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  • 春、主人公が家を出て彷徨い始める季節に:文芸編集者が選ぶ「10連休読むならこれしかない!」vol.13

    2019年05月04日
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    ほんのひきだし編集部
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    史上初のゴールデンウィーク10連休。

    ほんのひきだしでは「10連休読むならこれしかない!」と題し、さまざまな出版社の文芸編集者に「10連休に読むなら?」というテーマでおすすめ本を選んでいただきました。

    今回本をご紹介いただくのは、新潮社 編集委員の寺島哲也さんです。

     

    まるで映画の1シーンのように

    新潮文庫版『騎士団長殺し』第2部(3巻4巻)が4月1日に発売され、全4冊が揃いました。単行本の装幀では描かれた剣(チカツタケオさんの絵)がモチーフでしたが、文庫では読みやすい厚さの4分冊にし、カバーには写真を使うデザインとしました。
    1巻は緑濃い山道のカーブを上る車、2巻は闇の中に広がる星空……日本画のように靄に包まれた森の写真をあしらった3巻、雨に濡れたガラス窓が何かを暗示する4巻。
    『1Q84』の時もそうでしたが、長編小説が文庫版になる時にはカバーデザインや帯の文章も考え直します。文庫化する時には、すでの物語の筋を知っている読者も多いからです。

    初めて『騎士団長殺し』を読んだとき、丁寧に描写された建物、主人公が暮らす場所の風景に魅了されました。さらに一人称で語られるユーモアと冒険に満ちた物語は、まるでわくわくする展開の映画を観ているようでした。今回の文庫版は、書店に並んだ4冊から村上ワールドの映像的なイマジネーションを感じていただければありがたいと思っています。

    そう言えば2年半前、『騎士団長殺し』の編集も佳境に入った頃、小田原の町と森を訪ねました。小説に出てくる海を望む小高い山、緑濃い森の小径や谷のイメージを求め、最初は箱根登山鉄道で、2度目はクルマで行きました。小田原を離れて、山梨の冨士の風穴へも入ってみました。
    小説に描かれた想像上の場所でも、舞台となった辺りの空気に触れると、小説の世界が自分にしかわからない手触りで浮かび上がります。孤独な主人公の「私」を蘇生させた風景、古いレコード、奇妙な隣人と不思議な少女、そして騎士団長……。

    春、物語では主人公が家を出て彷徨い始める季節です。文庫も刊行されたので、またいつか小田原を訪ねて、村上的世界を体感したいと思っています。個人的に好物の蒲鉾を買うのも忘れずに。

    騎士団長殺し 第1部顕れるイデア編 上
    著者:村上春樹
    発売日:2019年03月
    発行所:新潮社
    価格:605円(税込)
    ISBNコード:9784101001715

    内容紹介
    その年の五月から翌年の初めにかけて、私は狭い谷間の入り口近くの、山の上に住んでいた。夏には谷の奥の方でひっきりなしに雨が降ったが、谷の外側はだいたい晴れていた……それは孤独で静謐な日々であるはずだった。騎士団長が顕(あらわ)れるまでは。

    (新潮社公式サイトより)

    次回は【中央公論新社 文芸編集部 高松紀仁さん】のおすすめ本です!

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