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  • 本屋大賞第2位『ひと』の著者が描く新たな物語!『ライフ』小野寺史宜さんインタビュー【前編】

    2019年06月13日
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    日販 ほんのひきだし編集部 川下
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    2019年の本屋大賞で第2位となった『ひと』をはじめ、心温まる優しい物語が人気の小野寺史宜さん。最新作『ライフ』は、会社を2回辞め、コンビニと結婚式の代理出席バイトで生計を立てる27歳の井川幹太が主人公です。

    「世界は空っぽなのだと思う」。そう考えていた幹太に変化を与えたのは、アパートの真上の部屋に住む“騒音親子”との出会いでした。

    今回は人と人との繋がりの尊さを描いた今作『ライフ』について、著者の小野寺史宜さんにお話を伺いました。

    小野寺史宜(おのでら・ふみのり)
    1968年、千葉県生まれ。2006年「裏へ走り蹴り込め」で第86回オール讀物新人賞を受賞し、デビュー。2008年『ROCKER』で第3回ポプラ社小説大賞優秀賞を受賞。『ひと』が2019年本屋大賞で第2位にランクイン。ほかにも「みつばの郵便屋さん」シリーズ、『それ自体が奇跡』『夜の側に立つ』など多数の著作がある。

    ライフ
    著者:小野寺史宜
    発売日:2019年05月
    発行所:ポプラ社
    価格:1,728円(税込)
    ISBNコード:9784591162903

     

    世界に期待をしなくなった主人公・幹太

    ――今作『ライフ』は、やりたいことが見つからずフリーターとして生きる幹太が「結婚式の代理出席の仕事」をしている場面からはじまります。このアイデアはどのように生まれたのでしょうか?

    前から「代理出席」の仕事に興味がありました。ある意味では出席者を騙す、微妙な仕事じゃないですか。アルバイトだとしても相当スリルがあるし、バレたらまずいですよね。他人の役をやるって普通人が生活していたら経験できないことですし。

    この仕事については前からどこかで書きたいなと思っていて、今回の幹太と結びつきました。

    代理出席のバイトって、一回やってみたい気がしませんか?

    ――たしかに、実際やったらどんな感じなのか気になりますね。ボロが出たらどうしよう……ってドキドキしそうですが(笑)

    はじめてやったときはすごいソワソワしそうですよね。自分は「小野寺」なのに、急に「吉田さん」って呼ばれて「はい」ってスムーズに答えるのが大変そうじゃないですか。絶対にミスは許されないわけで。怖いですよね。

    ――物語冒頭、そんな代理出席で他人の役をしていた幹太の「世界は空っぽなのだと思う」という言葉が印象的でした。思い通りに行かない世の中で、幹太みたいに虚しさを抱えている人は、少なくないんじゃないかと思います。

    小説がはじまってすぐにこの言葉が出てきますよね。そのあとに、幹太の両親にまつわる説明があります(※幹太のお父さんは浮気をしたことがある。その後、病気で亡くなった)。

    結局お父さんに裏切られたことは、自分ではどうしようもないことですよね。就職についてもそうで、ちゃんとやっていたのに2度も辞めることになってしまって。

    だから、幹太自身があまり世界に期待をしなくなっているんです。幹太が代理出席の仕事をしているのは、ある意味自虐的な部分もあるんだと思います。

     

    「近いけど遠い」そんな関係同士の人を描いてみたかった

    ――大学時代から同じアパートに住む幹太ですが、真上の部屋に住む家族と出会ったことで物語が急速に動き出していきます。今回「アパートのなかの人間関係」にフォーカスしたのはなぜですか?

    一回ひとつのアパートを舞台にどーんと書いてみたかったんです。『東京放浪』でも書いてますけど、アパートはほかの部屋と本当に壁一枚を隔てているだけなんですよね。それで見えなくなっているだけ。でも相当近くにいるわけじゃないですか、実際には。

    極端なことを言えば隣人と向かい合ってご飯を食べている可能性もあって。急に壁を取り払ったらすごいことになりますよね。壁が一つあって見えないだけで、いないと感じられるその関係がすごいと思っています。

    ――向かい合ってご飯を食べているかもしれないって、本当にありそうですね。壁取っ払ったら「あれっ!」みたいな。

    見えない限りはまったくの他人で、顔も名前もどんな状況の人かも知らない。もしかすると隣に死体が転がっているかもしれないわけで。アパートという住まいに前々から関心がありました。そして、「近いけど遠い」そんな関係同士の人を書いてみたいなと。

     

    「後ろ向きに前に進む」みたいな状況があってもいい

    ――『ひと』の主人公もそうでしたが、幹太はネガティブな状況下でも淡々としているイメージがあります。幹太の人物像はどのように作っていったのでしょうか。

    僕は基本的に「人は前向きじゃなきゃいけない」みたいなのがちょっと気持ち悪いと思っています。何に対してもそれが求められがちじゃないですか。

    でも僕は「後ろ向きに前に進む」みたいな状況があってもいいんじゃないかと思っています。常に前向きというのが馴染めなくて。といいつつ、『ひと』の感想を見ていると、前向きに生きるところを評価していただくものが多いんですけれども(笑)

    ――「後ろ向きに前に進む」というのは、たしかに幹太のイメージに近いと思います。

    幹太は2回会社を辞めているというのが結構ポイントです。1回辞めたあとにダラッとせず「ここで間を空けないですぐ次行こう」というのは前向き感があると思います。幹太もそれで頑張ってみるんですけど、やっぱり無理はしているから、2社目はそんなに興味のないところに行って、壁にぶつかってしまうんです。で、辞めてしまって。

    自分でも言い聞かせて無理に前向きにやってきたけど「あれ、本当にだめだった」ってなったときに、糸が切れたような状態になってしまう。幹太のイメージにはまず会社を2回辞めるというものがあって、そこから考えていった感じですかね。

     

    小説を書くときに決めていること

    ――小野寺さんの作品では、人物が初めて登場するときに名前がまずはカタカナで表され、その次に漢字を明らかにしますよね。それはなぜですか?

    例:
    「おれ、トダ。埼玉にある戸田の、戸田。そっちは何さん?」

    (本書p.52)

    これははっきりした理由があって、単純に一人称だからです。幹太の一人称で書いているから、初めて会う人の名前を漢字でわかっているはずはないので、それはしたくないんですよ。小説だから、っていうインチキになっちゃうので。

    逆に初めから漢字で書いていたら、そこに違和感を感じる人もいると思うんですよ。僕の小説はほとんど一人称で書いているので、気になっちゃうんですよね。とにかくいきなり漢字で入るというズルをしたくない、単純にそういう理由です。

    ――小説を書くときに大切にしていることやこだわりはありますか?

    大切にしているというよりは、決めていることなんですけど、毎回登場人物の名前を最初に決めています。例えばこんな男の話、という根っこしか決まっていないのに、名前を20人くらい決めて、そこからはじめることもよくあります。

    あとはとにかく話のなかで、話を動かすための「便利屋」みたいな人を出したくないというのは決めていますね。出てきたからには最後に必ず何かを残していくというのは考えています。ちょっとした会話でもいいんですけど。

    ▼後編へ続く(6月14日(金)正午に公開)
    27歳、フリーター。孤独な男が出会ったのは…『ライフ』小野寺史宜さんインタビュー【後編】

    ライフ
    著者:小野寺史宜
    発売日:2019年05月
    発行所:ポプラ社
    価格:1,728円(税込)
    ISBNコード:9784591162903

    アルバイトを掛け持ちしながら独り暮らしを続けてきた井川幹太27歳。気楽なアパート暮らしのはずが、引っ越してきた「戸田さん」と望まぬ付き合いがはじまる。夫婦喧嘩から育児まで、あけっぴろげな隣人から頼りにされていく幹太。やがて幹太は自分のなかで押し殺してきたひとつの「願い」に気づいていく――。誰にも頼らず、ひとりで生きられればいいと思っていた青年が、新たな一歩を踏み出すまでを描いた胸熱くなる青春小説。




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