目に見える「対立」が削がれた時代なのではないか、だけど人の心自体は簡単に変わらないのではないか、と考えたところからプロットが生まれました。

    ――物語は、植物状態のまま病院で眠っている智也と、彼を見舞う友人・雄介を中心に展開していきます。

    いわゆる「ゆとり世代」である2人の少年・青年時代の回想が巡るうちに、学校行事やテストで競争を重んじるリーダー気質の雄介と、冷静で世の中を冷めた目で見る智也の対照的な姿が浮き彫りになります。

    濃淡はあれ、どの登場人物にも私の思いが投影されています。智也が要所で核心を突いたことを言う一方、雄介はアンチヒーローのように描かれていますが、雄介の言葉も私のなかから這い出てきたものです。

    自分のなかで「もっと当てはまる言葉があるはず」と揺れ動きながら、キャラクターを形成していきました。

    ――運動会の棒倒しやテスト順位の貼り出しが廃止される描写は“競争より個性”を大事にする平成の時代性を表しているように見えます。

    私の世代は、相対評価よりも絶対評価が重視されてきました。平成では対立をなくす動きが進んだことで、自分の価値を確かめることがむしろ難しくなった気がします。

    外から何かを強制される苦しみとはたしかに縁遠いですが、決められたレールがない自由から発生する心もとなさには心当たりがあります。

     

    承認欲求より根深いところにある「生存欲求」

    ――まさに雄介は、競争や対立という価値観が薄れていくなかで、自らの進路を見失っていきますね。

    多様性だよ、と言われるなかで自分を定義付けようとすれば、雄介のように、手っ取り早い方法に走るのは自然な流れだと思います。

    雄介を通して描きたかったのは、衣食住の充足だけでは足りない、承認欲求よりももっと根深いところにある「生存欲求」です。

    自分で自分を定義付ける楽園めいた地獄のなかで、肉体的ではなく社会的に生きていることを認めてほしいという欲求。

    平成に起きた犯罪のなかには、そうした「生存欲求」が引き金となったものがあるのではないか、と考えてしまいます。

    秋葉原通り魔事件(2008年6月)や相模原障害者施設殺傷事件(2016年7月)の犯人の供述を見ると、自分より弱い者を否定することによって存在価値を見出す思考を感じます。

    「生存欲求」は他者や社会に刃を向くことも大いにありうると思っています。

    ※本記事は、PHP研究所発行の雑誌「Voice」2019年8月号(7月10日(水)発売)に掲載されたインタビュー「著者に聞く 朝井リョウ氏の『死にがいを求めて生きているの』」を一部抜粋・編集したものです。全文は同誌8月号をご覧ください。

    Voice (ボイス) 2019年 08月号
    著者:
    発売日:2019年07月10日
    発行所:PHP研究所
    価格:780円(税込)
    JANコード:4910080590895

    朝井リョウ(小説家)
    1989年、岐阜県生まれ。早稲田大学在学中の2009年、『桐島、部活やめるってよ』で小説すばる新人賞を受賞しデビュー。13年、『何者』で直木賞、『世界地図の下書き』で坪田譲治文学賞を受賞。そのほか『チア男子!!』『星やどりの声』『武道館』『世にも奇妙な君物語』『何様』など著書多数。




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