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時間はたっぷりあるけれど、特に予定はない。さて何をしようか……。そんな休日には、普段なかなか手の出せない長編小説を読み耽り、贅沢な時間を味わうのがおすすめです。
というわけで今回は、大型連休などに腰を据えて読みたい「おすすめ長編小説」を7作ご紹介します。
選定基準は「合計1,000ページ以上であること」「作品の傾向・ジャンルがなるべく重ならないこと」の2点。ページ数の少ない順に紹介します。充実した読書体験の助けとなれば幸いです。
1924年、世界初のエヴェレスト登頂を目指し、頂上付近で姿を消した登山家のジョージ・マロリー。登攀史上最大の謎の鍵を握るマロリーのものと思しき古いコダックを、カトマンドゥで手に入れた写真家の深町誠だが、何者かにカメラを盗まれる。行方を追ううち、深町は孤高の登山家・羽生丈二に出会う。羽生が狙うのは、エヴェレスト南西壁、前人未到の冬期無酸素単独登攀だった。
(KADOKAWA公式サイト『エヴェレスト 神々の山嶺』より)
伝奇、格闘、幻想、歴史、ホラー、SFなど、さまざまなジャンルの小説を書いてきた夢枕獏さんによる山岳小説。山にすべてを懸ける男たちの熱い想いが衝突し合う、重厚な人間ドラマです。
伝説的なクライマーとして描かれる羽生は、決して英雄でも人格者でもありません。ですが、人が文字通り何かに命を捧げる姿というものは、あらゆる理屈を超えて人の心を動かすのだと強く感じさせる作品です。
読後はきっと、誰しも山に登ってみたくなるはず。
二〇一一年春、九人の北朝鮮の武装コマンドが、開幕ゲーム中の福岡ドームを占拠した。彼らは北朝鮮の「反乱軍」を名乗った。慌てふためく日本政府を尻目に福岡に潜伏する若者たちが動き出す。
(幻冬舎公式サイト『半島を出よ(上)』より)
「北朝鮮の工作員が、福岡ドームの武力制圧を皮切りに日本侵略を進めていく」という内容の、社会派エンターテインメント。村上龍さんが得意とする政治や経済に関する緻密な考察とシミュレーションが、フィクションの枠を超えた真実味を与えています。
日本政府の首脳や北朝鮮の特殊部隊員、野営地として北朝鮮側に接収された病院の医師など、さまざまな人物の視点で事件が多角的に描かれているのも特徴のひとつ。この事態に立ち向かうのが「過去に凶悪犯罪を起こし、社会から隔絶されて暮らす少年少女たち」というのも痛快で、「外敵がもたらす日本の危機に、変わり者たちが団結して挑む」という点では「シン・ゴジラ」を彷彿させるものがあります。
コネティカットの農家に長男として生まれたアダム・トラスク。暴力を嫌い、つねに平穏を求める従順な青年に育ったが、厳格な父サイラスの愛を渇望する腹違いの弟チャールズに虐げられ、辛い日々を送っていた。サイラスは息子の弱さと兄弟の不仲を案じ、アダムにインディアン討伐の騎兵隊に参加するよう命令するが……。
(早川書房公式サイト『エデンの東(1)』より)
「アメリカ文学の巨人」と称される、ジョン・スタインベックの代表作。もはや“古典”といってもいい名作で、旧約聖書のカインとアベルをモチーフにするなど「高尚な文学」という佇まいもありますが、だからといって怖気付く必要は一切ありません。というのは、本作が「すぐに感情移入して読み進められる作品」だからです。
土屋政雄さんによる翻訳が非常にこなれていて読みやすく、アメリカの広大な土地を舞台にしたスケールの大きさを持ちながら、同時に、父と子の間の愛情や確執といったパーソナルな主題を扱っているのがポイント。
主人公ら家族の波瀾万丈な運命の流転を、最後まで見届けたくなります。
過去へ旅することのできる「扉」の存在を知った男はケネディ暗殺阻止に挑む。キングにしか書けない壮大な物語。
(文藝春秋公式サイト『11/22/63(上)』より)
SFやファンタジーで幾度となく使われてきた「タイムトラベル」という素材を、大衆文学の巨匠 スティーヴン・キングが巧みに調理した一冊です。
本作の最大のカギは、過去へタイムトラベルできる「扉」が1958年9月9日にしか繋がっていないこと。そして、現在へ戻ったあと再び過去の世界へ行くと、以前に行なった歴史改変がすべてリセットされてしまうということ。
主人公の目的は「ケネディ暗殺の阻止」ですが、事件発生はタイトルにもなっている「1963年11月22日」。すなわち過去の世界へ行ったうえで5年以上過ごさなければならず、もし失敗した場合、過去の世界で過ごした5年間が水の泡になるだけでなく、己の肉体も5年分老いてしまうのです。それでもなお歴史改変に挑む主人公は、当然数多くの困難に直面することになり……。
キングのキャリアにおいて、ひとつの大きな達成といえる大作です。
1000年後の日本。豊かな自然に抱かれた集落、神栖(かみす)66町には純粋無垢な子どもたちの歓声が響く。周囲を注連縄(しめなわ)で囲まれたこの町には、外から穢れが侵入することはない。「神の力(念動力)」を得るに至った人類が手にした平和。念動力(サイコキネシス)の技を磨く子どもたちは野心と希望に燃えていた……隠された先史文明の一端を知るまでは。
(講談社公式サイト『新世界より(上)』より)
『青の炎』や『悪の教典』などでも知られる貴志祐介さんの、不動の人気作。
作品冒頭を読んだ限りでは「少年少女を主人公にした冒険活劇」とも受け取れますが、序盤の終わり頃に明かされる世界の真実のおぞましさ、まさに「世界の底が抜けた」ような感覚が貴志祐介さんならではです。
それに続く怒濤の展開や残虐描写のオンパレード、人々を待ち受けるあまりに過酷な運命は、読者に息もつかせません。日本SF大賞を受賞しているという事実も、この小説の価値を保証しています。2012年には漫画化・アニメ化され、こちらも人気を博しました。
人口わずか千三百、三方を尾根に囲まれ、未だ古い因習と同衾する外場村。猛暑に襲われた夏、悲劇は唐突に幕を開けた。山深い集落で発見された三体の腐乱死体。周りには無数の肉片が、まるで獣が蹂躙したかのように散乱していた――。闇夜をついて越して来た謎の家族は、連続する不審死とどう関わっているのか。殺人か、未知の疫病か、それとも……。超弩級の恐怖が夜の帳を侵食し始めた。
(新潮社公式サイト『屍鬼〔一〕』より)
過疎化の進む集落を舞台にした純和風ホラー、というだけでその手の作品が好きな方は飛びつくはず。
『屍鬼』の最大の特徴は「登場人物の多さ」にあり(名前のある人物だけで100人をゆうに超えます)、彼らの目を通して事細かに描写される村のようす、その積み重ねが「気づいたらまったく異質な世界に置き換わってしまっていた」という絶望と恐怖を生み出しています。
村に生じた小さな違和感が、やがて不可逆的に村を覆い尽くしていく。その先に待っているものとは……? あまりの絶望で日々の生活に支障をきたしかねないため、連休が終わってしまう前に読了することをおすすめします。
なお『屍鬼』も、2008年に漫画化、2010年にTVアニメが放送されました。
クリスマス未明、一人の中学生が転落死した。柏木卓也、14歳。彼はなぜ死んだのか。殺人か。自殺か。謎の死への疑念が広がる中、“同級生の犯行”を告発する手紙が関係者に届く。さらに、過剰報道によって学校、保護者の混乱は極まり、犯人捜しが公然と始まった――。拡大する事件を前に、為す術なく屈していく大人達に対し、捜査一課の刑事を父に持つ藤野涼子は、級友の死の真相を知るため、ある決断を下す。それは「学校内裁判」という伝説の始まりだった。
(新潮社『ソロモンの偽証』特設サイトより)
クラスメイトの死の真相を突き止めるために、「学校内裁判」を開くことを決意した中学生らの姿を描く作品。弁護人をつとめるのが中学生なら、検事も中学生。彼らが彼らなりに力を結集して証言を集め、事実関係を整理しながら“闇に葬られた真実”に近づいていく過程は、ミステリーでありつつ、青春ものとしても読むことができます。
また、なんといっても登場人物が魅力的。主人公・藤野涼子やキーパーソンの神原和彦は、いずれも中学生離れした知性と行動力を発揮しますが、同時に幼さの抜けきらない部分もあわせ持つリアルな中学生像も見せてくれます。
全6巻・3部構成で3,000ページ超という大長編ですが、途中で読みさすことはできないだろう作品。「八日目の蝉」の成島出監督によって、2015年に映画化されました。
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今回紹介した作品は、いずれも劣らぬ秀作揃い。物語の世界に夢中になるあまり「休日が終わっても現実に帰ってこられない」などという事態にならないよう、十分ご注意ください。