'); }else{ document.write(''); } //-->
『愛を知らない』は、話題作『1ミリの後悔もない、はずがない』の一木けいさんが「支配」をテーマに紡ぐ長編小説。
高校生の「橙子(とうこ)」が、周囲と衝突しながらも合唱コンクールのソロパートに挑む様子を、橙子の遠い親戚である「涼」の視点から描いた物語です。
ほんのひきだしでは一木けいさんのインタビューを掲載しています。この記事は「後編」です。
――一木さんの物語には人間の「しぐさ」が細かく描かれていますよね。例えば、橙子のクラスメイトの「青木さん」の考える時の癖である“瞬きを2回するしぐさ”が印象的でした。何か意図があるのですか?
意図はなくて、自分も何か興味深いことを聞いたとき瞬きを2回していたことがあって。「あ、いまこういう風にやった!」と思って、それを書いたんです。
――意図というよりは、自分自身がふだん何気なくしていることを物語に落とし込んでいるんですね。
そうですね。あとは魅力的なしぐさをされている方を見ているんだと思います。
――日常生活のなかの感度が研ぎ澄まされていますね。
それがですね……。書けるときは五感がパッと開いて感覚が過敏になっているんですけど、そのぶん、その日の社交性は皆無ですね。この世とあの世の間を歩いているような感覚です。けっこうしんどい。
――書くことに自分の力を集中させてしまっているということでしょうか。それによって、ほかの部分が機能しなくなっているというか。
そうですね、何でも入りやすくなっているのです。感動しやすいときや、音楽を聴いて「ハッ」てなるようなときは「書ける日」なんです。
――一木けいさんご自身に関する質問をいくつかお伺いします。小説を書くときに「大切にしていること」やこだわりはありますか?
書くときには何も考えていないです。しいて言えば「断罪しない」ということです。啓蒙活動がしたいわけではないから。
自分は謎を解くような心持ちで書いていくけれども、答えを見せたいわけじゃないので、受け手の方に任せて、好きなように読んでもらいたいです。
――『1ミリの後悔もない、はずがない』のラストも多様な受け取り方があって、それが面白いとおっしゃっていましたね。物語の「余白」に対して色んな解釈があることに、わくわくしますか?
余白を作りたい、というのは的確な表現です。書きすぎるのが嫌いだから、ださいっていうか。こうなってこうなってこう……みたいな説明は絶対したくないから、余地とか余白みたいなものを作りたいです。
――普段はどういった本を読まれますか?
山田詠美さんをずっと読んできています。金原ひとみさん、桐野夏生さんも好きです。ノンフィクションもけっこう読みます。やっぱり家族問題が多いです。毒親問題も読みます。機能不全家族のノンフィクションとか……。
漫画だと、鳥飼茜さんが好きです。
――鳥飼茜さんのどういった作品を読まれますか?
『先生の白い嘘』がすごく面白かったです。あとは、漫画ではないんですけど『漫画みたいな恋ください』という日記が最高によかったので皆さんに読んでほしいです。
――今後はどのような物語を書いていきたいですか?
依存症のことは次に書きます。あとは「自分の意志とは無関係に、ある日突然絶たれてしまう関係」というものが気になっています。
例えば離婚して、夫婦同士は自分たちの意志なんだろうけど、子どものみならず親戚同士も自分の意志に関わらず「あの人ともう会っちゃダメ」って言われることもありますよね。離婚に限らずですけど、そういう関係について不思議だなと思う部分があるので。
あとは気分転換になって楽しいのは、官能の短編を書くことです。泉が尽きないですね。シチュエーションさえ決まれば。
――最後に、今作はどんな人に手に取ってもらいたいかをお聞かせください。
「普通」という言葉に引っかかる人に読んでもらいたいです。
普通のお母さん、普通の結婚、普通の〇〇人、普通の仕事、普通の男。自分自身も引っかかるんですけど、「普通って何?」って気になる人に読んでもらいたいです。
あとはこの物語を本当に必要としている少女、少年、大人たちに届くといいなあと心から思っています。
――ありがとうございました。
高校二年生の橙子はある日クラスメイトのヤマオからの推薦で、合唱コンクールのソロパートを任されることに。当初は反発したものの、練習を進めるにつれ周囲とも次第に打ち解けていく。友人たちは、橙子が時折口走る不思議な言い訳や理解のできない行動に首をかしげていたが、ある事件をきっかけに橙子の抱えていた秘密を知ることになり—―。若く力強い魂を描き出した、胸がひりひりするような感動作。