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第15回「女による女のためのR-18文学賞」で読者賞を獲得した一木けいさん。デビュー作『1ミリの後悔もない、はずがない』は、椎名林檎さんに絶賛されるなど話題となりました。
6月12日(水)に発売された新刊『愛を知らない』は、「支配」をテーマとした長編小説。高校生の「橙子(とうこ)」が、周囲と衝突しながらも合唱コンクールのソロパートに挑む様子を、橙子の遠い親戚である「涼」の視点から描いた物語です。
今回は『愛を知らない』に込めた思いについて、一木さんにインタビューでお話を伺いました。
一木けい(いちき・けい)
1979年福岡県生まれ。バンコク在住。2016年「西国疾走少女」で第15回「女による女のためのR-18文学賞」読者賞を受賞。2018年、連作短編集『1ミリの後悔もない、はずがない』でデビュー。2作目『愛を知らない』は著者初の長編小説。
――あらすじを読むと青春小説のように思える今作ですが、橙子の生い立ちが物語全体に暗い影を落としています。読んでいて胸が苦しくなるシーンもありました。この物語を書こうとしたきっかけは何ですか?
生涯かけて謎解きしたいテーマがいくつかあります。前作『1ミリの後悔もない、はずがない』は「後悔」「罪悪感」がテーマでした。
あとは「支配」「虐待」「依存症」とか。そのなかの今回は「支配」を取り上げて、深く突撃していってみようと思いました。
――「家族問題」を取り上げているところは、前作と共通する部分ですね。
いつも家族問題のことを書きたいんだと思います。家族はどうすれば上手くいくのか、どうしてたら上手くいっていたのか、ということを。
――一木さん自身の経験が反映されているのでしょうか。
そうですね、父が厳しかったから、そういうのもあると思いますね。
そうなった原因を、生まれた環境かなとか、仕事が忙しすぎたのかなとか何かを突き止めたいんですよね。辿り着きたいというか。辿り着く手前で終わっちゃうんですけど、いつも。
――昨今の「毒親問題」を見ていると、親に対して「もっとこうして欲しかった」という思いを持った人が多いと感じます。一木さんは「親はどうしてそうなってしまったのか」という視点で考えるんですね。
そういう風に考えるようになったのは30代に入ってからですね。やっぱり親でいるのは大変だし、きれいごとだけじゃ務まらないし、イラッとするときもあるし、自分自身も、私じゃないお母さんだったらこの子の能力はもっと伸びるのでは、と時々思ったりします。
でも親になっていなくても、人や作品との出会いとかで考え方が変わっていたかもしれないですね。
――今作は、橙子がクラスメイトの「ヤマオ」から「合唱コンクール」のソロパートに推薦されるところから物語が始まります。作品のなかで音楽が重要なモチーフになっていますね。
音楽全般が、合唱も含めて好きなんです。自分が実際に高校の合唱コンクールで歌った曲が、作中に出てくる「二人の擲弾兵」だったということもあります。
高校時代、吹奏楽部に入っていたんですけど、音楽の力というものを信じています。音楽があったら人生の楽しみにもなるし、演奏するにしろ聴くにしろ、宝物になるし。信じているものを活かして書けたらいいなと思いました。
――何の楽器を担当されていたんですか?
テナーサックスを吹いていました。
――かっこいい! 一木さん自身が、これまでに音楽の力を感じた経験が実際にあったんですね。
合唱で和音を作ったりとか、吹奏楽でも楽器で合わせたり、歌手の方の歌を聴くにしても、やっぱりこみ上げてくるものがありますよね。
――ひとつのものをみんなで作り上げるという感動が、音楽にはありますよね。
――涼のピアノの先生である「冬香先生」の言葉がどれも印象的でした。包容力があってアウトローな雰囲気を持っていて、色んなアドバイスをくれる魅力的な女性です。そして彼女にも橙子と同じように、かつて「大切な人に苦しめられた」という経験があります。
冬香先生の場合は、相手はどんな関係の人だと思いましたか?
――冬香先生の言葉から推測すると、恋人だと思いました。DVを受けていたのかなと。
きっと、そんな感じですよね。
――冬香先生の人物像はどのように作られたのでしょうか。
プロットもキャラクター設定もなかったから、冬香先生やすみちゃん(涼の母親)というのは、いてほしかった大人なんです。前作にもそういう人は登場したんですけど。
親や学校の先生よりは冬香先生のほうが自由で、遠いところにいますよね。だからこそ話せることがある。
――「斜め上」の関係だからこそ出せる感情がありますよね。一木さん自身、こんな人がいたらいいな、という思いがあったのでしょうか。
いたらいいし、私もこんな風になりたいなとか、下に対して支配的なことはすまいとか、そういうことは思います。
――冬香先生の「恩にも時効はあっていい」という言葉は救いだな、と思いました。愛情とか感謝とかでがんじがらめになって逃げられないのであれば、この言葉はすごい力を持っているなと。
よかったです。「こんなにしてやったのに」とか、そういう言葉が嫌いなんですよ。「恩にも時効はあっていい」という台詞については、触れてくださる方がとても多いですね。
▼後編へ続く(6月20日(木)午前8時に公開)
・「支配」の苦しみを描く長編小説『愛を知らない』一木けいさんインタビュー【後編】
高校二年生の橙子はある日クラスメイトのヤマオからの推薦で、合唱コンクールのソロパートを任されることに。当初は反発したものの、練習を進めるにつれ周囲とも次第に打ち解けていく。友人たちは、橙子が時折口走る不思議な言い訳や理解のできない行動に首をかしげていたが、ある事件をきっかけに橙子の抱えていた秘密を知ることになり—―。若く力強い魂を描き出した、胸がひりひりするような感動作。