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7月9日(火)、伊坂幸太郎さんの最新作『クジラアタマの王様』が発売されます。
本作は伊坂さんの神髄ともいえる、エンターテインメントの王道を行く長編小説。伊坂さん自身「物語も構成もふんだんに趣向を凝らしてみたつもりです」と述べています。一体どのような内容なのでしょうか?
今回は本作について、編集を担当したNHK出版 放送・学芸図書編集部の砂原謙亮さんに文章を寄せていただきました。
「読者を楽しませたい」という思いから、作品ごとに常に自身を更新してきた伊坂幸太郎さん。ある時、打ち合わせをしていると、「ずっとやってみたかったことなんですが」と伊坂さんが語り始めたのは、小説における“仕掛けとしての絵の新しい使い方”でした。
文章に合わせて視覚的に表現するのが挿絵だとすれば、本作における絵は“小説の中に存在するひとつのピース”。あくまでも小説が主軸の構成ながら、絵は絵としてスペクタクル感あふれる活劇を描いた、独立した役割を担い、小説と絵が関わり合います。
漫画家との共作と異なるのは、伊坂さんの頭の中にある物語やアイデアを小説と絵それぞれの形態で表現している点。本作で伊坂さんは、ひと息に二歩、三歩と自身のステージを飛び越え、伊坂作品史上初、もしくは小説の表現としても類を見ない試みに挑んだと言えるのかもしれません。
一方で、ストーリーは直球のエンターテインメント小説。この世ならざる者も、反社会勢力も、殺人犯も今回は登場しませんが、徹底的に描かれた現実世界によって、誰もが抱えた経験がありそうな不安や憤りにシンパシーを感じる反面、身近な話題につい頷き、危機を乗り切れば胸がすきます。
異物混入、過熱報道、パンデミック、錯綜する情報……リアリティーを貫いているからこそ、読み手は主人公たちの言動に自然と寄り添い、徐々に加速していくストーリーと、巧みに張り巡らされた伏線がひとつの結末へと収斂していく展開に、伊坂作品の神髄とも呼べるカタルシスを体感できるはず。
目の前の危機に対して主人公たちが立ち向かう姿に、「自分だって事態を変えられる」と勇気をもらい、爽やかな読後感が心地よく残る本作。伊坂ファンも初めて伊坂作品を読む方も、ぜひお手に取っていただけたら幸いです。
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NHK出版 放送・学芸図書編集部 砂原謙亮