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  • 「パラレルワールド・ラブストーリー」謎と愛をめぐる“わからなさ”を描く 森義隆監督インタビュー

    2019年05月31日
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    日販 ほんのひきだし編集部 猪越
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    【STORY】ある日突然、崇史(玉森裕太)が迷い込んでしまった2つの世界。1つの世界は、愛する麻由子(吉岡里帆)と自分が恋人同士。しかし、もう1つの世界では麻由子が親友の智彦(染谷将太)の恋人に…。混乱する崇史の前に現れる、2つの世界をつなぐ【謎】の暗号。目が覚めるたびに変わる世界で、真実にたどり着けるのか?

    東野圭吾さんのベストセラー小説『パラレルワールド・ラブストーリー』が、Kis-My-Ft2の玉森裕太さん主演で映画化され、いよいよ5月31日(金)に公開されました。

    2つの“世界”と“記憶”が複雑に絡み合うストーリーで、長らく「映像化不可能」といわれてきた本作。

    今回はメガホンを取った森義隆監督に、その困難な原作にどのように挑んだのかお話を伺いました。

    森 義隆(もり・よしたか)
    1979年生まれ。埼玉県出身。早稲田大学政治経済学部卒業後、2001年番組制作会社テレビマンユニオンに参加し、テレビドキュメンタリー番組を中心にディレクターを務める。08年「ひゃくはち」で映画監督デビュー。同作が、第13回新藤兼人賞銀賞、第30回ヨコハマ映画祭新人監督賞を受賞。12年「宇宙兄弟」で第16回プチョン国際ファンタスティック映画祭グランプリ、観客賞をダブル受賞。同年、テレビマンユニオンを退会し、映画、テレビ舞台、CMと活躍の幅を広げる。29歳で早逝した実在の将棋棋士・村山聖を描いた「聖の青春」(16)では第31回高崎映画祭最優秀監督賞ほか映画賞を多数受賞。

     

    作者に弄ばれ、作品世界に引き込まれていく感覚を映像で再現

    ――森監督が「パラレルワールド・ラブストーリー」の原作に出会ったのは、学生時代だそうですね。

    文庫の初版が出た1998年頃だったと思うのですが、タイトルが気になって手に取った記憶があります。喫茶店に入って読み始めたら、止まらなくなって一気読みしてしまったのですが、その時の作者に弄ばれ、混乱させられ、作品世界に引き込まれていく感覚が強烈に残っています。

    本読みで読書量は少なくなかったのですが、それまで味わったことのない読書体験だったので、撮影中も、その感覚を映像で再現できたらいいなと意識していました。

    パラレルワールド・ラブストーリー
    著者:東野圭吾
    発売日:1998年03月
    発行所:講談社
    価格:810円(税込)
    ISBNコード:9784062637251

    ――それだけ印象深い作品の映画化を手掛けられるにあたって、どのようなことを思われましたか?

    僕は読み終わった本はわりと整理してしまうタイプなのですが、この本はずっと手元においていた本のうちの一冊。映画化の話をもらった時にも、原作に呼ばれたような嬉しさを感じて即引き受けたのですが、再読してみてちょっと動揺しました(笑)。

    20代前半で読んだときには、描かれている恋愛に乗っかって、自分も一緒になって物語に入り込んでいる感じがあったんです。でも月日を経て読み返してみると、登場人物に対して30代後半なりの距離感があって、客観的な自分がいる。

    映像化することの具体的な難しさも感じたので、直感で引き受けなかったら、尻込みしていたかもしれないですね。

    ――一番難しかったのは、どんな点ですか?

    まずは脚本にする難しさですね。ストーリーの複雑さ、わかりにくさが原作の魅力でもある。でも映画を創るためには脚本がわかりにくいと周りの理解を得難い。

    しかも脚本は、一回贅肉をつけ始めてしまうと削ぐのが難しいので、できるだけ骨格だけのストイックな状態にしておきたかったんです。

    この作品は、感情と構造のバランスが肝。感情の部分を脚本に書き込みすぎると、感情がロジックを超えてしまって、構造自体の面白さが埋もれてしまう可能性がある。一方でロジックばかりになると、今度はその人物の感情が疎かになっていく。

    物語の構造をちゃんと脚本で提示したうえで、キャラクターはあえて書き込まずに、役者がどんどん肉付けしていけばいいというビジョンがありました。

     

    役者本人の資質や恋愛観がにじみ出る作品に

    ――「感情」の部分は、おもに演じる役者の方に任せられたということですね。

    特に玉森くんが演じる崇史と、吉岡さんが演じる麻由子については、キャラクターを書かなかったんです。彼らはおそらく、自分が演じる役がどんな人物であるのか、脚本では非常に捉えにくかったと思いますよ。

    人物をできるだけニュートラルな状態にしておくことで、セリフひとつとっても、役者がどう解釈するかでまったく違うものになってくる。僕は元々、この作品は演じる役者によって変わっていいと思っていて、当人が持っている資質や恋愛観がにじみ出るものにしたかったんです。

    作中では崇史、麻由子、智彦(染谷将太)の三角関係が描かれますが、ある時点で麻由子がどれくらい崇史のことを好きで、どっちにより傾いているかというようなことは、一切議論も共有もしていません。その答えは、演じている本人しか知らない。

    ――そうすると、役者の方たちも手探りで演じる形になりますね。

    そもそも恋愛ってそういうものですよね。いつの間にか好きになっていたり、どっちも好きだったり。恋愛の部分も作品の世界観も、そんな曖昧さをちゃんと残したかったんです。その部分は役者に背負わせて、僕はあえて聞かずに、彼らの心の底を見つめるような撮り方をしています。

    ――その中には、監督自身の恋愛観も反映されているのですか?

    本作では、恋と愛の両面から恋愛を捉えようと決めていました。恋は自分のためにするもので、だからこそ嫉妬したり、混乱したりする。崇史の麻由子に対する思いは、多分まだ恋の段階で、本当の意味では麻由子とつながってはいない。そこで、崇史に恋を、麻由子には愛を、智彦には狂気を背負わせてみようと思いました。

    親友と恋人への思いに悩む智彦の苦しみは容易に想像できるし、知りたいという探求心から、危険な領域に入っていく研究者としての在り方にもリアリティがある。愛とか友情で美しい包装はされていても、人間の奥底にあるものも描き出すことで、原作の世界を108分に再解釈しようとした感じですね。

    特に終盤は原作とは違う形になっていますが、最初のシーンとラストシーンは“メビウスの輪”のようにしたかった。そこで描かれている愛と記憶への問いについては、ぜひもう一度映画を初めから見て、感じていただきたいですね。

     

    主人公に“寄り添わない” 距離を取って見つめるという撮り方

    ――森監督は、「宇宙兄弟」や「聖の青春」など、男性同士の物語を描かれてきた印象があります。恋愛映画を手掛けるのは本作が初めてですね。

    ラブストーリーは撮ったことがなかったのでプレッシャーを感じていたのですが、台本が完成してキャスティングが決まっていく中で、だんだん「これって今まで僕がやってきた男2人の話でもあるな」と気づきました。

    この物語のベースには、実は男2人の友情があって、そこにミステリー的要素が注ぎ込まれることでパラレルワールドが作られてしまう。

    これまでは高校生や青年が目標に立ち向かっていく話を撮ってきたんですけれど、今回は、ミステリアスな状況に否応なく巻き込まれていく主人公に、“寄り添わない”という新たな目線を獲得できた感じがします。距離を取って見つめるという撮り方に挑戦できたのは、おもしろかったですね。

    ――監督としてコントロールするというよりは、役者から生の感情を引き出す、ライブ感あふれる現場になっていそうですね。ドキュメンタリーからディレクションを始められた、監督ならではの手法という気がします。

    僕はその映画が生まれる“場”を大事にしたいと思っています。大勢のスタッフとキャストの思いが絡み合って、テンションが高まっていく、ひとつのものを生み出していく瞬間を、その場で作っていこうという気持ちはすごく大きいですね。

    どこかで「物語の結論は変わってもいい」とさえ思っているんです。

    それより大事なのは、今回でいえば、例えば玉森裕太という人間が俳優として成長していく瞬間や、そこに向かっていく過程だったりする。フィクションを作りながら、そういうノンフィクションの部分も大事にしています。

    たとえ台詞がなくても、玉森、吉岡、染谷というそれぞれの人生を背負っている役者たちが、さらにその役の人生をカメラの前で演じきった、その瞬間を捉えたいという気持ちなのかもしれません。そこでスパークしているものがスクリーンを通して観客に伝われば、すごくいい絵になるんじゃないかなと思うんです。

     

    「この映画は持っているな」と思わせた主題歌との出会い

    ――テーマソングは宇多田ヒカルさんの「嫉妬されるべき人生」ですね。書き下ろしでないことが意外なほど、本作の世界観にぴったりの曲だと思いました。

    本当に素晴らしい楽曲と出会うことができて、「この映画は持っているな」と感じましたね。女性ボーカルがいいなと思っていたところ、宇多田さんの名前が挙がって、ぜひにとお願いしたんです。宇多田さんの歌詞が生み出す世界観やサウンド、歌声が加われば、この映画はさらに多面的なものになるなと。

    ダメ元でオファーしたらちょうどニューアルバムが出るところで、事前にこの曲を聞かせてもらったときには、「こんなにぴったりな作品が!」と震えました。

    本作は麻由子の存在がキーになる映画なので、愛を背負っている麻由子の延長線上にあるような歌がいいなと思っていたんです。麻由子の感情をも超えた世界を描くこの歌があって、「パラレルワールド・ラブストーリー」という映画が出来上がっていると思います。

    ――最後に、これから作品を観る人に向けてのメッセージをお願いします。

    昨今の日本映画にはないタイプの、スリリングで新しい映画になっていると思います。108分の中で、2つの世界が目まぐるしく変わっていき、“謎”をめぐって観客と映画が追いついたり、追い抜かれたりする。そんな「わかりにくいからこそのおもしろさ」を、ぜひ劇場に目撃しに来ていただきたいですね。

     

    映画「パラレルワールド・ラブストーリー」作品情報

    出演:玉森裕太 吉岡里帆 染谷将太 筒井道隆 美村里江 清水尋也 水間ロン 石田ニコル / 田口トモロヲ
    原作:東野圭吾『パラレルワールド・ラブストーリー』(講談社文庫)
    監督:森義隆
    脚本:一雫ライオン
    音楽:安川午朗
    主題歌:「嫉妬されるべき人生」宇多田ヒカル(Epic Records Japan)
    配給:松竹

    parallelworld-lovestory.jp

    5月31日(金)全国ロードショー

    ©2019「パラレルワールド・ラブストーリー」製作委員会 ©東野圭吾/講談社



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