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史上初のゴールデンウィーク10連休も終盤。お出かけしていた方も、そろそろおうちでのんびりしよう……と思っている頃ではないでしょうか。
ほんのひきだしでは「10連休読むならこれしかない!」と題し、さまざまな出版社の文芸編集者に「10連休に読むなら?」というテーマでおすすめ本を選んでいただきました。
今回本をご紹介いただくのは、筑摩書房 第一編集室の山本充さんです。
笹井宏之の短歌を初めて知ったのはいつだっただろうか。初めて太陽を、あるいは雨を、風や雲を知った日を覚えていないように不思議と覚えていない。誰もがそうなんじゃないかと思う一方で、記憶を掘り起こすと、たぶん穂村弘さんが、すごい新人が現れたということで紹介していたのを見て(たしか「「はなびら」と点字をなぞる ああ、これは桜の可能性が大きい」が取り上げられていたはず)、それこそ初めて穂村弘の短歌を読んだときみたいなシビれるような爽快さにうたれ、このひとの短歌をもっと読みたい、このひとをもっと知りたいと思い、Book Parkより刊行されていた第一歌集『ひとさらい』の通販を申し込んだのは2008年の初夏か夏だったような気がします。
21世紀にもなって、つまりニューウェーブ短歌や現代詩のさまざまな試行錯誤を経た上で、こんなふうに中也や賢治や啄木や白秋といった近代詩のカノンと見まごうような平易な言葉による普遍性と愛唱性を持つ「うた」が作られるとは夢にも思わなかったので、その後ほどなく訃報がもたらされて、逆説的にそれを実際に作ったひとが実在していたことを実感し、同時に深い喪失感を抱いたのでした。
それから日が経って、3回忌にあわせてベスト歌集である『えーえんとくちから』、そして遺稿集である第二歌集『てんとろり』が刊行され、年を追うごとに鮮烈にしてどこか懐かしい笹井ワールドが静かに力強く広がりを見せるなかで、没後10年を迎える今年、『えーえんとくちから』を文庫版として、より若いひとたちが手に取りやすいかたちで世に送り出せたのは本当に嬉しいことでした。
出来た見本を届けに、笹井さんがその生涯を過ごした佐賀県有田町のご実家にうかがったとき、道すがらの光に、葉ずれの音に、吹きつける風の匂いに、まるで笹井さんの短歌を読んだかのような心地になりました。この本がずっとこの世界にありつづけるなにかに、あらためて気づく契機になってくれればと思います。
内容紹介
「えーえんとくちからえーえんとくちから永遠解く力を下さい」「「はなびら」と点字をなぞる ああ、これは桜の可能性が大きい」 ――この世界への鋭敏で繊細なまなざしから生まれたやさしくつよい言葉たち。彗星のように短歌界にあらわれ、二〇〇九年、惜しまれながら二十六年の生涯を閉じた夭折の歌人のベスト歌集が没後十年を機に未発表原稿を加え待望の文庫化。(筑摩書房公式サイトより)
次回は【講談社 文芸第一出版部 須田美音さん】のおすすめ本です!