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  • 密猟組織、テロリスト…アフリカゾウ虐殺の真犯人を追うノンフィクション『牙』

    2019年06月04日
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    ほんのひきだし編集部
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    第25回小学館ノンフィクション大賞受賞作である、三浦英之さんの『牙 アフリカゾウの「密猟組織」を追って』。

    本作で描かれるのは、象牙目的のために、アフリカゾウが絶滅を危ぶまれるほど虐殺されている現状と、私たち日本人にとっても「知らない」では済まされない悲惨な現実です。

    紛争や疫病の取材より危険といわれる取材に、朝日新聞の元アフリカ特派員の著者はどのように挑んだのでしょうか。その過酷な執筆の過程について、三浦さんにエッセイを寄せていただきました。

    著者:三浦英之
    発売日:2019年05月
    発行所:小学館
    価格:1,760円(税込)
    ISBNコード:9784093886949

     

    アフリカで最も危険な取材とわれる「密猟象牙」の問題を追う

    監獄内に設置されている鉄格子の向こう側で、屈強な男が私をにらみつけていた。
    「誰だ、お前は! 中国人か!」とその男は私と目を合わすなり、ものすごい形相で怒鳴り始めた。「出て行け! 今すぐ出て行け!」

    この春に刊行された小著『牙 アフリカゾウの「密猟組織」を追って』の一節だ。私はその時、アフリカで頻発しているアフリカゾウの密猟の実態を探ろうと、東アフリカ・ケニアのモンバサにある地方裁判所の監獄に潜り込んでいた。鉄格子越しに向き合った男は、インターポール(国際刑事警察機構)に国際手配され、タンザニア警察に身柄を拘束されていたケニア最大の密猟組織の「ドン」。その「ドン」が私の潜入インタビューに対し、ある「秘密」を暴露した――。

    アフリカ大陸では現在、象牙を目的とした密猟によって毎年3万頭もの野生ゾウが殺されており、このままのペースが続けば、アフリカゾウはあと十数年で絶滅してしまうといわれている。象牙の密猟によって生み出されたカネはテロリストたちの活動資金となり、無辜の市民がテロによって殺されている。

    小著『牙』は、密猟組織の「ドン」が漏らしたある「秘密」を手がかりに、アフリカで横行しているアフリカゾウの密猟の実態や、その原因となっている象牙の密猟組織の中枢に迫ろうとしたルポルタージュだ。

    殺されゆくアフリカゾウ。そのゾウたちを絶滅の危機からなんとか救おうと闘う現場の人々。密猟に国家ぐるみで関与している中国政府。象牙市場を死守しようとする日本政府。その背後で絡み合う幾つもの影や広がる闇を、2年半に及んだ現場取材や当事者のインタビューによって解き明かしていく。

    私がアフリカ特派員としてアフリカ大陸に赴任した2014年秋、フランスの通信社に勤務するベテランのアフリカ特派員からこう告げられた。
    「アフリカで最も危険な取材はね、内戦国の紛争地取材でも、発展途上国の疫病感染地取材でもない。きっと象牙密猟の取材だよ」

    理由を尋ねると、彼は平然とこう述べたものだった。
    「紛争取材や疫病取材は、事前に現地の状態を把握しておけば、ある程度、危険を回避することができる。一方、象牙の取材は取材相手が闇に潜んだ国際シンジケートだ。一度命を狙われたら最後、この大陸にいる限り、彼らからの攻撃を完全に防ぐことは事実上不可能に近い……」

    第25回小学館ノンフィクション大賞を受賞し、本作品を書籍化する際、編集担当者が帯に次のようなコピーを記してくれた。

    《密猟組織のドン、過激派テロリスト、中国大使館員、日本の象牙業者――虐殺の「真犯人」は誰だ?》

    巻尾でその犯人を目撃したとき、読者は自らの押し入れにしまわれている印鑑を確認しに走るに違いない。

    三浦英之 Hideyuki Miura
    1974年、神奈川県生まれ。朝日新聞記者。ルポライター。南三陸駐在、アフリカ特派員などを経て、現在は福島・南相馬支局員。2015年、『五色の虹 満州建国大学卒業生たちの戦後』で第13回開高健ノンフィクション賞を受賞。18年、『日報隠蔽 南スーダンで自衛隊は何を見たのか』(布施祐仁との共著)で第18回石橋湛山記念 早稲田ジャーナリズム大賞、本作で第25回小学館ノンフィクション大賞を受賞。著書に『水が消えた大河で JR東日本・信濃川大量不正取水事件』『南三陸日記』がある。写真左はケニアの取材助手のレオン氏。




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